016:単騎決戦型に弾幕運用はフラグ
「さて、私の見立てだと、使徒の姿は見えてもおかしくないはずだが……」
あれだけ派手に暴れたのだ。満桜を狙って襲い掛かる可能性は、限りなく高い。
そう接近するという読みで、わざわざ目立つように、おびき寄せていた。
(
満桜は使徒に向けて、様々な仕掛けを用意していた。満桜がいる塔周辺の建物に、自動タレットを配備からの、全方位射撃。
更にその後方には、榎本含めての支援攻撃などと、いくつもの対策を重ねていた。
バルバ迷宮に生息する魔物は地上主体。空を飛ぶ敵など一匹すらいない。もちろん使徒は飛べない情報を得ていた。
これで、何時いかなる時も対応できる。そう考えて、満桜は狙撃塔からの一方的な攻撃方法を選んでいた。
しかし――
『――富士原。姿は確認されていない。繰り返す、未だに使徒の行方は不明。注意せよ』
「……まだ見えていない?」
どんなに要塞周辺を見渡しても、使徒は現れなかった。
満桜は思考を巡らせて、予測を立てていく。
(何故来ない? 諦めて逃げたのか? それなら目論見は外れるけど、当初の目的は遂行できるから問題ないが……)
ただ、いつまで経っても悪い予感は拭えなかった。不安が募り、首を突き刺すような感覚が収まらず、より一層激しくなる。
(何かを見落としている、ような気がする……。もっとよく見て……いや!? 要塞に気を取られすぎた!)
「モード切り替え! チャージする!」
「えっ、満桜ちゃん? 一体――」
「――発射と同時にハンドルを回せ! 標的は目の前! 上空だ!」
見通しが甘かった。
使徒は大群と共に、進軍などしていなかった。深層のゴーレムを全面に出して様子見に徹し、脅威となる者を分析していたのだ。
「――なっ!? 岩っ!? 」
故に、上空からの強襲など対応していなかった。
同時にそれは、戦術プランの弱点である対空防衛の乏しさにも繋がってしまう。
紫の光源はあるものの、それでも薄暗い視界だ。遠くから降って来るものを捉えるのは困難だった。巨体なゴーレムが見えなったからこそ、降り注ぐ大岩の予測軌道ができなかったのだ。
「ダメ! 壁を出すには間に合わないスピードだよ!」
「薙ぎ払う! 動かせ!」
満桜は次々に襲い掛かる大岩の数々を対処する。
長時間照射できるレーザー光線へと切り替え、撃ち落としていく。だが、完全には迎撃できず、撃ち逃した大岩の一つが狙撃塔に当たってしまう。
狙撃塔が揺れ、目に映るすべてのものに揺れが生じる。
それによって、使徒の急接近に対応し損ねてしまった。
「クソがっ! 岩に紛れて近づいていた!? どんな脚力をしてやがる!?」
使徒は打ち上げた大岩を盾にして、狙撃塔に近づいていた。
岩と岩の間を飛び移って砲撃をかわし、強大な一撃を振りかぶる。
刹那、狙撃塔が切断された。
「落ちるぞ! 手放せ!」
「――っく!? パージ!」
満桜は崩落する間際に、塔から飛び出した。
しかし、タイミングが悪く、岩が
このままでは、勝てるビジョンが成立しない……!? 考えていたプランが全て台無しになる! 先ずは使徒を相手にしなければ!
「敵は上からだ! 接近を許すな!」
追撃するであろう使徒に対し、満桜は落下しながら体を捻らせ、
「――セット! ミサイル!」
両肩、両腰に武装を展開する。
【ラディアンスミサイルポット】
制圧爆撃を目的とした小型ミサイルポット。対象を捉えれば自動追捕が可能。
大量のミサイルが一斉に発射した。
これで敵の勢いを抑えられれば、少しの猶予が得られるだろう。
それは僅かな時間だが、満桜の得意距離を維持しつつ逃げ切れなければ、勝てる道が断ち切られる。
満桜によって必要なのは、冷静な思考と味方の合流。この二つの要素を失ってしまうと、敗北は免れない。
「当たっていない! ミサイルは余り期待するな!」
だが、使徒は落ちてゆく塔を伝って駆け出し、ミサイルの弾幕を回避する。飛び散る瓦礫によって、ミサイルの追尾能力が誤作動を起こし、着弾前に爆発させた。
「――キャノン!」
こうなれば直接狙うしかない。
満桜は弾丸の空気抵抗を考え、【デモニッシュストーム】を取り出した。
甲高い銃撃音を鳴らしながら迎撃を試みるが、まるで弾道を予測されているかのように避けられる。
「当たれ! 当たれ! 当たれえぇっ!!」
祈るように射撃を繰り返し、六発目。
――カチャッ……!
