11 電話番号
部屋に持ってきていたアイスを食べ終えた俺は、いつものようにベッドに横になると、熊総理へと念話を飛ばした。
『熊総理、先程母が帰ってきましたけど、特に何も言われませんでした』
『そうか……やはり君の家の3km圏内に入ったものは、この件に関する記憶を失うみたいだね』
『まぁ、皆さんにとってはそうなのかもしれませんね。俺はこれは統合失調症の幻聴か、あるいはみなさんがいる世界とは別の世界なのかなって思ってます』
そう告げる。だって連絡は取れないじゃないか。
『そうか……まぁ、君に連絡がまるで取れないのだからそう思うのも無理はない。私だって最初、亜翠さんから電話があるまでは病気を疑っていたからね。まぁ、そう急ぐな小日向くん。我々も君となんとか連絡を取れないか奮戦しているんだ』
熊総理はそう言って俺を励ましてくれた。
『そう言えば、パルヴァンさんとの連絡は取れましたか?』
俺は幻聴でのこととはいえ、気になっていたので熊総理に聞く。
『いや……今のところ外務省の方にも連絡はないね。まぁね小日向くん。ワシントンD.C.とは時差が14時間もあるんだ。彼にとっては小日向くんと連絡を取ったのは夜22時頃であることを考えると、まだ彼は寝ていて起きてすらいないだろう』
熊総理がそう時差を指摘する。
確かにパルヴァンさんが行動を始めるのは早くて朝の7時頃だろう。
となると、こちらが21時頃になって外務省に連絡が来ると言うのが予測できた。
『そう言えば、たっくん。寝ている人にテレパシー送ったことってある?』
熊総理の言い分を聞いていたのか、亜翠さんが疑問を放つ。
『いえ……ないですね。パルヴァンさんにやってみましょうか?』
『うん、やっちゃえやっちゃえー』
香月さんが乗り気だ。
『じゃあ、やってみます。今ワシントンは深夜2時頃だからたぶんパルヴァンさんは寝てるはず!』
パルヴァンさんには寝ているところ悪かったが、実験してみることにした。
『ヨレド・パルヴァンさん……聞こえますか? 小日向です』
するとすぐに返事があった。
『あぁ……聞こえている。俺は今寝ているはずだが、どういうわけかコヒナタ、君の声が聞こえる……なんだ、テレパシーというのは本当なのか?』
『さぁ……俺には本当かどうかはなんとも言えないですけど、寝ている時でも念話できるってのは驚きですね』
『ん……? 今までやったことはなかったのか?』
『はい。パルヴァンさんが初めてです』
『そうか……それはまぁいいが。それでどうした、緊急の用事か?』
『いえ、別に緊急ってわけではないんですけど、外務省へ連絡は取ってもらえたのかなと』
『いやまだだ。こんな馬鹿げた話で職員を深夜に使うわけにも行くまい。時差もある。朝起きて一番に連絡しようと考えていた。ふぅ……いま目が覚めたぞ』
『あ、すみません急に……』
『いや……構わん。ちょうどトイレに行きたかったんだ』
パルヴァンさんとそんな話をしていると、まだ繋げたままだった熊総理が割り込んできた。
『ヨレド・パルヴァンさん。お久しぶりです。熊新造です』
『これは……本当ですか? しかし確かに声は日本の熊総理のようだが……』
『はい。熊で間違いありません。お休み中に失礼しました。外務省の方へ小日向くんの名前を出して頂ければ、私の方に繋がるようにはなっていますので、どうか安心してください』
『日本による新手の諜報攻撃というわけではないのですね?』
パルヴァンさんはそんなことを心配していたようだった。
『はい。もし我が国にこんな技術があれば、もっと有効活用したいところですが、残念ながらそうではありません』
熊総理が苦笑する。
そんな超技術が開発されていたならば、きっと諜報活動以外にも様々なことに応用できただろう。
『そうですか……失礼だが、いまそちらから私に直接連絡を入れて貰うことは可能ですか?』
『それは……出来るかは分かりませんがやってみましょう』
熊総理がそう応え、パルヴァンさんが国際電話番号を教える。
そして熊総理も『私の電話から掛けることになるので番号はこちらになります』と自身の電話番号を教えた。
しかし、俺には亜翠さんと熊総理の時もそうだったが、その番号がまるでデタラメに感じられていた。
『では掛けます』
熊総理がそう宣言し、電話がかけられた。
『なんだと……!? 掛かってきたぞコヒナタ! はい、もしもし』
とパルヴァンさんが熊総理との通話を始める。
『どうやら繋がったようだね。ただテレパシーと違って、通訳もいないので挨拶だけの手短にお願いします。ハロー! ディスイズ、シンゾー・クマ、スピーキング!』
どうやら電話は問題なく繋がったようだった。
十秒ほどして電話が終えられたようで、パルヴァンさんが『俄には信じられん……だが確かにあの熊総理の声だった……』と感想を語る。
それに熊総理が『とにかく、外務省の方で連絡をお待ちしています』と締めた。
一連の会話を聞いていたらしき香月さんが、『寝てる間でも念話できるんだねぇ……今度やってみよたっくん』と提案してくる。俺はそれに『香月さんが良ければいくらでも』と答えた。
香月さんとの話が終わると、矢那尾さんが話し始める。
『私も話聞いてたんですけど、パルヴァンさんは寝ていてもテレパシーが通じたってことは、前に小日向さんが言ってた、イメージがカラーの人が喋れるっていうのは、別に寝ているかそうじゃないかの違いじゃないんですね』
矢那尾さんの冷静な指摘に、俺は確かにそうだと唸る。
それと一つ確認しておきたいことがあった。
『あとみんなは普通にテレパシーで電話番号の交換してるじゃんか? でも俺にはなんだかそれがまるでデタラメのように聞こえるんだよね』
『え? そうなんですか?』
矢那尾さんが食いつく。
『うん。試しに矢那尾さん。もしよければ電話番号教えてもらっても良い?』
『はい……0x0の……』
矢那尾さんがスマホの電話番号を教えてくれる。
そして俺はそれを覚えて、再び矢那尾さんに確認した。
『えっと、0x0の……で合ってる?』
『え!? いえ、全然違いますよ。私の番号は……』
再び矢那尾さんが電話番号を教えてくれるが、今度はまるで違う番号に聞こえた。
『0x0の……じゃないよね?』
『はい。間違ってます……どういうことでしょう? 小日向さんに私達の番号が教えられない……?』
まだ話を聞いていたらしき熊総理が、『それは驚くべき話だね……小日向くんの家の周囲3kmでの現象とはまた違うが……ううむ』と唸る。
矢那尾さんが教えようとした電話番号は、まるで何者かによってジャミングされているかのように全く別の番号に変わってしまっているようだった。
しかし、俺としてはとても納得だった。
これが幻聴であるならば、そういうことが起こるのはまるで不思議ではない。むしろ当たり前の現象だった。
『まぁ、いいさ! 俺はみんなと話せるってだけでもとっても楽しいし。これは統合失調症の幻聴だとは思うけど、もしかしたら別の世界かもって可能性もあるしね。色々付き合うよ』
俺はそう開き直ったように言うと、涙が頬を伝った。
あれ、俺悲しかったのかな。
そりゃそうか……もし連絡取れてたとしたら、超人気女性声優ハーレムだったんだものな。
と言ってもまだエロいこととかは全然何も話してないし、ハーレムっていうのも名ばかりだけど……。
『たっくん……これはきっとただの病気じゃないって私達は思うけど……』
亜翠さんが俺を気遣ってかそう小さな声で言った。
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