リセット〜殺された僕は神様と共に人生やり直して復讐したい〜

神楽

第1話

「また下駄箱に上履きがないや。」

小声でそう呟いた彼の名前は剛(ゴウ)。

彼の正式名称は、龍宮寺剛(リュウグウジゴウ)という。


 彼が通う市立今村中学校は、名門高等学校の進学率が80%を誇る進学校だ。

この学校に通う剛は3年生で学校の中では中の下くらいの成績で友達と呼べる間柄もいないぼっちと呼ばれる分類に所属している。


「上履き探さなきゃな。またどこかのゴミ箱に捨てられてるのかな。」

考えながら靴を下駄箱にしまい、上履きを探す所から剛の学校生活は始まる。


「おお、今日は20分で見つけられたぞ。新記録達成だ。上履き探しの仕事でもあれば良いのに。」

こんな事を考えながら上履きを見つけた場所は男子トイレのゴミ箱だった。

上履きはいつも通り靴底がご丁寧に切り取られており、ほぼ裸足と変わらない。だが、3年生になってから既に両手足では数えられない程、両親には新しく買ってもらった。お母さんからは「また無くしたの?次は買わないからね。大切に使いなさいよ。」

とお説教を食らっている。


「僕が無くしてるわけじゃないんだけどな。」

心の中ではお母さんに言い返しながらも

「ごめんなさい!友達と遊んでて楽しくなっちゃって!」

と苦笑いをしながら謝っている。


彼としては、家族には自分が虐められてると口が裂けても言えない。虐められてるなんて知られたら自分のプライドが傷つくからだ。

そんなやり取りを思い出しながら剛は自身の教室へ足を運んだ。


 教室の中は賑わっており、男子のゲームセンターでの思い出話や女子の恋愛トークが時折聞こえる。


そんな会話に交ざる事は勿論無く、いつも通り窓際の最前列の席に腰を下ろした。

「ふぅ、今日は朝から絡まれる事無くて良かった。1日何も起こりませんように。」

そう願いながら朝のホームルームが始まった。


「おはよう!今日の日直は川野と鳴海だな!朝礼頼むぞ。」

朝から軍隊のような大きな声で挨拶をしたのはこのクラスの担任山本先生だ。


「えー、俺かよ。まぁいいや、起立、れーい、始めまーす。」怠そうな声の彼は川野健太。

バスケットボール部に所属して女子から人気なイケメンだ。こんな奴のどこが良いんだろうか。


「次の挨拶瑠衣頼んだー。」そう言い放つと僕の席後方から聞こえてきたのは、「私がやるなんてあり得ないから。そのまま健太やってよ。」と甘ったるくなる程の声で返事をしたのが鳴海瑠衣だ。

彼女もバスケットボール部で大人顔負けのスタイルと美貌から学校の二大美女と言われている。もう1人は誰かって?この後出てくるだろうから紹介は省かせてもらうよ。


「あ、思いついた。こいつにやらせりゃよくない?」川野からご指名を受けた僕は

「うん。任せてよ。こんなん楽勝だからさ。」笑顔で応えた。


 川野が日直の度に代わりをやっているから慣れてしまった自分を心の中で恨んでいる。

先生もこのやり取りを見ているけど

「お前ら仲良いなぁ」と言っているだけだ。


「これのどこが仲良いんだろうか、側から見ればパシられてるだけではないか。」

そう思いながらも反論した後の事を考えると何も言い返せない。


日直を担当したからにはしっかりと行いたくなってしまう。宿題のノートを集めて職員室に提出したり、授業が終われば黒板を綺麗にしたりと1人で机にいるより、ぼっち感が出なくて好きだ。


問題はこの後だ。

(キンコンカンコーン)

昼休みのチャイムが鳴った。


僕はこの時間が1番苦手だ。何故かって?


