魔法少女『マジカル☆サリナ』

ソーマ

可憐な魔法少女、爆誕☆

魔法少女……

それは夢見る少女たちにとって憧れの存在。

煌びやかな衣装を身に纏い、キラキラと輝く魔法で華麗に悪魔と戦う少女たち。

自分もその華やかな姿になりたい。

そう思う少女は数多い。


「はぁ~~……私も魔法少女になりたいなぁ~~……」


そう言ってため息を吐いているのは多々見紗理奈(たたみ さりな)。

魔法少女に並々ならぬ憧れを抱いている、夢見るお年頃の少女だ。

紗理奈は昔悪魔に襲われかけたことがあった。

そこを魔法少女に助けられたことから紗理奈は魔法少女に対して強い憧れと願望を抱くようになったのだ。


「夜空のお星さま、私のお願いを聞いてください……私を魔法少女にしてください。そしてあの時助けてくれた魔法少女のお姉さんみたいにカッコよく華麗に悪魔と戦いたいんです……」


紗理奈は自分の部屋のからベランダに出て目を閉じ手を合わせて祈る。

これがもはや紗理奈の日課となっていた。

しかし今日はいつもと違った。


『キミの願い……通じたよっ!』


紗理奈の耳にそんな声が聞こえてきたのだ。


「え……?」


想像していなかった事態に紗理奈は恐る恐る目を開ける。

そこには紗理奈の手のひらくらいの大きさの、薄緑のウサギのような生き物がふわふわと浮いていた。


『やぁ、ボクはミミ! 妖精の世界からやってきたんだ! キミの名前は?』

「私は、紗理奈……」


妖精の世界からやってきたというミミと名乗った目の前の生き物に、紗理奈は自分の名前を無意識で呟く。


『サリナかぁ……良い名前だねっ! それじゃあ早速なんだけど、魔法少女になってボクと一緒に悪魔と戦おう!』

「えっ! 私、魔法少女になれるの!?」


ミミの言葉に目を輝かせる紗理奈。


『そうさ! キミは毎日欠かすことなく魔法少女になりたいって願ってたよね。魔法の力は願いの力。サリナ程の願いの力ならとても強い魔法少女になれるはずさっ!』

「うんっ! なる! 私、魔法少女になる!!」

『決まりだね。それじゃあ手を出して!』


ミミの言葉に頷き、紗理奈は右手をミミの前に出す。

すると手の上に光の玉が現れ、紗理奈の手の中に吸い込まれていった。

そこから紗理奈の体中に広がっていき、全身が虹色に輝きだす。

それと同時に紗理奈の着ていた服が光の粒となった。


「わっ!? 服が……!」

『大丈夫、魔法少女用の衣装に変換しているだけだよ。そのままの服で戦うのは危険だからね』

「あぁ、よくアニメでやってる家族みんながいるリビングで流れるとちょっと気まずいサービスシーン的なアレ?」

『う、うん……? ま、まぁそんな感じかな』


ちょっと頬が引きつるミミはさておいて、紗理奈が着ていた服だった光の粒はすぐに形を変えて紗理奈の体を覆う。

光が収まると、紗理奈の服はさっきまでの普通のTシャツとスカートではなく、煌びやかでフリフリのドレスになっていた。


「すごーい! 可愛いー!!」

『見た目は可愛いけど防御力は普通の服とは段違いさ! それに破れたり汚れたりしても魔力で元通りにできるんだよ!』

「へぇー! それならビリビリに破られてあられもない姿になっちゃって、リビングで一緒に見ていた家族との間で何とも言えない微妙な空気が流れるシーンみたいなことになっても平気だね!」

『……ねぇサリナ、キミは一体どんなアニメを見てきたの?』


時々よく分からない発言をする紗理奈にミミはちょっと引いた。


『……はっ! そんなこと気にしてる場合じゃない! 実はこの辺に悪魔が現れたという情報をキャッチしたんだ。ボクはその悪魔を悪魔界に送り返す戦力になってくれる魔法少女を探しに来てたんだよ』

「その魔法少女が私ってわけだね?」

『そういうこと! ……手伝ってくれるかい?』

「もちろん! 行こっ、ミミ!!」

『そう来なくっちゃ!! じゃあつかまって!』


紗理奈の返事ににっこりと笑って頷いたミミは前足で紗理奈の手を掴む。

すると急に周りの景色が今までいた自分の部屋とは違う所に変わった。


「ここは……学校のグラウンド……?」


紗理奈はこの場所に見覚えがあった。

ここは自分が毎日通っている学校のグラウンドだ。

しかしいつもの光景とは違う。

色があちこち濁っていて空間も変に歪んでいる。


『うん、でも悪魔のせいで空間が隔離されている。このまま放っておいたら悪魔界とつなぐゲートになっちゃうんだ。そうなったら大変なことになる!』

「そうなる前に悪魔を倒せば良いんだね?」

『そういうこと! でも気を付けて。悪魔は強い。こっちの世界の攻撃は殆ど効果が無いんだ。魔法少女の魔法でないと有効なダメージは与えられない……と言ってるそばから、来たよ!』


