20 二人への説明と進展
持田さんとMioさんとの念話から15分ほどが過ぎ、二人が同意書とやらにサインをし終えたのか、別室にいた亜翠さんと合流したようだった。
『それじゃあ、現実では私の事務所社長の川森幸利含め、皆が自己紹介してるけど、テレパシーで軽く説明するね』
そう亜翠さんが宣言し、説明を始める。
『まず、二人は救世主候補である小日向拓也くんの8人いるパートナーの一人として選ばれました。あ、私もその内の一人だから安心してね』
『救世主候補……?』
持田さんが怪しむような声で疑問を挟む。
『うん。彼にはこうやってテレパシーをしたり、地球の危機を警告したり、万物の理論に関しての助言をしたりする能力があると言われています』
亜翠さんが、恐らくは絶対命令権限についてはあえて省いて説明した。
『それで、なんで私達がそのパートナーに選ばれたんですか?』
Mioさんが何もわからないといった声色で問う。
『それは……たっくんなんとか言ってよ』
革命のレヴォルディオンについて説明するのが億劫なのか、亜翠さんが俺に振る。
『それは……たぶん俺がお二人の声や演技、キャラを好きだからですかね?』
曖昧にそう答えると、俺は現実でぽりぽりと頬を掻いた。
『本当は説明すると面倒ないろいろなことがあるけれど、いまは省きます。とにかく救世主候補のパートナーにあなた達は選ばれたんです。じゃあ現実の方でも同じ説明をしますね』
亜翠さんが強引に説明を進め、二人は『……分かりました』と答えた。
そして暫くして、現実での説明が終わったらしい。
『以上です。テレパシーと説明同じだったでしょう?』
『はい……確かに。でも救世主候補のパートナーだなんて信じられません』
『私も……!』
持田さんの冷静な言い分に、Mioさんが乗っかる。
『まぁ、それはおいおい自覚を持ってくれればいいと思う』
亜翠さんが昔の自分に言い聞かせるように言うと、会議は現実での議題にシフトしていく。
亜翠さんによれば、山丸教授の地球寒冷化モデルに、俺が指摘した海洋植物プランクトンによる寒冷化作用を加えた新しいモデルのスーパーコンピュータを用いた簡易シミュレーションが終わったという。
『結論から言って、地球はあと二十年しない内に深刻な寒冷化が起き始めるという暫定結果となりました』
亜翠さんが発言をそのまま述べる。
『え? マジですか。俺としては2051年以降が寒冷化の本番だと思っていたんですが……』
『どうもそういうことらしいよ? たっくん、レヴォルディオンでは2051年以降どうなる予定だったの?』
亜翠さんがレヴォルディオンのこの先の展開を聞いてくる。
『某気候変動映画みたいに、数ヶ月しない内に一気に氷河期に突入するって予定でした』
『某気候変動映画?』
『はい』
『あ、私知ってるかもしれません。ニューヨークに取り残された息子を救いに行く話ですよね?』
Mioさんが思いついたように映画の内容を言い、俺は『それです!』と鋭く同意する。
『俺には映画みたいに苛烈な冬の台風が氷河期を齎すかは分かりません。あくまで予測は極渦の強化によるものだと思います。映画だと台風の引き起こすダウンバーストで、人間すら凍りついて死んじゃったりしてましたけど、それが起こるかは不明です』
『へぇ……それ報告しよう。映画のタイトル教えて』
亜翠さんが聞くと、Mioさんがタイトルを教え、議論は更に深まっていったようだ。
『映画のようになるかは不明ですが、彼が齎してくれた地球寒冷化についての警告は日本や同盟国に、著しい影響を与えるのは間違いありません、以上が山丸教授の研究チームからの報告です』
亜翠さんがお役人の報告を復唱し、会議の矛先は再び新たなパートナーである二人に向いたらしい。
『え? 私達もなにか小日向さんと話して得られたことがないかって聞かれてますけど、どう答えたら良いんでしょう?』
持田さんが心配そうに聞く。
そんなことまだ全然ないのにな。時期尚早というものだ。
『あぁ……纏女ちゃんや伊緒奈ちゃんから、たっくんの理論の詳細についての報告がきたことがあるから、何か期待してるんだと思う。今のところないですって適当に答えちゃっていいよ』
『分かりました……纏女ちゃんや伊緒奈ちゃんもいるんですか?』
『うん、それと矢張ちゃんと、立日ちゃんもいるよ』
亜翠さんが答えると、Mioさんが『おぉ、同級生が3人もいる!』となんだか嬉しそうだ。
『亜翠さんの事務所は社長の川森さんも来てますけど、ウチはいいんですかね?』
『あ、それ私も気になってました』
持田さんの疑問に、Mioさんも乗っかると、亜翠さんが『私の仕事、かなりたっくんに関係した会議に参加することで遅らせて貰ったりしてるんだけど、その関係上どうしても川森さんには話さなきゃいけなかったんだよね……みんなももしかしたらそうなるかもだよ?』と会議に声優の川森幸利社長が参加していることについて、亜翠さんが説明する。
『噂をすればなんとやら……たっくんウチの川森社長が僕とも話が出来ないかだってさ』
『え? 川森さんがですか? 願ってもないですけど』
俺は朝食後のコーヒーを一口飲むと、川森さんをイメージした。
会議に参加しているだけあって、川森さんのイメージはカラーのようだ。
『川森さん、聞こえますか?』
『おぉ……聞こえるよ。小日向拓也くんかい?』
川森さんはその美しいテノールボイスを俺の脳内で奏でる。
『はい。小日向です』
『そうか……やはり本当なんだね。テレパシーっていうのは』
『はい……そうなります』
『それで? ウチの亜翠とはどうなの?』
『えっと、仲良くさせてもらってます。亜翠さんには色々とまとめ役みたいなことをやってもらってるって聞いてます』
『うん、まぁね。それでこっちはスケジュール調整が難航してるんだけどね』
『す、すみません』
『いや、君が謝ることじゃないさ。ところで小日向くん。8人必要な内の最後の一人は決めたの? いま現場にいる持田ちゃんとMioちゃん加えても7人じゃん?』
T2のことは説明されていないのか……?
