4 新たな仲間x2

 翌日の夜。

 昨日と同じく亜翠さんの家に集まったという3人が切り出した。


『それで、残りの5人は誰なんですか!』


 香月さんが叱るように言う。


『伊緒奈ちゃんなんで怒ってるの?』


 亜翠さんがそう言って笑う。


『だってー! これだけ人気の声優さん3人も集めておいて、それでもまだ足りないっていうんだもーん』


 香月さんがそう言い、矢張さんが『それもそうですよね』とうんうんと頷いているようだ。


『いやぁ……えーっと単に好きな声優さんを挙げてけば良い? それともレヴォルディオンがアニメ化したら頼もうと思ってた声優さんの方がいいかな?』

『そう言えば私も小説投稿サイトの革命のレヴォルディオン読んだよ! まぁまぁ面白かったかな? でも私の役らしい八枷はちかせ声凛せりんは良いんだけど、イヴはどうすんのさ?! 私が兼役するの!?』


 香月さんがレヴォルディオンを読んだ感想を述べる。


『うーんどうだろう。香月さんちょっと妖艶な演技って出来ます?』

『プロとしちゃ、出来ないとは言わないよ!』と香月さん。

『伊緒奈ちゃんはどんな演技でも演るよねー』と矢張さんも香月さんの演技に一定の評価をする。

『はいはい。演技の話も良いけど次の子の話ねー』と亜翠さんが話をまとめる。


『うーん、レヴォルディオンのエルフィってキャラクターは矢那尾やなお纏女まとめさんに頼もうと思ってたから、まずは矢那尾さんかな?』


 と俺が答えを出すと、香月さんが『おーエルフィちゃんは矢那尾さんだったかー』と言い、矢張さんが『矢那尾さんなら、【私もいる】ってアニメで共演して仲良いです! 私に任せてください!』と矢張さんが断言する。


『【私もいる】なら私も出てるよー同級生役ー。伊緒奈ちゃんも出てるよね?』


 亜翠さんが話を香月さんに振る。


『妹役で出てます! でも矢那尾さんは操に任せるね』


 香月さんがそう言い、矢那尾さんの件は矢張さんに任せることになった。


『なんだか人気声優さんばっかりどんどん増えていきますね』


 俺がそう言うと、亜翠さんが『まぁレヴォルディオンと同じく8人が世界を救う為には必要なら仕方がない!』と諦めたように言う。


 世界を救う……世界を救うかぁ。

 確かにこれが本当にテレパシーだったならそうかもしれない。

 けれど俺には電話がかかってこなかったという事実がある。

 きっとこれはただの幻聴なのだ。

 いや、あるいは別の世界の亜翠さん達と繋がっているのかもしれないなんて考えも少しだけ自分の中に生まれた。

 もしくは宇宙人に遊ばれていて、宇宙人がAIで亜翠さん達の人格をコピーして話しているのかもしれないなんて考えも生まれる。

 しかしどれも荒唐無稽すぎてしっくりとはこなかった。


「まぁ楽しいからいいか……たぶん幻聴だけど」


 俺はベッドの上でいつものようにそう呟く。

 それにニートの俺にとって、こうしている時間は無駄かもしれないが、ネット環境がない今、時間を潰すのにはちょうどよかった。


『で? 矢那尾さん以外には?』


 香月さんが俺の想いをよそに話を進める。


『あとはうーんレヴォルディオンで使おう思ってたってことなら智菱の娘で紅ちゃんって子を演じる人とかですかね?』


 俺が智菱紅の名を挙げると、香月さんが『へ? マリエ副会長じゃないんだ?』と素っ頓狂な声を上げる。


『順番的にはそうかもしれないですけど……まぁマリエ副会長の声優さんも決めてはいるんですけどね』


 マリエ副会長とは、マリエ・ロートシルトのことだ。

 レヴォルディオンに登場する高校、天閃学園の副会長をしていて、かのロートシルト家の末席に名を連ねている少女という設定だ。


『えーだれだれー?』


 香月さんが気になったのか聞いてくるが、俺はそれに『今はまだ秘密です』と答えた。


『で? 智菱紅ちゃんだったっけ? まだレヴォルディオンには出てきてないよね? その子の声優さんは誰の予定だったの?』


 亜翠さんが俺に聞く。


『あーえっと、りつひーですね』


 俺が答えると即座に香月さんが反応する。


『おぉ! りつひー! めっちゃ仲良い後輩だよ! 操も仲良いよね!?』

『うん。立日ちゃんなら同じ事務所の後輩さんです』

『でも、りつひーかぁ』


 運命の相手というには俺とは8歳も年が離れている。

 香月さんや矢張さんの5,6歳だけでも年が離れていると感じているのに、8歳も離れた今23歳のりつひーこと桜屋さくらや立日りつひさんを運命の相手に加えていいのかどうか、俺は正直言って迷っていた。