そう言ってミミは前方を睨む。

ミミの睨んだ空間が一際大きく歪み、裂け目のようなものになった。

その裂け目から手が伸びてくる。

その手はカエルのような皮膚をして黒くて大きな爪が伸びている。

それに手のひらだけで紗理奈の顔を完全に覆うことができそうな大きさだ。

その手が空間を無理やり引き裂き、悪魔が顔を覗かせる。

目は赤く光り大きな口からは何本もの牙が生えていた。

纏うオーラが住む世界の違いを感じさせる、恐ろしい姿だ。


『ギシャアアアアァァァァァ!!!!』


悪魔が空に向けて咆哮する。

それだけで辺りの空気だけでなく地面も震えている。


『さぁサリナ、キミの初陣だ! 相手は強いけどサリナだって負けちゃいない! 強い心で立ち向かって戦うんだ!』

「戦うってどうやって? さっきの話だと魔法じゃないとダメなんだよね?」

『さっきも言っただろ? 魔法の力は願いの力。サリナの願いが魔法となって現れるんだ!』

「つまり私の思ったことが現実になるってこと?」

『うん、そういうことだよ!』

「分かった! よーし、じゃあいっくよー!!」


そう言って紗理奈は物怖じすることも無く全速力で悪魔に向けて走り出した。


『……って、サリナ!? どこに行くの? 魔法は!?』

「…………ほおおおおぁぁぁぁぁぁ……」


驚くミミをよそに紗理奈は悪魔との距離を詰める。

そして悪魔の足元で足を止め、息を大きく吸い込んだ。


『グルオオオオオォォォォ!!!!』


当然悪魔は紗理奈を叩き潰すためにその大きな手を振り下ろした。


『ダメだサリナ! 服は魔力で簡単に直るけど体はそうはいかない!! 死んだらそれまでなんだよ!?』


ミミは必死に止めようとするが紗理奈は引かない。

悪魔の巨大な手が紗理奈を襲う!


『サリナーーー!!!』

「ほぁぃっ!!」

『!?』

『ギィィッ!!?』


しかし紗理奈は上手く指の間を抜けて避けて跳んだ。

予想しなかった事態にミミも悪魔も呆気にとられる。

大振りの攻撃を避けられた悪魔は隙だらけだ。


「あたぁっ!!」


その悪魔の顔面に紗理奈はまっすぐに拳を突く。


『ダメだってサリナ! さっき言っただろ!? 魔法でないとダメージは与えられないんだ!!』


ミミの言う通り、紗理奈の拳は悪魔の眉間に当たったがダメージは全く通っていない。

悪魔も自分の攻撃が避けられたことには驚いていたが、向こうの攻撃が自分に全然効かないことに気付き余裕を取り戻す。


「ほぁーーーあたたたたたたたたたた……」


それでも紗理奈はお構いなしに何度も悪魔を拳で殴る。

しかしやはりダメージは無い。

悪魔も余裕ぶって仁王立ちをして紗理奈に殴らせまくる。


「あーーたたたたたた……ほぁたぁっ!!」


トドメとばかりに気合を入れて悪魔の顔面の中心を殴る紗理奈。

もちろんこれもダメージらしきものは与えられていない。

紗理奈の攻撃が終わったのを見て、今度はこちらの番だと言わんばかりにゆらりと悪魔が動き出す。

拳を握りしめ紗理奈に向けて引き絞る。

先程の紗理奈の軟弱な拳撃とは違い、かすっただけでも紗理奈の細い身体など吹き飛びそうだ。


『サリナ、逃げてーー!!!』

「大丈夫だよ、ミミ」


懸命に叫ぶミミに紗理奈は微笑む。


「…………あなたはもう、死んでいる」


そして悪魔の方を見て指さしそう告げた。


『ガッ……!!?』


それと同時に悪魔の表情が歪んだ。

いや、表情だけではない。

顔そのものも歪んでいる。


『ガガッ……グッ…………グゲッ……』


歪みはもう顔だけではなく全身にまで広がっている。

悪魔の体のあちこちが不自然に膨らみ……


『ア…………あべしっ!!』


そして爆散した。

悪魔の上半身は吹き飛び、内臓が飛び散る。

悪魔の血液であろう紫色の液体が噴水のように噴きあがり辺りを濡らしていく。

しばらくはビクビクと痙攣していた悪魔(下半身のみ)だが、やがて大きな音を立てて倒れた。


『……………………は?』


ミミは今自分の目の前で起きたことの意味が分からず呆然とする。


「いぇーい、決まったね! 技名は……そうだなぁ、『マジカル☆百裂拳』とでも名付けようかな?」


一方の紗理奈は嬉しそうに飛び跳ねている。


『いや、ちょっ……ちょっと待って!? 今何したの? なんであの悪魔は爆散したの!!?』

「あの悪魔のツボを突いた……って言えたらカッコ良かったんだけど、私ツボには詳しくないしそもそも悪魔にツボとかあるのか分からないからね。殴るのと同時に時限式の爆発魔法を体内に埋め込んだんだよ」

