この手紙をキミへ

遊野煌

第1話

私は手紙が好きだ。

今日もあの人のことを思い浮かべながら一文字一文字丁寧に紡いでいく。そうして出来上がった文字の羅列は、姿が見えなくても顔が見えなくても自身の想いと共にあなたの心にそっと届けられる。手紙はまるで未来へつながっている、心と心の交換日記みたいだ。


「今日はカスミソウ柄にしよ」


私はカスミソウ柄の便箋を広げ、想いをめぐらせながら文字をひとつずつ浮かべて積み重ねていく。


世界でただひとつ、文字を書くことで心のやり取りができるのが『手紙』だと私は思う。私は図書館の窓辺から空を見上げながら、一年前のあの日のことを思い出していた。


私は書きあがった手紙の宛先に『この手紙をあなたへ』と記すと運動場を目指して立ち上がる。


──今日も恋するあの人に想いを届けるために。

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