第12話 ハグを断られる

私はゆきちゃんと出かけた帰り、別れ際に無性に寂しくなった。

寂しくなるのは分かっていたから、ゆきちゃんの運転する車が私の住むマンションまで近づいた時に、私はこう言った。

「降りたら、ハグしたい」

「嫌…。」

もうこれで3度目だ。

ああ、この子はこういう事は嫌なんだな。

でも帰り際の握手は必ずしてくれるし、私の目をじっと見てなかなか離さない。

私の中で、何かが壊れる音がした。急に覚めた。


もう会うのはやめたほうがいいのかな。

仕事だけにした方が良いのかな。


ゆきちゃんが自宅に到着した時に、トークアプリを開いた。

「今日も釣りに連れて行ってくれてありがとう。いつも送り迎えしてくれて嬉しい」

『今家についたよ。楽しかったまた行こうね』

「それは出来ないよ」

『…、なんで?』

「なんでだろうね」

『嫌だったの?釣りが嫌になったの?』

「そうじゃないよ」

『違うんだ…』

「うん。気にしないで」


翌日、早番だったので職場へ行ってシステムを立ち上げた。


「おはよう」

事務所のドアを開いたのはゆきちゃんだった。


「ゆきちゃん、今日は早いんだね」


「…」


「行こうよ釣りに。つまらない?」


「そんな事はないよ」


ゆきちゃんはテーブルをバンと叩いた。


「嘘だ!行きたくないんでしょ?急になんで…」


ゆきちゃんの瞳が揺れた。


「私の事、気持ち悪いでしょ?」


「そんなことないよ?みほちゃんは私にとって特別な人」


テーブルをバンバン叩いた。


「なんで怒っているの?」


「なんでもだよ!!うわーん。わーんっ」


ゆきちゃんはいきなり泣き出した。

メンタルが不安定になったみたいだ。

保健室まで一緒に行って、養護の先生に引き渡した。

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