昭和維新
伏見人事
第1話 船体共通化計画
「結論から言いまして、今の帝国にこの計画を実現するのは不可能です」
丸メガネを掛けたいかにも文系人みたいな将校が凛とした声で、宣言するように言った。
「それはどういった根拠を持って言っているのかね?」
現在の海軍大臣であり、この会議を仕切っている
明らかに計画に反対している人間が、独自で調査しますといって結果を報告してきても信用する気にはならないだろう。
「そうだそうだ!」
「根拠を出せ!」
他の技官や将校が野次を飛ばす。
丸メガネの将校___艦政第八部の
「大臣殿は我が国に幾つ海軍工廠があるか知っていますか?」
質問を質問で返しやがった。
全く何をしているんだか。
「...確か、横須賀、呉、舞鶴、佐世保だった筈だ」
大臣は迷う素振りもなくそう答えた。
それで答えられる大臣も大臣だ。
確か大角大臣は軍艦勤務は数年だけで、その後は陸でやってきた生粋の軍政官だ。
脳筋な軍人と違って、メガネの同類なのかもしれない。
「そうです、四個しか無いのです。軍艦を建造するためにはいくら構造を簡略化したとしても一年はかかります。巡洋艦は二年、戦艦や空母は三年も」
だれかが「そりゃあ当たり前だろう」と呟く。
「それで君は何が言いたいのかね? 造船所は新たに作ればいい、例え軍艦の建造に時間がかかろうとも作る場所を増やせば解決する話だ。もし
大臣はメガネ大佐の言葉にそれだけか、とでも言うように、呆れてそういった。
そのメガネ大佐は自信満々な態度でそれを受け流す。
「ええ、勿論ですとも。根拠ですね、お見せしましょう」
メガネ大佐は会議室の壁にかけてあった布を引っ張って払う。
あら不思議、グラフやら表が書かれた資料が出てきました。
準備したの自分ですが。
「このグラフは計画通りに造船所を増やしていった場合の船渠数と、艦艇建造数の予測グラフとなります。大臣のおっしゃる通り造船所が増えるほど建造できる艦艇も増えます」
大臣は当然だ、と呟く。
「ですが大角大将、あなたの考えは戦時を想定していない」
その一言で大臣の顔色が変わった。
他の将校はメガネ大佐の言っていることが読み込めずに首をかしげている。
「マル三計画。確かに、条約破棄後の計画としては素晴らしいものです」
マル三計画、第三次海軍軍備補充計画。昭和一二年度から一七年度までの五か年計画だ。
今は一九三四年、七月、第二次海軍軍備拡充計画であるマル二計画が始まったばかりだ。
だが世界情勢は緊迫の一途を辿っている。去年、日本は国際連盟からも脱退した。
ロンドン、ワシントン軍縮が形骸化するのも近い。
早急に軍縮脱退後の艦隊計画を練る必要があったのだ。
「しかし、それが実現したところで米国の戦力には遠く及びません。彼の国は、もし日本が条約を脱退した場合、今の連合艦隊に匹敵する戦力を新たに整備する、との情報もあります。海軍大臣のあなたならご存知でしょう?」
大臣の顔が僅かに歪む。
そして、しばらく沈黙したあと、口を開いた。
「君はここに軍令部の人間を呼んでいない理由が分かっているのか?」
「
大半のものは意味がわからなかったであろう。
彼らは艦隊勤務勢だ。
海軍内での派閥争いなど知るよしもない。
「なら十分だ。皮肉なことだよ、自分が指名した人間に首輪をはめられるとはな」
伏見宮博恭王、軍令部長。
名の通り皇族であり、大臣は陸軍参謀本部長が皇族だったことから、陸軍に手を出されないように軍令部長に皇族の伏見を推した。
だが彼は艦隊派でもあった。
タカ派である艦隊派の増長をかえって助長することになってしまい、条約派は上層部から一掃され、更に海軍省よりも軍令部が強い発言権を持つようになった。
「残念だが、私はなにもすることはできない。君にもし改善策があるなら、それは軍令部に言ってくれ」
今の海軍省は軍令部の尻に敷かれている。
皇族である伏見の意見に歯向かうことは難しかった。
だが大臣に反して、メガネ大佐に失意の表情はない。
「その改善策を持ってきました。というより、ついてきてもらったの方が正しいですが...」
「どういうことだね?」
大臣も疑問をあらわにする。
ずっと座ってたからか、腰が痛いな。
それでも俺はすっと立ち上がる。
「漆原が迷惑をかけて申し訳ございません」
一応、西澤光輝という名前と、中将という階級と、艦政本部長という役職があるのだが、大臣はもう知っているのでわざわざ言うような真似はしない。
「迷惑!?」
「それで、改善策とは?」
深呼吸して、息を大きく吸い込む。
「すなわち、艦艇設計の
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