第10話

『私のこと、嫌いになった?』


職場からの帰り道、私の怒りの感情は落ち着いてきた。悪かったかな?と思い、ゆきちゃんにLINEした。


『少し...』


すぐに既読がついてメッセージが返ってきた。どうやら許してくれたみたいだ。


ゆきちゃんは何がしたいんだ?

私と手を繋ぎたいだけなのか?


後ほど、釣りとマニュアル車が好きなことがわかるのだが。


彼女の事は、漢と書いておとこと読むのだということを。

見た目が綺麗で上品なゆきちゃんには、表の顔と裏の顔があるみたいだ。



⭐︎


私はかなりの偏食だ。母はもう諦めている。

ブランチでパスタを2人前、夜は筋子の握りを2人前食べている。

髪の毛が最近薄くなっていると感じる事があるが、

「偏食だからよ」

と笑われてしまった。


私は仙台で生まれ、仙台で育った。

スキー場へは車で30分で行く事ができた。

釣り場所には駐車場も釣り禁止のエリアもなく、自由気ままに叔父と釣りをした。

父も母も優しい。

弟は東京23区内で薬剤師をしており、やんちゃな人だ。

父は国立大学の薬学部出身で、薬局で下積みをした後は研究職となり、とある研究が認められて大学に引き抜かれた。以降、父は大学教授として教鞭をとる。

母は公務員として働いており、昇進とともに多摩地区への異動を命じられた。

父と母は東京都の多摩地区へ行くことになり、私達は故郷を離れる事となった。

多摩地区は仙台に比べてはるかに住みにくい。

自然は少ししかなく、駅前にもデパートはほとんどない。仙台にはたくさんあったものが、多摩地区にはほとんどない。


「仙台に帰りたい、仙台に帰りたい」


私は毎日、父と母に泣きながら訴えた。

父と母は、私を抱きしめるだけで仙台に帰ろうとはしなかった。


ある日突然、私の体が動かなくなった。リビングへ食事に降りてくる事もなく、トイレに行く事もなく。

父は薬剤師で医学のベースがあったので、すぐに病気だと気づいた。

車で心療内科へと向かった。


引越しが原因で鬱病になったようだ。

内服薬を徐々に増やしていき、マックスまでいったところでようやく体が動くようになった。

ただ...

私は人見知りの引きこもりになった。

この生きづらい土地では父と母以外に頼れる人はおらず、特に母は過保護になった。

私は思春期を迎える事なく小学生のままで心の成長を終え、中学校はほとんど行かずに卒業となった。

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