二人目――「鷺田増 金好(さぎだます かねよし)」=結婚詐欺師

「ハア、ハアッ……ハアー、ハアーッ……ゲホッ、ハッ、ゼエッ、ヒイッ……!」


 容疑者の一人とされてから、急激に息切れし、見る見るうちに顔色が悪くなっていく彼は――〝鷺田増さぎだます 金好かねよし〟。


 女性に結婚を持ち掛けて騙す、即ち結婚詐欺師である――述べるだに口も腐ろうという悪党だが、悪事に慣れているとは思えぬほど、焦燥の只中にある。

 そんな彼、鷺田増の心中とは。


(お、おお、おれは違う、おれは殺人なんてしねえっ……女を騙しては金を巻き上げ、そらもう闇金〇シジマくんリスペクツよろしくな悪事を働こうとも……そそそんな殺人事件なんて大それたことが、おれに出来るはずもねぇ! お、おれじゃねえっ、おれのせいじゃねえっ! おれは、おれは――)


「むっ。何やら五十歩五十一歩な、反吐へど♡の出る悪事の気配を探偵の勘が察知しましたが……あなたは鷺田増さん、ですね? お連れの銀山さんから、お名前を窺いました。先ほどからずっと、顔色が優れないようですが……もしや何か、この事件に心当たりでも?」


「……ヒ、ヒイイッ!? い、いいいいえ、おれじゃないですっ!? これは違う、こんなことは――」


? それではまるで、ように聞こえますね。まさか犯人と共謀でも? 全く、結婚詐欺師のような顔をして……」


「ヒィンッ!? ……あっいや、ししし、失礼でしょぉが! ま、全く、ゼエゼエ……と、とんだ濡れ衣だぜ~ぇ、ゲホゲホッ、オエッ……」


「ふむ。……それは失礼しました。ですが、ならば……なぜそんなにも吐きそうになるほど焦っていらっしゃるのでしょうか?」


「!!! そ、そほぉんっ……そ、それはぁ……その、ッホォウ……」


 しどろもどろになる、鷺田増が思うのは――


(い、い……言えるかァァァァ! 殺人事件の犯人じゃなくたって、別の事件だし! ああ、何でこうもタイミング悪く、殺人事件が起こって、しかも探偵まで……こ、このままじゃ犯人にされちまう、かと言って、おれの正体なんて……)


 一人で勝手に追い詰められ、汗だくになって息切れする鷺田増――そして、次の容疑者は。

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