全弾外してしまい、武器が壊れていく。スキル〈装備効果増大〉のデメリットが発動してしまった。
(不味い不味い不味い!? 次は何をすればいい!? ミサイルで攻撃!? それとも着地が先!? でもそれだと――)
「――焦るな! 操作が効かなくなる!」
満桜は立て続けに起きる危機的状況で、思考が狭まれ、冷静な判断力を失っていく。
それは同時に、満桜の致命的な欠点である、思考の伝達に影響を及ぼしていた。
満桜が思念を伝達させ、レイティナが代わりに操作する。
その二つのどちらかが欠けると、身動きが取れなくなる。そして、サブスキル〈持ち上げ〉の効果によって肉体の意思が膠着し、その場から動けなるのも繋がってしまう。
その弱点は予め理解していたが、一度取り乱すと、元の状態に戻すのはとても困難だった。
「着地が先だ! スラスターを噴かせ!」
満桜はレイティナの掛け声によって、意識を集中させた。
銃撃の反動によって不安定だった体制を立て直し、足元を最大出力で逆噴射させ、動きを制御する。落下速度を落として、着地への衝撃を和らげようと試みた。
しかしそれは、敵への接近を許すことになる。
使徒が伝っていた瓦礫を蹴り上げ、満桜の予想を超えた速さで近づいた。
そして、使徒の持つ武器、戦斧を振りかざし、満桜の胸元へと切り刻む。
「うぐぅッ――!? レイティナ!?」
「私は平気だ! だが今のでスラスターが破損したぞ! 制御が……――」
満桜の鎧、
その隙が命取りになり、満桜の目には一瞬だけ、戦斧の刃が一閃を描くように見えた。
あっ、まず……――
「――オラアァァッ!! 満桜ちゃんから離れろッ!! 〈城塞壁展開〉!!」
「――――ッ!?」
そこで、三由季の救援が入る。
三由季はメイスを投げて斬撃の軌道をずらし、〈城塞壁展開〉で使徒への一撃を完全に防いだ。
「まだまだ! 追加の壁ぇ!」
そして、瞬く間に使徒の頭上に新たな壁を生み出し、質量で押し潰す。
三由季は使徒の追撃を振り切ったと分かり、満桜へと手を伸ばした。
「満桜ちゃん! 掴まって!」
「ありがとう! マジで助かった!」
二人の手は繋がり合い、全身が軽くなったかのように、ふわふわと宙に浮かんだ。
三由季のスキル〈物体操作〉によって、満桜は間一髪のところで助けられた。
満桜は安堵のため息を漏らし、
「まだ終わって無いから早く――」
――直後、下からの攻撃に見舞われた。
「なにッ!?」
使徒が撃ち出した大岩は細かく砕け、散弾のように満桜たちへと襲い掛かる。
それによって、防ぐことをできずに直撃。再び三由季と離れてしまい、満桜は落下し
てしまう。
「タイミングを見極めろ。一気に吹かすぞ!」
「――いまだ!」
激突する寸前に、スラスターを最大までに吹かせ、勢いを落として着地。
そして、限界が来たのか、強制的に白桜が壊れる。身を守るパーツの数々が地面に落ちてしまった。
「――
満桜はすぐさま予備の白桜を展開し、【デモニッシュストーム】を取り出す。
使徒の動向を読み、カウンターを決めていきたいが、
「くそっ! 見えない!」
落ちていく瓦礫のせいで、視界が悪くなっていた。激しい砂煙が、目に見えるものすべてを遮っていく。
もはや、風の流れる瞬間を感じ取って、動くしかなかった。
……
…………
…………………………
沈黙が焦りを募らせる。
たった数秒の一時が、心臓に痛みが走る。
しかし、冷静に保たなければ、回避すらもままならないだろう。
勝負は、たった一瞬。
感覚を研ぎ澄ませ。
思考を加速させろ。
手の震えを抑えろ。
そして、深く息を吐き――
「――そこっ!」
満桜は僅かな風の振動を感じ取り、攻撃を与えた。
しかし、揺れ動く風の先には、使徒ではなく戦斧だった。敵は武器を投擲したのだ。
「――ッ!?」
戦斧と銃弾が交わう。
互いの尖端が掠り合い、軌道がずれる。
だが、戦斧の質量の方が勝り、そのまま満桜に向けて、容赦なく貫こうとした。
「……離れる」
満桜が銃の反動で動けない合間、レイティナは
そして、実態化した右腕を前に掲げ、戦斧を受け止める。
「レイティナ!」
始めて会った時のように、半透明の壁で防ぎ、戦斧の勢いを失う。
だが、その代償によって、レイティナの右腕が粉砕された。
満桜が驚く間もなく、レイティナは歯車の姿に戻り、満桜の下に戻ってきた。
「大丈夫だ。戦闘に支障は無い。それよりも前を見ろ。相打ちだったらしい」
「えっ――?」
砂煙は晴れ、今まで見ることのできなかった使徒の姿が露わになる。
それは、額から伸びた鬼の角を持つ女性。深紅の瞳が微かに光を眺め、ぼんやりと宙を見つめていた。
ただ、先ほどの攻撃によって、二つある角の内、片方が折れている。
その怪我の影響なのか、彼女の動きが止まったのだ。
「いまなら、助けられるのか……?」
「間近で調べてみないと分からんな」
「……それってリスク高いよな?」
「推奨しない」
ひとまず満桜は、榎本の指示を仰ぐことにした。自身では判別が付かないものは、一番詳しそうな人に尋ねればいいのだと気付いたのだ。
辺りを見渡すと、要塞内でどんぱちしていた戦闘音も鳴り止んでいた。少し待てば増援がやって来るだろう。
三由季の行方も探していきたい満桜だが、
「つ、疲れた~~~ッッ!」
どっとやって来た疲労を、回復していきたかった。
静かになったと分かったばかりに、満桜は愚痴を吐き続ける。
「もうヤダ! 二度とやらん!」
「次からは計画的な迷宮探索にしようか。さすがに無理をし過ぎたな」
「ああ、そうだそうだ。明日はゆっくり休むとしよう。レイティナは休日、何したい?」
「何したいか……。いままで思っていなかったな……」
「むぅ、それならレイティナの腕をどうしようか考えよう」
「別に満桜優先でいいのだが……」
「ダメだ! お前は片腕で済んだと思っているんだろ? そういう考えは好きじゃ……――」
もう終わったとばかりに、二人は緊張を解そうと話し合う。
満桜はレイティナの自己犠牲について、言わずにはいられなかった。
抑えきれない気持ちが溢れ、つい口調が強くなっていく。
その言い合いに、第三者の乱入に気付かずに……――
「――驚いた。まさかこうも無力化されてしまうなんてね」
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