第20話 異能狩り(チートキラー)③(改)
何故、冒険者ギルドの非登録者であるイサトが、彼女たちと共に同行しているのか、その理由は、二日前に遡る。
アカリから「多田ヒロシを殺害した犯人を突き止めるため、現場の森に遠征に行く」と告げられたイサトは、急いで冒険者ギルドへ向かい、ギルドマスターのヘルクに「自分も捜査に加えてほしい」と懇願した。ヘルクが理由を尋ねると、彼は真剣な眼差しでこう答えた。
「ヒロシさんは、俺がこの世界に来て初めて出会えた、同じ境遇の仲間でした。彼の存在があったからこそ、俺はここがどんな世界なのかを理解できました。そんな人が、殺されてしまうなんて……俺は、黙ってはいられません。どうか、お願いします!」
イサトの熱意に満ちた強い説得に、ヘルクは根負けしたかのように、彼の同行を許可してくれて、今に至る。
そのことについて、アカリ、ミドリ、アオリの三人は、イサトに聞こえないよう、こそこそと話し合っていた。
「……どうして、イサトさんの同行を許してくれたんだろう?」
「もしかしたら、彼を
「えっ!?」
「どういうこと? アオリ姉さ~ん」
「タダ・ヒロシさんが殺される半年前、他国で冒険者が殺害される事件が何件かあったの。殺された冒険者はタダ・ヒロシさんと同じ
「つまり、その殺人鬼、“
「そう。イサトさんも
「でも……ヘルクさんがそんな酷いことをするかな?」
「あくまで私の推測よ。あの人がそんな馬鹿な真似をするはずがないから、安心して」
「「……うん…」」
三人は馬車に揺られながら、不安な面持ちで殺害現場への到着を待ち続けた。
□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
「……ここが、タダ・ヒロシさんの殺害現場……」
「……キュウ……」
数時間かけてようやく、殺害現場である森林地域『エルダー・フォレスト』に到着し、馬車から降り立ったイサト・カバン・アカリ・ミドリ・アオリ、そして冒険者一同は、目の前に広がる光景に息を飲んだ。そこはすでに、森林と呼べる場所ではなかった。
無残にも折り曲げられた無数の木々、大地にはいくつもの巨大なクレーターが穿たれ、周囲には
「おいおい、一体どうやったら、ここまで酷い惨状になるんだ?」
一人目の
「……私、一度だけ一緒に行動したことあるけど、こんな戦い方をする人じゃなかったわ。」
すると、二人目の
「じゃあ、今までずっと……本気を出さずに戦い続けていたってことか? そんなに強いヤツが殺されるなんて……」
それを聞いた三人目の
「否定は……できないな。」
四人目の
「とりあえず、今日はもう遅い。本格的な調査は明日にして、野営の準備をしよう」
この調査隊の隊長を任された五人目の冒険者、
□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
「……ん、ここは?」
イサトが目を開けると、そこは濃い霧が立ち込める謎の場所だった。気がつけば、いつの間にかそこに立っていたのだ。
「何処だ、此処は……ん?」
やがて霧が晴れていくと、目の前には、学生時代に何度も学校へ向かうために通った、見慣れた横断歩道が現れた。
「あれはたしか……アソコへ向かう時に通った横断歩道……?」
(プップーッ!!)
「ッ!」
懐かしい光景を眺めていると、横断歩道の右方向から、けたたましいトラックのクラクションらしき音が鳴り響いた。その音を耳にした瞬間、イサトの意識は途切れた。
□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
「……はっ!?」
トラックのクラクションの音を聞き、イサトは飛び起きるように目を覚ました。勢いよく体を起こし、あたりを見渡す。空は真夜中で、目の前には、アカリ・ミドリ・アオリと共に囲んでいた、燃え盛る焚き火があった。
なぜ自分がここにいるのか、すぐに思い出した。
野営地を設営した冒険者たちは、この地域に生息する
その見張りをしていた時、これまでに溜まった疲労がどっと押し寄せ、強い睡魔となって彼を襲った。イサトはそれに抗うことができず、そのまま眠りに落ちてしまったらしい。
「……夢か。なんで今になって、あの時の記憶を思い出したんだ?(ブルッ)うっ!」
何故、この世界に転移する前の
「すみません、ちょっと用を足してきます」
「「「……」」」
「ん?」
用を足してくると声をかけるが、三人は座ったまま、
「寝てるのか……うっ!」
声をかけても何の反応もないことに不気味さを感じながらも、イサトは強い尿意に耐えきれず、遠くの木陰へ急いで走っていった。
「うー、漏れる……漏れる……あれ?」
木陰にたどり着いたイサトは、すぐにでも用を足そうとする。しかし、直前まで感じていた強い尿意は、まるで嘘のように消え去っていた。
「おかしいな。さっきまでの尿意はどこに……?」
「キュキュウゥゥゥゥゥゥッ!!」
「ッ! カバン!?」
突然、カバンが消えた主人を探し出したかのように、一直線に駆け寄ってきた。
「キュキュウ! キュキュウ!」
「ごめんごめん、ちょっと用を足しにきたんだ」
イサトは大騒ぎするカバンを肩に乗せると、暗い森の中を足元に注意しながら、ゆっくりと野営地に戻り始める。その道中、彼はある違和感を覚えていた。
(起きたばかりで少し寝ぼけていたけど、森の中が……あまりにも静かすぎる。)
寝ぼけていた頭が次第に冴え、森の静けさが奇妙に感じられる。真夜中の森に響くはずのフクロウやスズムシの声、風の音さえも一切ない。まるで時間が止まってしまったかのようだった。
(やっと野営地が見えてきた。一応、三人にもこの異常さを教え…ん…っ!?)
この不気味な静寂に、不穏なものを感じたイサトは、三人にこの異変を知らせようと野営地に戻ろうとした。だが、彼は急いで身を隠し、木々の後ろからそっと覗き込む。
何故、身を隠したのか。それは、見つかってはならないと直感したからだ。
イサトの目に映っていたのは………
ピクリとも動かないアカリ・ミドリ・アオリにゆっくりと接近していく、謎の黒い影だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます