四日目 二人きりの学校①

今日は瑠衣菜るいなが来ない日だ

一人でやる農業、散歩

それに瑠衣菜が来ないと昼の時間があまりにも暇だ

それに何をやっても瑠衣菜の影がちらつく

俺の中で瑠衣菜の存在はこんなにも大きくなっていたのか

自分でも驚く

さて暇だし勉強でもするか

とは言っても、もうすぐ中学三年生の単元に入りそうだった

やべぇ俺凄い勉強できなかったのに天才になってるかも

そう調子に乗りながら三年生の単元を勉強し始めて数十分…

「分かんねぇー」

何も理解できない

なんだこれ、因数分解いんすうぶんかい?知らねぇよ!

そもそも教科書が何言ってるかわからない

難しい表現ばっかりしやがって

「…先生の授業ってわかりやすかったんだ」

なくなってから気づく、人生ではよくあることよ…瑠衣菜の言葉だけど

あの時は感心したけどアイツそんなに大変な思いしたのかな

絶対どこかの本に感化されたよな

「あーこんな時に安奈さん来ないかなー」

不思議なことに言霊というのはあるらしい

ピンポーンとインターホンがなる

「はーい」

こんな時間に来客とは珍しい

そう思いながら玄関を開ける、そこにいたのは

「よっ!」

「安奈さん⁉」

本当に来た

「一日ヒマだったから来た」

「それはそれは!ナイスタイミングです」

「し、信吾しんご君?食い気味だね

…なんだ、そんなに私に会いたかったか?」

「そうです!」

「ふぇ⁉」

安奈さんの顔が赤らむ、どうしたんだろう

「…きみ、何というか、強くなったね」

「…まあ成長期ですし?」

急に何言いだすんだこの人

まあいいか、早く本来の目的を言おう

「安奈さん、いえ!先生!」

「ど、どうしたんだい?」

「勉強教えてください‼」

「仕方ないな、教えてやろう!べんきょ…勉強?」

「はい!数学を」

「…保健体育とかではなく?」

何言いだすんだこの人(二回目)

保健体育とか習ってもテストでないじゃん

「ごほんっいいでしょう!」

「ありがとうございます!先生大好き!」

「はいはい私もよ」

あきれる先生、こんな光景あったな

…そうだ、学校

二人きりの学校では日常風景だった

やっぱりもうないんだな

少しだけ心苦しさを覚えた


因数分解、楽勝すぎ~

数十分ずっと戦っていたのが無駄に感じるほどだ

先生ってやっぱりすごいな

「理解できたかい?」

「それはもうもちろん!」

あまりの嬉しさに頭をブンブンと振る、テンション高いぞ俺

そんな姿の俺を見て感心したように声を上げる

「昔の君なら勉強なんてしても『つら、やめたい』としか言わなかったのにな

環境は人を変えるというが、ここまでとはね」

「まあそれぐらいしかやることないですし」

テレビしか娯楽ないのに面白いものがないからね

「…そうだ、思い出した」

急に大きな声を出す安奈さん、うお!ピックリしたぁ

「信吾君、今から学校行かないかい?」

「え?学校ですか」

多分俺が通っていた学校のことだろう

「本当はもう少し先だと思っていたのけど、もうあの学校とは卒業したからね」

何をしに行くのかという疑問と卒業したのかと悲しみがこみあげてくる

もうどうしようもないのにね

「行きましょうか

俺らの、二人だけの学校へ」


家の鍵をし、山を下りだす

「そういえば今日は車なんですか?」

「いいやぁー最後くらい君の登下校を体験してみようかと思ってね」

そう話す安奈さんはどこか楽しそうだった

「とは言っても普通の道ですよ?特段面白いこともないですし」

実際歩いても歩いても畑か家、あと田んぼ

ここはこういう村なのだ

「じゃあ君は登校中は何をしていたんだい?」

何してたか…ね

「うーん小学校の頃とかは石けりしてましたね

最近は流石に石けりも飽きて歌を歌ってました」

「歌って、演歌とか?」

絶対この人俺のこと流行りも知らない田舎人と思ってるだろ

「いいえ!俺、米津こめずさん知ってますから」

テレビの歌番組とか見るのでそこら辺は詳しいぞ俺

「じゃあMrs Yellow appleは?」

「なんそれ⁉」

「最近流行ってるんだぞ」

「本当ですかぁ?」

「君、あまり大人を疑わないことだよ

恥をかくのは君だからね」

くっ悔しい

どや顔でこっちを見てくるなっ

「ちなみに米津は歌えるのかい?」

「もちろんですよ

では聞いてください、『レモンティー』」

俺は精一杯歌った

んだけどどう考えても合いの手入れてくれる安奈さんの方がうまい

クエッが凄いうまい、本人かと思ったわ

一応歌い終わった、自分史上割とうまくいった

けどそれと同時に尊厳が破壊された

「おー君、割とうまいじゃん

選曲は凄く古いけど」

「一言余計です!それに安奈さんのクエッ、うますぎでしょ」

「はじめて言われたよ、そんな誉め言葉

今度宴会でやってみようかな…古すぎて伝わらないかも」

「だから一言余計ですって!」

「はっは君はからかいやすいね」

すごい大笑いする安奈さん、殴りたいこの笑顔

「はー笑った笑った

…懐かしいな、この感覚」

「本当ですよ」

もし、今も学校があればこんな日々が続いてたのか

今となってはどうでもいいことだが

「じゃあ信吾君、石けりしよっか」

「唐突ですね」

「いいじゃん、やりたくなったし

この石に決めた!」

「じゃあ俺はこの石で」

そうして選んだ石を並べる

安奈さんの石デカすぎないか?あんなのそんなに飛ばないぞ

「学校まで競争ね」

「受けて立ちますよ」

正直勝てる、それも割と余裕で

「「じゃあスタート!」」

そうして思いっきり蹴る

やっぱり安奈さんのはそんなに飛んでない

俺のはあんなに飛んで…飛んで…どこ行った?

「安奈さん!石のチェンジは」

「なしで」

負けたぁぁぁ悔しいぃぃぃぃ

「君、あんな即落ちは初めて見たよ

あ、今のはすぐにオチができる即落ちとすぐにどこかに落ちる即落ちをかけたよ」

「余計ですよ!」

「まあ、いいじゃないか

君の辛気臭しんきくさい顔がどこか行ったからね」

…本当にこの人はよく俺のことを見てる

「…まあ、一応ありがとうございます」

「お礼はジュースでいいよ」

「求めるのかよ」

はあやっぱりこの人といると突っ込み疲れる

「ほら着きましたよ」

古びた校門にすでに廃墟となった校舎に体育館

全校生徒一人、教師一人にはやはり大きすぎるなこの学校

「じゃあ向かおうか。私たちの教室に」

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山奥で農家してたら箱罠に美少女がかかりました 気まぐれなリス @risu0726

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