第2話
朝は眠い。昨日寝ようと思ったけど、寝付けなくてずっとスマホを見てた。移り変わる液晶画面の景色は、現代の縮図だ。
「学校行くの、めんどくさい。」
ため息を付きながら、デスクの上の鞄の取っ手を引っ張った。それから、鞄の中に匕首(あいくち)を入れた。華奢な匕首だけど、母の形見だ。
パンにバターを付けて、勢いよく食べた。それから、牛乳を急いでガブ飲みして出掛ける準備をする。
通学路を歩く
歩いて疲れて
引き返したくなる
セーラー服のスカーフが風に揺れる
スカートは膝上くらい普通でしょ
鞄には匕首を忍ばせているけど
それだって、今時は当たり前
道を歩きながら彩は、学校の図書室を思い浮かべている。今日もあそこでのんびりしよう。学校に着くと、門を通り抜けて教室へ向かった。
机に座ってぼんやりしていると、
「彩!」
と女の子の声がした。
丸眼鏡をかけたこの子は、麻里(まり)。
ほんわかした雰囲気で、ビーストがあまりにも怖いので学校の送り迎えは家族にしてもらっている。そのため、武器も持っていない。
彩はいつも通り、
「授業が終わったら、図書室に行こうよ」
と麻里に言った。
「いいね、秘密基地みたいだもんね」
麻里も指でオッケーの形を作った。
15時近くなって、二人で図書館に集まった。ここの図書室は、生徒も少なくて、ゆっくりと本が読める。彩と麻里はこの図書室で、彩は詩を、麻里は小説を書くのが日課だった。
「カントはどういう哲学者か?」とか、
「二代哲学者は、ヴィトゲンシュタインとハイデガーなんだって!」とか、
たまに二人で難しい話をする事もあった。
それから、ビーストの話もしていたが、当たり前の日常になり過ぎていつもの事だから仕方ないという事になるのだった。
夕方まで図書室にいた。窓から斜めに光が入ってくる。その光の溜まっている床を見ながら、ここはやっぱり癒される場所だなと思った。
麻里は、ママのお迎えの車に乗って帰って行った。
「またねー!」
「じゃあねー!」
彩は麻里と別れて、家路へと向かって行った。
家に帰る途中、どうしてもビーストが多く潜んでいる廃墟の街を通らなければならない。カサカサと葉が鳴る度に、ビーストがいるんじゃないかと気を張ってしまう。
ピシッ!
パキッ!
落ちた枝が音を立てて、今日もやっぱり青黒いビーストが木立の中から現れた。
「ぎゅやあああ」
彩は恐怖で引き攣った顔のまま、目は虚空を彷徨っていた。意識が無いようだ。
「ヴァルルルル」
ビーストは彩の匕首(あいくち)を持っている右手。その肩の辺り目がけて凄いスピードで襲いかかってきた。
砂利道。右足が大きめの石を踏んづけてしまい、彩はバランスを崩した。
危ない!
匕首を構えるのが間に合わず、彩は地面に倒れた。冷や汗がサーッと首筋を伝う。
ビーストは、彩を殺そうとしているのは明らかだった。
もうダメだ!
そう思った瞬間、大きな鎌の刃先がビーストの首を真っ二つに切り裂いた。ビーストは首から血飛沫を上げながら倒れた。
目の前に、ジャラジャラと鎖を引き戻して鎌を手に持った女性が現れた。
「初めまして!私は沙織(さおり)。よろしくね!」
沙織は、クールな表情でそう言った。
「ありがとうございました。沙織さん」
彩は、意識を取り戻して、沙織にぺこりと挨拶をした。
胸当てをした背の高い沙織は、とても落ち着いた表情をしている。きっと、戦闘になれているんだと彩は思った。
「彩はこの近くに住んでいるの?私もこの近くに住んでいるわ」
「はい。わたしも少し先の川沿いの家に住んでいます」
沙織は、にっこりと笑いながら、
「私もね、この先の蒼の洞窟に住んでるのよ。じゃあ、またね」
「はい。助けていただきありがとうございました」
沙織は、にこにこと手を振りながらスタスタと向こうの方へ歩いて行った。
今日もいちにち、とても疲れた。
「頑張った、自分。よしっ」
彩は飴の缶から、コーラ味の飴を口に放り込んだ。コーラ味も個人的には好きだ。
美味しい。
やかんが沸騰したから、ルイボスティーを入れることにした。カップにお湯を注ぐと、ルイボスティーの赤い色が鮮やかに広がった。ふーっと冷ましながら、それを口に付けた。
温かい飲み物が胃の中で優しさとなって溶けていくようだった。
時計の針は、
今、夜の22時半。
今日はどんな夢が見れるかな。
彩は、歯を磨いてから、ベッドに潜り込んだ。
ゆっくり、おやすみなさい。
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