今度こそと思ったら事件が起きた話(前編)
本編直後から
語り手:ティア
黄虎とクーとミミが先陣となり入っていったからだろう。牧場の入り口は従業員と魔物たちで埋め尽くされていた。
「お帰りなさい!」
人の声と魔物たちの歓迎の鳴き声が響き。
魔物たちにおしくらまんじゅうされ歓迎を受け、そのまま家になだれこんだ。
一緒に入ってきたパズーさんは、言いにくそうに口を開く。
「オーナー、帰ってきて早々になんですが、手紙を預かっています」
「手紙?」
モードさんが首を傾げる。
荷物を椅子の上に置いて、パズーさんから手紙を受け取る。
封を切り、中の便箋を広げた。
モードさんの眉間にシワがよっていく。
「悪い知らせ?」
思わず尋ねると、モードさんはわたしに視線を移し首を横に振る。
「戻り次第、城に来いと。……聖女行脚の詳細を聞きたいのだろう」
モードさんは大きくため息をついた。
「みんな、俺は城に行かなくてはならない。ティアのことをよろしく頼む」
モードさんはわたしの頭にポンと手を置く。
パズーさんもペクさんも頷いてから、仕事に戻っていった。
「モードさん、お城にはどれくらい? わからないか……」
モードさんに両頬を持たれて驚く。
「お前を置いていくのは忍びないが、城でひとりにする方が心配だ。だからここにいてくれ」
そう言ってモードさんはわたしに口づけた。思い切り、さりげなく。
ちゅっとリップ音を立てて。
モードさん、自然すぎ!
そして耳元で囁く。
「お預け食ってるからな、なるべく早く帰ってくる」
胸がドキッと音をたてる。そんなわたしを置き去りに、モードさんはクーとミミにも頼み込む。
「クー、ミミ。ティアのこと頼んだぞ」
『頼まれたぞ』
『任せておいて』
「ティア、見送りはいい。お前は休んでろ」
モードさんはもう一度わたしを名残惜しそうに見てから、黄虎とドアをでる。
やばい、旦那さまがかっこいい!
モードさんへの大好きが止まらない。
そして帰ってきたら……。急いで帰ってくるって言ったから、もしかして夜帰ってきたりする?
だから休んでろって言ったのかな?
早くても帰りは明日になるだろうけど、ちゃんとお帰りなさいをしたい。
夫婦になってから初めての旦那さまのお帰りだもの。〝妻〟のわたしがしっかり出迎えなければ。だとしたら夜更けに帰ってきたとしても起きていなくちゃね。
わたしは荷物の整理し、洗濯物を洗って荒技の魔法の風で乾かした。
そして早めの夕食をとる。
牧場のことも何か手伝えるか聞いたけれど、今日はとりあえず休んでくださいと言われたので、お言葉に甘えて早々に眠ることにした。
まだ日のあるうちから。
黄虎の上でもたっぷり眠っていたしと思ったけど、自分の部屋で上掛けにくるまると、安心したのかスーッと眠ってしまった。起きたのは朝だ。自分でもびっくりした。慌てて確かめたけれど、モードさんはまだ帰ってきていなかった。
お出迎えしはぐったわけでないことには安堵し、けれどまだ帰ってないのかと寂しい気持ちになる。
さて、今日からは、しっかり牧場のお仕事もしていかなくちゃね。
着替えて下に降りていき、朝ごはんの支度をする。
パズーさんたちは朝ごはんにやってこなかった。昨日の今日なので、従業員寮で今まで通りにやってくれているのだろう。
朝ごはんができると、クーとミミも降りてきた。3人で朝食を済ませる。
家から出ると、モーちゃんたちが待ち伏せていた。
みんなにハグしていく。ブラッシングをねだるので、順番にやる約束をする。洗濯は昨日済ませたので、今日は時間がいっぱいある。魔物たちと触れ合う時間にしよう。
そのうちパズーさんたちがやってきて、今日は今まで通り仕事を進めてもらい、わたしもそれに便乗する形で手伝った。
お昼を過ぎてもモードさんは帰ってこない。
日が陰りだした頃、パズーさんがそれに気づいた。
「た、大変です、ティアさん!」
「どうしました?」
「メイメイが1頭いません!」
「え?」
「リュクがいません!」
!
メイメイのリュクはみんなよりちょっと小柄でそしておっとりマイペースな子。眠ることを何より愛しているので、厩舎の寝床や、日向ぼっこに適したところで寝ていることが多い。
「みんなで手分けして、牧場中を探しましょう」
牧場の門は固く閉ざしている。
でもメイメイは飛ぶことができる。だって、飛んでこの牧場に入ってきたんだもの。
わたしは山裾の方を請け負って、クーとミミと一緒に探した。セグウェイを走らせ、途中で会う子たちにリュクを見なかったか尋ねたけど、みんな見てないようだった。
メイメイは魔物だ。牧場内で放し飼いは許可されているが、テイムされてるとはいえ、魔物だけで街中にいたら大問題!
そして街中で何かあったらさらにまずくて、牧場存続の危機にもなり得る。
「リュクー?」
大声で呼ぶが反応はない。
マイペースとはいえ、どこか知らないところに行ってしまって、不安になってたら可哀想だ。
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