第13話 来訪者
翌日はアイナの猟にカプルとアッグも付いて行った。彼らにとって、アイナの猟に参加することは特別な体験であり、期待で胸が高鳴っていた。
実は、カプルとアッグはまだアイナと一緒に猟に行ったことがなく、昨日ミロスとヨイチが楽しそうに狩りをしているのを見て、羨ましさでいっぱいになっていたのだ。
彼らは自分たちもその冒険に加わりたいと心から願っていたが、仕事の初日であるため、村の案内やゲッターのサポートの仕方を他のゴブリンたちに教えるために、2人には村に留まってもらう必要があった。
カプルとアッグの目は輝き、アイナと一緒に狩りの場へ向かうその姿は、まるで子どもが新しいおもちゃを手に入れたかのような無邪気さであふれていた。
ゲッターは、彼らがどんな顔をして帰ってくるのか、心の中で楽しみにしていた。
女たちは楽しそうに矢作りを始めており、その笑い声や話し声が村の中に響いていた。
ジュアは、昨日アイナたちが狩ってきた獲物をどのように燻製にするかを弟子のゴブリンたちと熱心に相談していた。
この日のゲッターは、畑仕事の道具作りから始めた。
鋤、鍬、鎌、桶、柄杓、手押し車など、畑担当のゴブリンたちと相談しながら次々と道具を作っていった。
その最中、1人の大人しそうなゴブリンがとても的確に、また積極的に意見や相談をしてくるのにゲッターは気付いた。そのゴブリンは、他のゴブリンたちとは違い、独自の視点を持っており、その発言はいつも的を射ていた。
ゲッターは、話をしているうちにそのゴブリンに名前がないのが不便に感じてきたので、思い切って尋ねてみた。「君、名前は?」とゲッターが聞くと、そのゴブリンはやっぱり首を振った。
そこでゲッターは、「なら私が名前を付けてもいいかな?名前がないと呼びにくくてね」と言った。
すると、そのゴブリンは「オネガイシマス」と頭を下げて、まるで名前をもらえることを心から望んでいるかのようだった。
ゲッターは少し考えると、「シンタと言うのはどう?」と言った。
シンタは「シンタ…。イイデスネ」と笑顔で了承し、その瞬間、彼の表情には喜びと感謝が溢れた。
すると、それを見ていた他のゴブリンたちも「オレニモツケテ」「ナマエツケテ」と言って集まってきた。彼らもまた、シンタのように名前を持ちたいと思っていたのだ。
今は仕事中なので、ゲッターは「名前が欲しい者は夕食の時にもう一度来てくれ。その時付けるから」と言って畑担当の者以外は下がらせた。
その後もゲッターがシンタや畑担当の者たちと相談していると、シンタが「スイロデ…カワカラ…ミズヲヒキタイ」と提案した。彼の言葉には、村の生活をより快適にしたいという熱意が込められていた。
「わかった。今後の課題にしよう」とゲッターは言ってその場を離れた。
ゲッターはその後、男たちの家を新しくしていった。
途中、アイナが戻って来て獲物を運ぶ手伝いを頼まれた。
今日初めてアイナの猟について行ったカプルとアッグは、口をあんぐり開けて何も言えずに固まっていた。彼らの顔には今まで見たことがない驚きと興奮が入り混じった表情が広がっていた。
ゲッターは「やっぱりな」と思い、何も言わずに2人をそのままにして森の中に入って行った。
その後は穏やかな日が続いた。
村ではあの日以降、名付けが流行していた。
ゲッターに名付けを頼んでくる者が多かったが、アイナやガプロ、ミロスに頼む者も多かった。
アルやイレも頼まれたらしく、アイナに相談している姿が見受けられた。
ゴブリンたちの中には、自分で決めた者がいたり、何個も名前を持っている者もいた。
ゴブリンの名前は2文字か3文字のものがほとんどで、4文字の名前を持つ者は数人しかおらず、5文字以上の者はいなかった。
村のゴブリンたちはまだ発声練習中で滑舌が悪く、長い名前は呼びにくいのだ。
ゲッターが新しく生まれた子に「エカテリーナ」と名付けようとしたところ、村の皆から猛反対にあったこともあった。
彼らにとっては、短くて覚えやすい名前が最も大切だったのだ。
村の設備の建設もひと段落し、剣や槍、弓の訓練や文字と計算の勉強の日も取れるようになった。
やはり子どもたちの成長は早く、彼らはすぐに言葉を覚え、話すのも上手になった。
人数が多いので、訓練も勉強もクラスを分けて行ったが、皆が一緒に学び、成長していく様子はとても微笑ましかった。
1番いい先生はガプロで、彼の教え方はわかりやすく、子どもたちに大人気であった。
ゲッターやアイナも負けないように、教え方を工夫しながら日々努力をしていった。
村が急速に発展し始めてから1か月が過ぎたある日のことだった。
ゲッターは自宅でシンタに提案された水路について思考を凝らしていた。
水路を作るなら食事や他のことにも使えるように、畑だけでなく村の中まで引きたかった。しかし、村の中には高低があり、うまく工夫しないと水が流れないという課題があった。
そこで、ゲッターは水の流れを確保するための水車を作ることも考えていた。
最初は水路を作ることに集中したかったのだが、考えているうちにあれもしたい、これもしたいとなり、ゲッターは考えがどんどんまとまらなくなっていった。
そんなゲッターの頭の中には、村人たちの生活をより豊かにするためのアイデアが次々と浮かんでは消えていった。
結局「みんなと相談しよう」と考えることを止めることにしたが、その時、自室の扉がノックされ、1人のゴブリンが入ってきた。
「ゲッター様に会いたいという人が来ています」とそのゴブリンは言った。
彼はレイクという名の男のゴブリンで、ゲッターの秘書をしていた。
レイクはとても頭が良く、すでに文字や計算も一通りできるようになっていた。話すのもわずか1カ月で上手くなり、彼の成長は村の中でも際立っていた。
こんなに優秀なのに以前は小柄で力が弱いというだけで、他の男たちに馬鹿にされていた。
だからゲッターが秘書に誘った時は、彼は涙を流して喜んでいた。
「会おう。呼んでくれるかい」とゲッターが言うと、レイクは「村の外で待っているから来てほしいとのことです。どうしますか?」と尋ねた。
そんなふうに村の外まで呼ばれる人に心当たりがなかったゲッターは、「誰が呼んでいるの?」と尋ねた。
「ドライアドのエリー様です」とレイクは表情を変えずに言った。ゲッターには全く心当たりがない名前だ。
「わかった。行こう」とゲッターは言いレイクと共に村の外へ向かった。道中、彼の心は不安で揺れ動いていた。
果たしてドライアドのエリーはどんなことを話したいのだろうか。
村の発展について、あるいは自然との共存について、何か重要なことを伝えに来たのかもしれない。
そんな思いを抱えながら、ゲッターは一歩一歩、彼女の元へと進んでいった。
⭐️⭐️⭐️
❤️応援されるととてもうれしいのでよかったらお願いします。
励ましのコメントもお待ちしてます。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます