第8話

「よいしょっと……」


背の低い私は、押し入れの前に椅子を持ってきて登り、衣装ケースに背伸びしながら手を伸ばした。


いつもは背の高い陽太が取ってくれるから、自分で衣装ケースを持って取り出すのが、こんなに大変だとは思わなかった。


「えっ……きゃっ!」


慣れない事をして、バランスを崩した私は、衣装ケースごと、畳の上に落っこちた。


衣装ケースの蓋は、その衝撃で開いて、中から、目当ての長い蝋燭は勿論、結婚式の時のアルバムや、友人達からもらった色紙や手紙、電報など、結婚式の思い出が、そこら中に散らばっている。


そして、それと同時に私の頭上にバサッと一冊のノートが落ちてきた。


「痛ったー……何?……」


ノートを拾い上げながら、一人で痛みに耐える。畳に打ちつけたお尻が痛い。いつもだったら、陽太が、大丈夫?と声をかけてくれるのに、一人きりの部屋は、しんとして、誰も私を心配してくれる人は居ない。



「あれ?これ……」


どこにでもある、ありふれたノートの表紙には、陽太の筆跡で『結婚ノート』と書いてある。


「懐かしい……」


私は、思わずページを捲っていた。


結婚してから、初めての私の誕生日が、過ぎた頃に、陽太が、提案した夫婦の交換ノートだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る