四人目(……!)「染芽野 花緒里(そめや かおり)」=???

「ふむ。……フロア一つという大きな密室で起こった殺人事件、居合わせた三人の容疑者……果たして、花嫁さんを殺害した犯人は、誰なのか……」


 高校生探偵・サエが、細い顎先に指をあてて、推理している。


 ――のを、この部屋にいる人物の中では、で聞いている者の心中は。



(……スイマセン、生きてます……生きてまァす……)



 である。

 繰り返す―――である。


 もっと言えば、白薔薇と称される高級ウェディングドレスが、赤薔薇のように染まっているのを身に纏い、絶賛・死亡中と思われているである。


 なぜ彼女が――〝染芽野そめや 花緒里かおり〟が死んだふりを続けているのか、というと。


(ああ、ああ……なんで、こんなことに……わたしは、わたしはただ、このウェディングドレスが何だか妙に気になって、ほんの少~しだけ、のつもりで試着して……なんか気が大きくなって、テンション上がって、をがぶ飲みした結果……思う様にむせ返り、口から赤ワインをしたたかに噴出……エグいくらいにドレスを汚しちゃって、どうにか誤魔化すため死んだふりを続けている内に……な、なぜか殺人事件にまで発展して……いやホント、なんで……!?)


 結構、本人の過失としか言いようがない、が――思惑は虚しくも続く。


(救急車でも呼んでくれれば、なし崩し的に誤魔化せたりして、くらいにおもってたのに……いやまあ、後で請求されるかもだけど……ていうかこのドレス、マジ高そうだけど、いくらくらいなんだろ……い、意外とそんなでもなかったり? だったら早く起きて、〝な~んちゃって♪〟で笑い話にできれば――)


「あの、ところで当ホテルの支配人マネージャーとしてお尋ねしたいのですが……いえ、こんな時に何ですが……血の付いたドレスの補償って、こういうケースだと、どこに求めれば良いんですかね……? このドレス、当ホテルの看板で、ウン百万とする高級なものなのですが……殺人が起きたドレスなんて、誰も着たがらないでしょうし……」


「ふむ。向見逗むこうみずさん、殺人事件が起こっているというのに、本当に何ですね……まあボクも詳しくありませんが、犯人に、ではないでしょうか? とはいえ事件の裁判等が終わった後、ということになるでしょうが――」


(ピッピエエエエエエッ!? お、起きれない……おっ起きれるかァァァ! ああああ、わ、わたしがつい出来心で、こんなドレスもん着ちゃったせいで……う、うう、こんな大騒ぎになっちゃって、今さら、今さらっ……)


 時が経つほどに事態が悪化している気がしないでもない、が。


 


 ――――

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