「おーい、龍宮寺!俺さ、昼飯食べて無くなったから買ってきてくんない?」

声の主は平井翔太だ。彼はハンドボール部キャプテンをしていて身長が160センチと少し小柄ながらも態度はデカい。

「分かったよ。何買ってくれば良い?」

と返事をする。


「焼肉弁当とメロンパン。あー、後はいちご牛乳。」

と返ってきた。これが苦手な理由だ。


勿論、お金は1円も払ってくれない。何十回とこの買い出しをさせられている。

中学生はバイトもできないのにどこからこのようなお金が出るのかと疑問に思っただろう。


答えは親のお金を拝借しているのだ。

最初は友達と遊ぶと言って貰っていたこともあったが、段々とその頻度の多さから貰えることがなくなった。

しかし、日々このような事があるとお金が底を尽きる。一度や二度はお金が無いから買えない。と平井に言うが、その度に

「1円足りない事に1発なー。」

と言われ殴られた。


こうなると僕は怖さのあまり、親の寝たタイミングを狙って財布からお金を拝借していたのだ。

毎回のように平井達は自分の遊ぶお金を僕から搾取しては、女子達と楽しく放課後デートをしていた。

心の中では「早く死んでくれ。どうして自分ばかりこんな目に合わなきゃならないんだ」

と神様を恨んだ。


そんな虚しい記憶を思い出しながらも買い出しを終えて平井にリクエスト通りの物を

「平井くん、頼まれていたお昼ご飯持ってきたよ。これで問題ない?」

僕はこう言い、お金を今日は払ってもらえるかなと思いながら渡したが、返ってきたのは1発の腹パンだった。


「ありがとよ。感謝の腹パンだから喜べよー。」

思いきり殴られた影響か声が全く出せず、地面にうずくまっていると、

「キモいから立てよ。感謝の一つも受け取れねぇのかよ。」と僕の髪を掴みながら平井の横にいた川野が笑みを浮かべながら言ってきた。


「感謝の気持ち受け取れなくてごめん!嬉しさのあまり声が出なかっただけだよ。」

僕は立ち上がりながら応えた。


川野は僕の制服のベルトを見ると、

「良い事思いついた!ベルトでバンジージャンプとか面白そうじゃね?」


「あー!めっちゃ面白そう!誰やんの?」


「そりゃもちろん、龍宮寺お前やるよな?」

と川野と平井のやりとりがあった。

僕は、断ることができず、

「分かったよ。どこからやれば良いの?」


「んー、移動すんの怠いからここで良いでしょ。」

「みんなー、龍宮寺が面白いことするってさ!集まろうぜ!」

と川野が僕の逃げ道を塞いできた。


クラスの大半が川野の呼ぶ声で集まり、

「龍宮寺何すんのー。」


「こいつここからバンジージャンプしたいんだってさ。みんなで見守ってあげようぜ。」


「えー!危ないよー!私見てられないかもー。」

などクラスメイトの様々な声が聞こえてきた。

「ベルトだけでこの高さから飛び降りるなんて無理だろ。」

そう思いながらもベルトを自分の身体に巻き付けて反対側のベルトを窓枠に縛り付けた。

「やるしかない。でも、もし外れたら死ぬかもしれない。」

僕は足が震えて窓に足を掛けられずにいた。


こんな僕を見てクラスメイトは

「ひ弱だな。早くやれよ。」


「たかが、学校の4階だろ。外れても死なねーよ。」


「行ーけ!行ーけ!」

先程とは違い、クラスメイトの声はクライマーズ・ハイのようなテンションになり、罵声ばかりが聞こえてきた。


「やっぱり、また今度でも良い?もう少し準備してからやらせてほしい。」

僕は泣きそうになりながらも声を出した。

その瞬間、川野の合図でクラスメイト男子数人が僕を担ぎ、窓から投げたのだ。


「自分から行けねーなら俺らが後押ししてやるよ!感謝しろよ!」

川野から発せられた言葉を落ちながら僕は聞いた。

ボールがぶつかったような音と共に、

僕は窓枠の少し下で宙吊りになっていた。

「川野くん!やったから上にあげてよ!自分じゃ上がれないよ!」

自分が出せる最大の声で助けを求めた。


しかし、川野は

「俺、筋トレ後で筋肉痛だから上げるの無理。上げられないなら下に行けば良いじゃん。」

そう言い放つとベルトをハサミで切り落とした。

「え、落ちてる。死ぬのかな。悔しい。死にたくない。まだやってみたい事沢山あったのに。」

僕は呆気なく4階から地面に叩きつけられた。

身体中の感覚が無い、目の前が真っ赤で何も見えない。ただ微かに聞こえるのは学生たちの悲鳴や笑い声、先生達の焦った声だけだった。


「あー。ここで死んだんだ。まぁ、生きてても辛い事ばかりだったからなぁ。」

これを最後にこの世界から僕という存在はいなくなった。




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