『なに? 桜屋さんに何か思うことでもあるの?』


 亜翠さんが俺の心を見透かすかのように聞いてくる。


『いやぁ、年齢が離れすぎじゃないかなって』

『そうかな? えっとたっくんが今年で31でしょ? 私が今年の3月で26だからりつひーも今年の1月で24歳かな?』


 とりつひーの誕生日を把握しているらしい香月さんが計算する。


『そっかー、じゃあやめとく? 私も桜屋さんは年が結構離れてるかなぁって思うしまとめられるか不安だよー』


 亜翠さんが感想を漏らし、しかし香月さんが黙ってはいなかった。


『いいじゃん。その場合は私と操とでりつひーとのコミュニケーションは上手くやりますよ。私はりつひー呼んでみたいなぁ』


 香月さんがそう強弁したので、『俺もりつひーの顔は好きですけどね』と援護射撃のようなことをする。


『顔だけ? あとりつひーって言ったら胸でしょ胸』


 と香月さんが指摘してくる。

 俺はそれに『う……まぁ確かに』と曖昧に答えると、矢張さんが『確かに立日ちゃんは大きいよねぇ』とほんわかと言った。


 そうして今日の会話はお開きになり、明日また矢那尾さんと桜屋さんの二人を連れてくることになった。


 次の日。

 夜9時を過ぎた頃、俺は亜翠さんにコンタクトを取った。


『亜翠さん、聞こえますか?』

『うん、聞こえてるよー。ちょうどいま全員揃って鍋始めたとこ! てか5人も集まると私の部屋も手狭になってきたなぁ』


 亜翠さんが感慨深そうにそう言い、香月さんが『さぁ! 矢那尾さんもりつひーもいるから始めよっか!』とテレパシーの開始を宣告した。


『はい。矢那尾さんとりつひーにも届くかは分からないけど……』


 俺はそう心のなかで言いながら、5人全員に聞こえるように念じ始めた。


『矢那尾さん、りつひー、聞こえますか?』

『え? なんですか?』

『え!? なに!?』


 と二人が返事をする声が聞こえた。


『おー成功っぽい』


 香月さんが割り込んできて感想を述べると、『え?! 香月さん!?』とりつひーが混乱した様子だ。


『はい。いまから現実でも話しかけるので、驚かないでくださいね』


 と矢張さんが言い、5人にとっての現実での説明タイムに入った。


「まぁ現実って言ってもたぶん俺の幻聴なんだよなぁ……」


 そもそもこれだけの人気声優5人が夜とはいえスケジュールを合わせられるということが稀だろう。それも亜翠さんの家に全員集まっているというのだから驚きだ。というか全部俺の妄想なんだろう。それにしては出来が良すぎる妄想だったが、俺は5人の人となりで知っているのはラジオを数度聞いただけの矢張さんのみだ。その矢張さんの喋り方や人となりは再現が完璧なように思えたが、他の4人に関しては人格の再現が適当なのかもしれない。

 しかし声に関しては、素の喋りを知らない香月さん以外はアニメやゲームでの声に似ていて完璧な再現度だ。香月さんはアニメで聞いたことのある声よりも遥かに低音の飾らない音で喋っている。


『はいはーい。二人に説明終わったから、自己紹介していいよたっくん』

『では改めて、小日向拓也と言います。どうぞよろしく』


 俺がそう自己紹介すると、矢那尾さんが『どうもハジメマシテ! 矢那尾纏女です! これでいいかな?』と元気よく挨拶してくれた。

 続いてりつひーが『どうも、桜屋立日です。テレパシーって本当にできるんですかね?』と言った。


『出来てるよ! 二人共よろしく!!』


 と俺が言うと、二人は再度『よろしくお願いします……』と答えてくれた。

 矢那尾さんは矢張さん同様にヒロインヒロインした声をしている超人気女性声優さんだ。

 代表作は【神が知る世界】などで、これまた矢張さん同様に歌がとても上手い。

 そしてりつひーこと桜屋立日さんは、日本人離れしたすっとした綺麗な顔立ちと抜群のプロポーションで有名な新人声優さんだ。代表作は【私達のヒーロー】などだ。


『え? これって凄くないです?』


 りつひーが驚きを確認するように言い、亜翠さんが『そうだねぇ』と納得するように言う。


『そういえばたっくん。私達以外には話しかけたことないの?』


 香月さんが質問してきた。


『ないかな? みんなとも常時話してるってわけでもないし、いつも話し始めるときは亜翠さんに確認取ってからだったしなぁ』


 俺がそう答えると、矢張さんが『そうなんですね……。私達が特別って思ってましたけど、実はそうじゃなくて誰にでもテレパシーが通じるのかもしれませんね?』と他の人にテレパシーが通じる可能性を指摘する。


『じゃあやってみようよ! まずはくま新造しんぞう総理大臣からね!』


 と香月さんが言い、俺は『分かったー』と気軽に答えた。

 そして念じ始める。

 熊新造総理の国会などでの話す姿や声を想像しつつ、『熊総理……聞こえますか?』と話しかけた。


 すると暫くして、『!? なんだ一体……!?』


 と驚いた様子の熊総理の声が聞こえた。

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