知らなかったばっかりに
星之瞳
第1話
あれ、今日は通りに着物姿の若者がいっぱいだ。振袖に、袴?あぁ、今日は成人式か。俺が成人した時は日にちが決まっていたから気づかなかったな。こいつらにとっては晴れの日。人生薔薇色なんだろうな。
『人生薔薇色』この言葉を聞くたびに薔薇の花を見るたびに、俺は苦い記憶がよみがえる。
そう、まだ若かったころの無知だった恥ずかしい記憶。
「広田さん、こんなとこに呼び出して、何か御用?」
「小野田さん、これ受け取ってください。好きです。付き合って下さい」俺は花束を差し出した。
「これを私に・・・・?」
俺は受け取った彼女がまじまじと花束を見て微妙な顔をしているのを見て困惑した。
彼女は電話を掛け始めた。
「あ、恵、ねえ、黄色のバラの17本の花束の意味ってこうだよね」
「うん、うん、やっぱり。ね、こっちに来て説明してよ。この無知にさ」
俺は彼女が何を言っているのか全く意味が解らなかった。暫く待つと一人の女性がやってきた。
「初めまして、私 沖野恵と申します。広田さん、お聞きしたいのですが、この花束なぜ黄色いバラで、17本なんですか?」
「それは、黄色がお好きだと聞きましたし、小野田さんに初めて会ったのが17歳の時だったから」
「そうですか、あなた薔薇の花の色と本数には意味があるのをご存じですか?」
「いいえ、知りません」
「はあ、告白するのならそれくらい調べてもらいたいものですね。薔薇の花の色にはそれぞれ意味があるんです。黄色には『友情』『平和」などの明るい意味もあるんですが『不貞』『嫉妬』『揺らぐ愛』というマイナスの意味もあって、愛の告白には不向きとされているんです。そして本数にも意味があって、17本は『絶望的な愛』の意味があります。つまりあなたがプレゼントした17本のバラの花束は、告白をするのには全く不向きの物だということです」
「そうゆうこと、これお返しします。お付き合いもお断りします。気取ってバラの花束なんて送ろうとしたんだろうけど、こんなの貰わない方がまし。さよなら」
そう言って花束を俺に返すと、二人は立ち去った。
俺は茫然と見送るしかなかった。
バラの花束さえ送ればすべてうまくいくと思っていた。そんなに細かい意味があるなんて。
それからの俺は薔薇色なんてものは無く、今まで女性とお付き合いをすることも無く、いまだに独身中年。まさに灰色の人生を送っている。
成人式に行く若者たちが眩しい。その頃に戻れたら・・・。そう思わずにはいられない。
知らなかったばっかりに 星之瞳 @tan1kuchan
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