まぁ、非現実的なことを言っている自覚は俺にもあるし、仕方がないか。
T2はこことは違う別の世界に実在する……それが俺がT2を最後の一人に選んだ本当の理由だ。だからT2以外を選ぶつもりはない。
『あ、はい……最後の一人は決めてあります』
『ふーんそっか。ウチの瀬尾みのりなんかどうかと思ったんだけどね、知ってるかい?』
『あ、はい。【信長くんの復讐】とかで声を聞いて、結構好きになりました』
『そうか、そうか……。彼女を救世主のパートナー最後の一人にどうかと思ったんだけどね。でももう決めてるなら仕方ないか』
『はい。すみません……』
『いや、別に謝ることはないよほんとにね。まぁ、何をやるのかは分からないけど頑張って!』
『はい。ありがとうございます』
俺が川森さんにお礼を述べると、亜翠さんが『ごめんね。ウチの社長が変なこと言って、事務所でも瀬尾みのりちゃん推してるからさ』と謝ってくれたが、別に謝られることでもないと思ったので、『全く問題ないです』と返した。
持田さんとMioさんといえば、『凄い、本当に川森さんの声がする』と興奮している様子だ。
そして最後に話は超震災と俺が名付けている、南海トラフ相模トラフ超連動の話題となった。
『たっくん確か前に寒冷化と関連して地震が起きる可能性があるって総理に言ってたじゃん? それについて教えてくれって』
と亜翠さんが俺に説明を求めた。
『まず、銀河宇宙線が地震や噴火を誘発するんじゃないかって話は古典物理学的にもあり得る話だと思うので、置いておきます。寒冷化が地震を誘発するのでは? って話を説明しますね』
俺はそう言うと、亜翠さんに説明を始める。
『まず地表付近は水蒸気による温室効果や海洋植物プランクトンによる余剰熱によって温暖化しますよね。これによって、水蒸気は大量に大気に供給されることで偏西風の蛇行や極渦の強化を齎すと俺の理論から予測してます。これってつまり、大気質量の大幅な増大でもあるんです』
『確かに……水蒸気になった海水がそのまま乗っかるようなものだね?』
亜翠さんが理論を理解したようだ。俺の理論を何度も聞いて分かってるんだろう。
『はい。つまり対流圏で殆どが雨や雪として地表に再び循環するまで、局所的に大気圧が強い状態であるっていえるわけです。これによって地表のプレートにも負荷が掛かってきて地震に繋がるってわけです』
俺は更に続ける。
『そして高層大気は冷えて収縮していることが観測されています。まず大気を地球にとってのコンデンサであるって考えると、コンデンサーの限界を超える電圧がかかったときに絶縁破壊を起こして電流が流れるって考えるわけです。つまりはこれが落雷です』
『うん……そのまま伝えてるから続けて』
亜翠さんが先を促す。
『植物プランクトン寒冷化理論による大気組成の酸素と水蒸気の増加という変化によって、このコンデンサーの限界が下がっていることが窺えます。また高層大気が収縮したことで、より下に落雷が遷移する結果となって、地表に届く落雷が増えているでしょう。これが地表付近まで続く落雷の増加に繋がっているというわけです。つまり、この増えた落雷が地電流にも影響を与え、地震が発生しやすくなるというロジックだと俺は考えています』
俺は最後に『これらは完全に妄想ですが、植物プランクトン寒冷化理論によって起きる一連の現象で、見事に繋がっているというのが俺の考えです』とまとめた。
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