ぼくは、またぎ

@kamikaze3254

第1話

マタギ


その昔、マタギは各地に存在した。漢達は身を清めチームのルールに則り、山に入山し狩を行い生活の糧とし、短く太い人生を生き抜いてきた。時代の変化の中、マタギは時代の渦に呑まれ猟を糧とし生きるものは、現在ではかなり少なく職業としても認められなくなってきた。


まだひぐらしがどこと無く鳴いている。山の葉が青々とした色から、新しく生命を宿す色に変わり始めた頃だろうか。僕は山を一歩一歩歩き、獲物をトラッキングしていく。迸る汗、乱れる息、沢の音、土の匂い。この全てを五感で感じ、命の取り合いをするのが病みつきでしょうがない。獣道を歩き尾根を越し季節の変わりを横目にしつつ、風で冷える体温を調節しながら歩を進める。勝負の時は一瞬で、ドラマティックな何分尺もあるわけもなく、あるのは数十秒。


そしてその勝負の時は、予測できずやってくる。こちらのタイミングなんか待ってはくれない。この日もそうだった、僕は薬室に弾を込め、獲物の首に銃の標準器を当て淡々と引き金を引いた。トーンと、日本では非日常の音が山の中を劈く。山の中には乾いた空気と火薬の匂いが充満する、この瞬間はマタギにしかわからない。首を撃たれて倒れない獲物はいないわけで、引き金を引いた瞬間に獲物は倒れていた。まだ息のある獲物なの横に駆けつける、体は黒くツノは神々しいほど立派な雄の鹿だ。僕は腰から15センチほどのナイフを心臓に突き入れ、一気に引き抜く。獲物の鼓動とひきかえに蛇口を捻るように血液が排出され、息が弱くなっていく。この雄鹿は僕が明日生きる糧になって、私を今日生かせてくれた。


僕はマタギ、これが仕事。



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