徹夜で書類と愛を

SASAKI J 優

第1話

1月も半ばを過ぎたある日、玲子先生は職員室で頭を抱えていた。

「……どうしてこうなったのよ……」


目の前には、大量の未整理の書類。中には重要な提出期限が迫ったものも混じっている。


「先生、これ……もしかして全部未処理ですか?」

通りかかった麻衣が、机の上を見て驚きの声を上げた。


玲子は居心地悪そうに言い訳をする。

「ちょっと忙しくて……いや、忘れてたわけじゃないのよ? ただ……」


「完全に忘れてた顔してますけど?」麻衣が呆れた顔をする。


すると、横から優香が顔を出し、冷たい視線で玲子を見た。

「先生、これはひどすぎます。生徒に偉そうに言っておきながら、自分がこれじゃダメですよね?」


玲子は反論できず、視線を逸らす。


「仕方ないですね。先生、私が手伝いますよ」優香がため息をつきながら言った。


「えっ、いいの?」

「その代わり、ちゃんと報酬くださいね。私はボランティアじゃないので」


玲子はぎくりとしながら、「報酬って……何?」と尋ねる。


優香は少し意地悪な笑みを浮かべながら言った。

「先生、今度麻衣と二人きりでご飯行こうとしてましたよね? それ、私が代わりに行きます」


玲子は動揺しつつも、「……それでいいなら」と渋々承諾するしかなかった。



その夜、玲子の部屋で優香が書類整理を始めることになった。麻衣は「私は先に寝ます!」と早々に布団に潜り込み、部屋には玲子と優香だけが残った。


「先生、これ全部どういう順番でまとめればいいんですか?」

「えっと……適当に並べておいてくれれば……」


優香の手がピタリと止まった。

「適当? 先生、それ本気で言ってます?」


玲子は居心地悪そうに笑いながら、「いやいや、ちゃんと考えるわよ」と答える。


しかし、作業が進むにつれ、玲子の集中力は限界を迎える。気づけば机に突っ伏して眠ってしまった。


「先生、寝るの早すぎません?」優香は呆れながら玲子をつついたが、全く起きる気配がない。


「ったく……こんなだらしない先生、麻衣は本当に好きなの?」

優香は玲子の寝顔をちらりと見て、小さくため息をついた。



優香は黙々と書類を整理しながら、心の中で複雑な思いを巡らせていた。


「麻衣はいつも先生ばっかり見てる……私だって麻衣のこと、すごく大事なのに」


嫉妬心が頭をもたげるが、それを振り払うように優香はペンを走らせた。


「でも……先生がこれじゃ、麻衣も苦労するよね。私がしっかりしなきゃ!」



夜が明ける頃、玲子はようやく目を覚ました。

「うぅ……あれ、私寝ちゃった?」


机を見ると、きれいに整理された書類が積み上がっていた。


「優香、これ全部やってくれたの?」

「そうですよ。先生が寝てる間に全部片付けました」


玲子は感動しながら、「ありがとう、優香。助かったわ」と言ったが、優香はすぐに冷たく言い返した。

「感謝するなら、もっと普段からしっかりしてくださいね」


その時、布団から麻衣がむくりと起き上がった。

「先生、優香、本当に徹夜してたんだ! お疲れ様!」


優香は少し照れた顔で、「まあ、これくらい大したことないけどね」と答える。


玲子が苦笑しながら言った。

「本当に助かったわ。でも、次からはちゃんと自分でやるから」


すると、優香は意地悪そうに笑って言った。

「そうですね。でも、次またミスしたら……私、先生のこと麻衣から奪っちゃいますよ?」


玲子はその言葉に一瞬固まり、麻衣は目を丸くした。


「ちょ、ちょっと待って! 優香、それ本気?」

「さあ、どうでしょう?」


優香は謎めいた笑みを浮かべながら、整理した書類を片手に部屋を出ていった。

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徹夜で書類と愛を SASAKI J 優 @teinei016

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