猫かぶりな恋?

第6話 縮まった距離

6-01

この前の一件以来、あたしと奏の距離はぐっと縮まった気がする。

『見てー。明日のお弁当すごい上手く作れた!』

『おー、うまそうだな』


毎日SNSでなにかしら何気ないことをやりとりしてて。

あたしから送ったり、奏から送られてきたり。

スマホが鳴るのを自然と楽しみにしていた。

返事早く来ないかなーなんて思ったりね。


今日は月曜日。

なんとなくいつもよりも早めに目覚めたあたし。


いつも寝起き悪いのに目覚ましなしでスッキリ起きられた!

朝が輝いてる感じがするのはなぜ?


起きてすぐにスマホのチェック。

奏からは何も来てない。

うーん、残念。


『おはよー』

送ってから朝の支度をはじめた。

支度しながら、無意識にチラチラとスマホを見てる。

なんであたし、こんなに奏からの返事を気にしてるんだろう。


通知音がしてそのままパッとスマホを開くと、奏から『起きんの早いな』と返ってきてる。

思わずちょっとにやける。


…ん? 何これ!?

えっ、ちょっと待って、もしかしてこれ…。


好きってこと…?


そう思った瞬間、あり得ないくらい心臓がドキドキと動き出した。

恋なんてしたことがない。


でも、これ、今まで経験したことのない感情。

多分だけど、直感が恋って告げている。


だってこの気持ちにその名前をつければストンと納得しちゃうもん…。

あたしが、あの奏のこと好きになるなんて…。


新しい感情に戸惑いながら家を出て、学校への道。

気づいたら奏のことを探してキョロキョロしている。

うわ~…、やっぱり好きっぽい…。


そのとき、後ろから髪の毛を誰かにぐしゃっとされた。

驚いて振り返ると奏。

心臓がひっくり返る。


「はよ」

そう言って笑う奏を見ると、心臓からきゅっと音がする。

奏が自然とあたしの隣で歩き始めた。


「お、おはよ…」

な、なんか今までみたいに出来ない…。


あたし変じゃないかな!?

奏と歩いてるときいつもこんな距離近かったっけ…。

今までのこと全部分からなくなったよ…。


「もうすぐ試験だな~」

「あっ…、そうだね」

「また試験勉強手抜くのか?」

「えっ、あ、うん…」

「…くるみ、なんか今日変じゃね?」

「そんっ…なことないけど!?」


思わずキレ気味に答えてしまった…。

あたしってほんと…。


それから、ほとんど何を会話したかも覚えてないまま学校に着いた。

「じゃあな~」

「じゃ、じゃあね」


教室の席に座ってぐったりとする。

朝から疲れたけど、一緒に登校できて嬉しかったのも事実だ…。


「おはよー、くるみちゃん!」

「おはよう」

「王子と朝から一緒に学校来てたの見てたよー! ラブラブだね~」

「そ、そんなことないよ? たまたま会っただけ…」

「ならもっと嬉しいね!」


一気に顔が赤くなった。

これじゃまじでピュアキャラじゃん!

やだやだ!


そのとき、教室に入ってきたクラスの女の子たちの会話が聞こえた。

「ねー! さっき王子の教室行ったんだけど、王子の筆箱にハリセンボンのキーホルダーついててさ~」

「何それ超意外! 王子そういうの好きなのかな? 可愛い~!」


えっ…。

それってこの前買った…?

やば、すごい嬉しいかも…。

日常で使ってくれてるんだ…。


嬉しい気持ちを抱えたまま一日を過ごし、放課後。

うーん、奏に会いたいけどどんな顔して会えばいいか分からないから帰りは別々で…。

そう思ってスズナちゃん達とコソコソ帰ろうとしたのに、奏に見つかった。


「くるみちゃん、一緒に帰ろう?」

う~…赤くなるな、顔~!


っていうか、なんであたしとわざわざ帰るの…?

今日は柚子ちゃんと約束もしてないし、一緒に帰る理由はなに…?


「彼女のこと呼びにくる王子やばい! 健気で超~かわいい!」

スズナちゃん達がなぜか喜んでる。


いやいや、こいつ健気とかそういうのとは真反対だから…。

あたしのことこき使いに来たとか?

多分そんなとこだろう。

腹黒王子…。

ほんと、何でこんなやつのこと好きになんか…。


なんてぶつぶつ考えてたらいつの間にか「じゃあ邪魔しちゃ悪いから帰るね!」とスズナちゃん達はいなくなってた。

とりあえず奏のことをにらむ。


ほぼ照れ隠し!

可愛げがなくて自己嫌悪…。


「で? あたしに何させようとしに来たの?」

奏に聞くと、返ってきたのは意外な答えだった。

「勉強教えてやるよ」

「は?」


ぽかんとするあたし。

今さら勉強…?

あたし、勉強できない子としてキャラ作りしてるんだけど…。


「いつまで頭悪いフリすんの、お前」

「…」

「俺が勉強教えてやるから50点上げろ」

「へっ!?」

ご、50点!?


あたしの現在の点数はだいたい20点か30点くらい。

50点上げたら70点か80点…?

そんな簡単に点数取れたらあたしだって頭悪いフリなんてしてないよ。

でも…。


「やっ…てみたい、かも…」

気づいたらそう言っていた。

あたし、きちんと勉強してみたい…。

奏はふっと優しい表情で笑った。


「じゃあ俺んち行くぞ~」

というわけで、奏の家に来た。

家の中は、外と違って誰の視線も気にならなくて嬉しい。

外にいたら誰かしらには必ず見られてるもん。あたしが可愛いから…。


いつもはリビングだから、奏の部屋に入るのは初めてだ。

柚子ちゃんはお仕事で、ご両親も不在。

2人きり。

やばい、なんか緊張する…。

それに…。


『お兄めちゃくちゃエロいでしょ!?』


柚子ちゃんの言葉が脳内によみがえる。

えっこの状況やばくない!?


「奏、エッチなことしようとしてる!?」

思わず口にしてしまった。

何言ってんのあたし!


「は!?」

「だって誰もいない家で2人きりで勉強って…。エッチの前兆でしょ…?」

「何だよその偏見…」

だって前の彼氏がそう言ってたもん…。


奏はそんなあたしにお構いなしで、カバンから教科書を出して広げ始めた。

「始めるぞ~」

「はーい…」

「ちなみに、得意科目と苦手科目は?」

「うーん…。勉強をちゃんとしてた頃は、数学は割と出来てて、歴史とかが弱かったかな」


暗記科目苦手だもん…。

日本史とか英語とか生物とか。

「くるみはそういうの、単語で覚えようとしてるだろ。そうじゃなくて理屈をまず知るんだよ」

奏が言った。


え~?

日本史なんてモロ覚える科目じゃん…。


「日本史とかって暗記科目じゃないから。ああいうのは歴史の流れを理解することで覚えんの」

「うーん…?」

「単語を覚えようとするんじゃなくて、どういうことが起きたからその結果こういう歴史になったっていうことをまず理解すんだよ」


うーん、分かったような、分からないような。

「くるみは頭悪いんじゃなくて勉強のやり方わかってないだけだろ。喋っててもお前のこと別に頭悪いとか思わねえし」

奏が言った。

えっ、それほんと…?


「つーわけで教えるから。はい、教科書開く!」

「はーい」


奏先生による日本史講義が始まった。

教科書に書いてあることをかみ砕いて歴史の流れを教えてくれる。


分かりやすいし面白いかも…。

ドラマ聞いてるみたいだ。

でも…。


「で、ここは…」

教科書を指し示す奏の腕があたしの肩に触れる。


な、なんか奏との距離が近いっ!!

やばい、なんかめちゃくちゃドキドキする…。

こんなのあたしじゃないんだけど!?

すぐに気が逸れるのをなんとか集中して、一段落ついた。


「お疲れ。ちょっと休むか」

ふ~…。

奏との距離が開く。


「あたし、人とこうやってまともに勉強したの初めて」

「まともじゃねえのはあったわけ? 誰と」

「前の彼氏とね。まあ色々と…」


エロ家庭教師ごっこさせられたとか言えない…。

奏には、スズナちゃんとかにバレたくないのとは違う意味でバレたくない!

なのに…。


「色々ってなんだよ」

「色々は色々…」


なんでそこ深掘るの!?

奏が更に続けた。


「今更俺に隠すことあんの? っつか前の彼氏とほぼセフレ状態だったんだよな? なんで一緒に勉強?」


なんか口数多いし…。

まさか嫉妬…?


なわけないか…。

もうこれ以上聞かないで欲しい…。

あたしは話を逸らした。


「で、でも、奏って意外と紳士? だよね」

「は? なにが」

「部屋で2人きりでも襲ってこないじゃん。部屋で男女が2人ってそういうことするもんでしょ?」


って、あんまり話逸れてない!

頭がそういうモードになっちゃってるからだ。

あたしのバカ…。


「…お前のその感覚はなんなの?」

奏がちょっと真剣な顔で言う。


だって前の彼氏がそう言ってたから…。

その前に遊んでた人とかも…。

あたしがそう言ったら、奏がちょっと怒った。


「同意もないのにあり得ねえから。そんな奴らろくでもねえから信じんな」

「でもそういうもんじゃないの…?」

「そういうもんじゃねえよ。もっと自分のこと大事にしろ。大事にしてくれるやつを選べよ」


奏はあたしのために怒ってくれるんだ…。

あたしのことそうやって大事にしてくれる奏のことを、あたしは好きなったんだよ…。


それから奏と試験勉強する日が続いた。

ほぼ毎日奏の家に行って勉強してる。

なんか勉強って楽しいかも…。


「点数伸びてきたな」

奏があたしの練習問題の答え合わせをしてそう言う。


「あたしもやればできるよね!?」

「ははっ、自信満々だな」


そう言って奏があたしの頭を軽く撫でた。

突然のことにドギマギしてしまう。


「髪ほそっ」

「…」


奏があたしの髪の毛に指を通す。

優しく頭撫でられてるみたいだ…。

心臓がドキドキしすぎておかしくなる…。


「この色、地毛?」

「うん、元々ちょっと色素薄い…」

「綺麗だな」


なんかすごい褒めてくるっ!!

ちょっと良い雰囲気…?

幸せかも…。


心が通じ合ってるみたいな、そんな感覚。

奏もあたしのこと好きになってくれたら良いな…。

でも、そうじゃなくても、なんだかこの時間だけで十分って思える。

好きなんだな…。

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