『あ、あれはそういう意図があったの!?』


一見無駄に見えた紗理奈のパンチだが、その1発ずつに爆発魔法を仕込んでいたらしい。


「ミミの言った通りだね! 魔法の力は願いの力。願いが強いほど魔法も強くなるんだね!!」

『ち、違う……ボクの考えてた魔法と全然違う……』


はしゃぐ紗理奈を横目にうわごとのように呟くミミ。


『…………って、あれ?』


ここでミミは1つ疑問に思うことがあった。


『悪魔は普通、魔法少女に倒されたら光の粒となって消えるはずなんだけど……』


そういうミミの視線の先にはまだ悪魔(下半身のみ)が倒れている。

飛び散った血飛沫や内臓もそのままだ。

ここまでスプラッタなことになっているのだから、実はまだ生きていました……ということも考えにくい。


「光の粒になって消える? そんなことあるわけないじゃない……ファンタジーやメルヘンじゃあないんだからさぁ」

『いやファンタジーだよ! メルヘンだよ!? はっ……もしかして、これも魔法!?』


紗理奈に突っ込んでいるうちに1つの可能性に行きついたミミ。

魔法の力は願いの力。

紗理奈がこれを強く願ったのであればこの惨状も十分ありえる。


「魔法って凄いんだね! 毎晩お星さまにお願いした甲斐があったよ」

『サリナ……キミは一体どんなお願いをしたんだい?』


どんな願いをすればこんな惨状を生み出す魔法を使うようになるのか、ミミには見当もつかない。


『グルルルルルル…………』

『……はっ!? まだ残党がいたのか!?』


何やら低く呻くような声が聞こえてきたミミは声がした方を振り向く。

するとそこにはさっきの悪魔が開いた空間の裂け目から別の悪魔が入り込んできていた。


「あれ? まだいたんだね、悪魔。ちょうど良いや、他にも試してみたい技があったんだよね」

『え?』

「『マジカル☆壊骨拳』とか『マジカル☆残悔拳』とか、色々ね」

『何その物騒な技名!? 何でもマジカル付けりゃ魔法少女っぽくなるわけじゃないんだよ!!?』

「それじゃあいっくよー!」

『待ってサリナ! ……逃げてー! 悪魔の皆さん早く逃げてぇぇぇ!!』


嬉々として悪魔に向かっていく紗理奈に対し、ミミは悲痛な叫び声をあげるのであった。

……大半は悪魔に向けたもののような気もするが。



「……ふぅっ、こんな物かな?」

『ああぁ……間に合わなかった……』


実に晴れ晴れとした表情の紗理奈に対し、ミミは絶望と後悔の表情でがっくりと膝をつく。

それもそのはず、紗理奈とミミの周りは悪魔だったものの残骸が所狭しと飛び散っているからだ。

結局出てきた悪魔は全員紗理奈の拳(に見せかけた爆発魔法)で吹き飛んだのだ。

全員散り際に『ひでぶっ!』だとか『たわばっ!』など個性的な断末魔の悲鳴を上げていたのが印象的だった。


「あぁでもあれもやってみたかったなぁ……気合と共に上半身だけ服を弾き飛ばして大技を撃つってやつ。魔法少女の醍醐味だよね」

『それ何か別のやつ混ざってない!? そんな魔法少女いないからね!!?』


心底残念そうに呟く紗理奈に突っ込むミミ。


『と、とにかく……早く空間を元に戻さないと……新しい被害者が出る前に……』


ブツブツとうつろな目で呟きながら空間の裂け目の前で念じるミミ。

するとミミの周りに光が集まりだした。


『……おおっと、そうはさせないよ』

『! この声は……!』


しかしそこに声が割り込んできたことでその光は散り散りになって消えた。

その声にミミの目が真剣なものになる。

空間の裂け目から出てきたのは今までの悪魔とは違い、人間の女性に近い姿をしていた。

ただ頭には禍々しい角が2本生えており、目つきは鋭く冷たい。

そして何よりもどす黒い魔力のオーラが湧き出していた。


『……悪魔女王……!』

『精霊王の飼い犬が……我々の侵略計画をいつも邪魔してくれおって! しかしそれも今日で終わりよ。今日は我が悪魔軍の総力を集めた。その圧倒的な力で人間界を蹂躙してくれるわ!!』

『あ……あぁー……』


ミミを睨みつけながら威圧する悪魔女王だが、ミミはどこか気の抜けた声で明後日の方をみやる。


『ふふん、怖気づいたか? でももう遅い。先程先鋒隊が人間界に乗り込んで…………って何これえええぇぇぇぇ!!?』


ミミのリアクションに得意気になっていた悪魔女王だが、今になってようやく周りの惨状に気が付いたようだ。


『えっ……なっ……何この惨状!? 悪魔界でもこんな惨状見たこと無いわよ!? 私間違えて地獄か冥界に来ちゃったの!?』

『……うぅん、ここは間違いなく人間界さ……』

『じゃあ何? 精霊王は我々の侵略に気付いて同じく総戦力で迎え撃ったとか?』

『いや……これはあそこの魔法少女1人が引き起こしたんだ……』

『……え?』


ミミの見た方に目を向ける悪魔女王。


「あれー? お姉さんは誰? ミミのお友達?」

『ひ、ひぃっ!!?』


紗理奈が悪魔女王に気が付いてやってくる。

容姿は可憐なのだが、悪魔たちの飛び散った返り血で凄惨な見た目になってしまっていた。

その姿を見て悲鳴を上げる悪魔女王。


『サリナ……コイツは』

『そ、そそそそそそうなんですぅ! ワタクシはこの子のお友達なんです!! だから殺さないでええぇぇ!!』


悪魔女王のことを説明しようとしたミミだが、それよりも先に悪魔女王が土下座して懇願した。

一瞬『えっ?』という顔をしたミミだが、悪魔女王の気持ちは痛いほど分かるので何も言わないことにする。


「あ、そうなんだ。私は紗理奈だよ! 今日から魔法少女やることになったんだ! だからお姉さんももし悪魔に会ったら私に教えてね? 成敗しちゃうから」

『は、はいいぃぃ!! しかと心に刻みつけておきますううぅぅ!!』


平身低頭の姿勢で紗理奈に誓う悪魔女王。

逆らおうものなら今度は自分が周りの悪魔たちのように内臓をあたりにぶちまけて息絶えることになるのは明白だからだ。

今悪魔女王にできるのは紗理奈の機嫌を損ねないようにひたすら穏便で人畜無害な態度でい続けることだけだ。


『…………私、もう人間界の侵略はやめるわ』

『…………賢明な判断だと思うよ。ああぁ……ボクはなんて子を魔法少女にしちゃったんだ……』


紗理奈には聞こえない大きさの声で呟く悪魔女王とミミであった。



その後、悪魔女王はすぐさま悪魔界に戻り、人間界への侵略の中止を宣言した。

当然不満の声も上がったが、悪魔女王が記録した映像魔法を見せるとその声はピタリと止んだ。

見せたのは言うまでもなく紗理奈が引き起こした凄惨な虐殺現場だ。

これが1人の魔法少女によって引き起こされたものだと悪魔女王が説明すると、大多数が悪魔女王の決断を支持したのである。

中には悪魔女王の姿勢を軟弱だと嘲笑して勝手に人間界に踏み込んだ悪魔もいたが、そういう者は決まって翌日人間界で哀れにも爆散した姿で発見されたという。

また、精霊界では悪魔の侵略を阻止した功績を称えてミミの精霊としての位の昇格が認められた。

精霊たちは揃って歓声をあげてミミを祝福するのであるが、ミミの目はどこか遠くを見ていて生気が感じられなかったという。

悪魔界と精霊界でそのようなことになっているとは露知らず、紗理奈は今日も元気に過ごしている。


「……あっ、次悪魔が来たら『マジカル☆千手壊拳』とか『マジカル☆七死星点』とかも試してみよーっと!」


……時々物騒なことを呟きながら。

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魔法少女『マジカル☆サリナ』 ソーマ @soma_pfsd

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