第2話 逮捕令状

 コンピュータールームに腰掛ける人々は、万歳をした格好で、その宣告を聞かされた。


「貴方達には脅迫罪、強要罪、その他の嫌疑がかかっています。ご同行下さい」


 警視庁・超特殊犯罪対策本部付・刑事課所属の長谷川倉江刑事は、左手の逮捕令状を周囲に見せつける。

 彼女に集まる視線は、大多数が恐怖と困惑の色に染まっていた。


「残念ながら、証拠はあります。貴方達の設計したプログラムは、警視庁サイバー犯罪対策課によって、解明されました」


 恐怖と困惑が、増大する。


「ちょっと待った!!」


 部屋の最奥から、トーンの高い声がした。


「待て待て待って?勝手に話進めないでくんない?」

「失礼しました。しかしこれが自分の仕事ですので」

「いやいや、意味わかんない。えっ、何プログラムって」

「無駄ですよ。催眠術とサブリミナル効果を併用した、刷り込みの手法は警察が確認しました」

「僕さ。専門外については、詳しくないの。もう少し分かりやすく、ね?」


 白のタキシードスーツを着た男は、サングラスの下から彼女を見上げる。蛇に似たザラつく眼差しは、殆どの女性が嫌悪感を抱くものであった。

 しかし倉江は、荒ぶる呼吸を生唾で抑え込む。


「……USBですよ」

「へ?」

「被害者の一人に、お子さんからUSBを送られた方がいました。貴方達はダウンロードさせたプログラムを、パソコン本体で展開させる。その為に、ダウンロードの手順を踏まえさせてきた」

「続きを」

「……被害者本人は、USBそのものについては、詳しくなかった。ただ、ダウンロードをする時の癖で、ファイルをUSBにコピーしていたんですよ」

「へぇ」

「私も知らなかったのですが、コピー不可のファイルであっても、コピーを可能にするツールがあるのです。被害者は、そのツールをパソコンに設定していた」

「へぇ……」


 男はその時、刑事の表情が変わったと気がついた。

 嘲笑いだ。


「分かりませんか」

「何が」

「男性なのに、分からないんですね。被害者は男の方でした、閲覧履歴はお子さんが確認する。ここまで言えば?」

「……」

「ああ。ごめんなさい、そういうのには興味無い人でしたか。金でお買いになりますものね?」


 女刑事の挑発に、男は軽々と乗った。


「調子乗んな。アマが」

「ち、調子に乗ってなんか」

「一人で来て、か。勇み足でなんとやら、だ」


 最奥からに近づく男は、手を高々と掲げる。


「皆!安心してくれ!」

「大人しくしなさい!」

「まぁ待て待て」


 男の手振りは、さながら指揮者のようだ。


「その令状、本物かな」

「本物です」

「にしては、変だ。本物に交付される印とは、違うんじゃない」


 倉江の目が細まる。見逃す男ではない。


「つまり偽物!僕達を足止めする為の、道具なだけだ!」

「違います!」

「皆!落ち着いてくれ、この問題には対処のしようがいくらもある」


 男が手を叩く。


「時越武者よ!」

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