音の先に~拓巳の夢

mynameis愛

第1話 久しぶりの団らん

 拓巳と雪は、久しぶりに顔を合わせる機会を得た。かつての仲間たちと集まったその場は、どこか懐かしく温かい空気が流れていた。拓巳は部屋の隅で軽くギターを弾きながら、静かな笑顔で話に耳を傾ける。彼は、普段は周囲を和ませる存在で、誰にでも優しく接する。しかし、その一方で自己表現が苦手で、真剣に自分の夢を語る場面では引っ込み思案になることが多かった。


 雪はその点、まったく異なる人物だった。親切で思いやりがあり、他者の気持ちを理解する力を持つ彼女は、周りの人々の心をつかんで離さない。ただ、雪は他人の意見をまとめるのが得意で、その場の調和を取るのが好きだが、時折「騙すこと」を得意とする一面を見せることもあった。それは悪意からではなく、状況をうまく切り抜けるための手段であった。


 拓巳と雪が向かい合い、何気ない昔話に花を咲かせる。そのやり取りは、どこか温かく、安心感を与えるものであった。


 拓巳は口を開いた。「あの頃さ、よくギター弾いてたよな。みんなで集まってさ。あの時、みんなの顔が今でも忘れられないんだ。」


 雪は柔らかく微笑んで答える。「本当に、あの頃は楽しかったね。拓巳もあの頃から変わらず、音楽が大好きだもん。」


 拓巳は目を伏せる。「でも、あの時みんなが応援してくれたけど、今も一歩前に進めてない気がしてさ。」


 雪はその言葉に気づく。「でも、拓巳が音楽を続けていること自体が、すごく大きな意味があると思うよ。誰かに応援されるためじゃなく、自分がやりたいから続けるってことが。」


 拓巳は少し照れくさそうに肩をすくめる。「でも、どうしても不安があるんだ。自分が本当に音楽で食べていけるのか。みんなに迷惑をかけたくないし。」


 雪は少し沈黙してから答える。「不安だよね。でも、拓巳がその不安を乗り越えて、何かを成し遂げた時、その過程が本当に大切なものになるんじゃないかな。」


 拓巳はギターを弾く手を止め、雪の顔をじっと見つめる。その視線には、かすかな決意が宿っていた。


「うん。雪の言う通りだね。自分のためにやることが、結局みんなのためになるんだろうな。」


 雪は静かに頷くと、再び微笑んだ。拓巳のその言葉が、雪の心にも響いた。

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