第20話 異能狩り(チートキラー)③(改)

 何故、冒険者ギルドの非登録者であるイサトが、彼女たちと共に同行しているのか、その理由は、二日前に遡る。


 アカリから「多田ヒロシを殺害した犯人を突き止めるため、現場の森に遠征に行く」と告げられたイサトは、急いで冒険者ギルドへ向かい、ギルドマスターのヘルクに「自分も捜査に加えてほしい」と懇願した。ヘルクが理由を尋ねると、彼は真剣な眼差しでこう答えた。


「ヒロシさんは、俺がこの世界に来て初めて出会えた、同じ境遇の仲間でした。彼の存在があったからこそ、俺はここがどんな世界なのかを理解できました。そんな人が、殺されてしまうなんて……俺は、黙ってはいられません。どうか、お願いします!」


 イサトの熱意に満ちた強い説得に、ヘルクは根負けしたかのように、彼の同行を許可してくれて、今に至る。


 そのことについて、アカリ、ミドリ、アオリの三人は、イサトに聞こえないよう、こそこそと話し合っていた。


「……どうして、イサトさんの同行を許してくれたんだろう?」


「もしかしたら、彼をおとりとして利用するつもりなのかもしれない」


「えっ!?」


「どういうこと? アオリ姉さ~ん」


 おとりという言葉を聞いた二人は驚愕し、アオリに問い詰める。


「タダ・ヒロシさんが殺される半年前、他国で冒険者が殺害される事件が何件かあったの。殺された冒険者はタダ・ヒロシさんと同じ転移者プレイヤーで、その人たちも同じように『脳』と『心臓』を奪われていたらしいわ」


「つまり、その殺人鬼、“異能狩りチートキラー”の目的は……転移者ぷれいやーの脳と心臓ってこと?」


「そう。イサトさんも転移者ぷれいやーの一人だから、狙われる可能性が高いかもしれない。」


「でも……ヘルクさんがそんな酷いことをするかな?」


「あくまで私の推測よ。あの人がそんな馬鹿な真似をするはずがないから、安心して」


「「……うん…」」


 三人は馬車に揺られながら、不安な面持ちで殺害現場への到着を待ち続けた。






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「……ここが、タダ・ヒロシさんの殺害現場……」


「……キュウ……」


 数時間かけてようやく、殺害現場である森林地域『エルダー・フォレスト』に到着し、馬車から降り立ったイサト・カバン・アカリ・ミドリ・アオリ、そして冒険者一同は、目の前に広がる光景に息を飲んだ。そこはすでに、森林と呼べる場所ではなかった。


 無残にも折り曲げられた無数の木々、大地にはいくつもの巨大なクレーターが穿たれ、周囲には魔物モンスターの体の一部らしきものが無残に散乱している。まるで、巨大な嵐が通り過ぎた後のように、すべてが荒れ果てていた。


「おいおい、一体どうやったら、ここまで酷い惨状になるんだ?」


 一人目の戦士ファイターである狼人ウェアウルフは、多田ヒロシが繰り広げた凄惨な戦闘跡に疑問を抱いた。


「……私、一度だけ一緒に行動したことあるけど、こんな戦い方をする人じゃなかったわ。」


 すると、二人目の弓使いアーチャー霊人エルフが、過去に一度だけヒロシと共に行動したときのことを思い出し、彼の戦闘はこれほど苛烈ではなかったと答える。


「じゃあ、今までずっと……本気を出さずに戦い続けていたってことか? そんなに強いヤツが殺されるなんて……」


 それを聞いた三人目の大剣使いグレートブレイダー純人ヒュームは、彼が今まで本気を隠して戦っていたのではないかと推測し、そんな彼が殺されたことに動揺した。


「否定は……できないな。」

 

 四人目の魔術師ウィザードである純人ヒュームも、その推測を否定することはできないと、静かに頷いた。


「とりあえず、今日はもう遅い。本格的な調査は明日にして、野営の準備をしよう」


 この調査隊の隊長を任された五人目の冒険者、槍士ランサー純人ヒュームが、冒険者一同に野営の準備を命じた。全員がそれに従い、手早くテントを張り、夕食の準備に取り掛かった。イサト達も、テント張りや夕食の準備を手伝った。






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「……ん、ここは?」


 イサトが目を開けると、そこは濃い霧が立ち込める謎の場所だった。気がつけば、いつの間にかそこに立っていたのだ。


「何処だ、此処は……ん?」


 やがて霧が晴れていくと、目の前には、学生時代に何度も学校へ向かうために通った、見慣れた横断歩道が現れた。


「あれはたしか……へ向かう時に通った横断歩道……?」


(プップーッ!!)


「ッ!」


 懐かしい光景を眺めていると、横断歩道の右方向から、けたたましいトラックのクラクションらしき音が鳴り響いた。その音を耳にした瞬間、イサトの意識は途切れた。






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「……はっ!?」


 トラックのクラクションの音を聞き、イサトは飛び起きるように目を覚ました。勢いよく体を起こし、あたりを見渡す。空は真夜中で、目の前には、アカリ・ミドリ・アオリと共に囲んでいた、燃え盛る焚き火があった。


 なぜ自分がここにいるのか、すぐに思い出した。


 野営地を設営した冒険者たちは、この地域に生息する魔物モンスターの襲撃に備え、交代で見張り番に就くことになっていた。それぞれがテントで身体からだを休める中、イサト・アカリ・ミドリ・アオリの四人が見張りを任されていたのだ。


 その見張りをしていた時、これまでに溜まった疲労がどっと押し寄せ、強い睡魔となって彼を襲った。イサトはそれに抗うことができず、そのまま眠りに落ちてしまったらしい。


「……夢か。なんで今になって、あの時の記憶を思い出したんだ?(ブルッ)うっ!」


 何故、この世界に転移する前の場面シーンを夢の中で思い出したのか、疑問に思った瞬間、突然、強い尿意が襲ってきた。


「すみません、ちょっと用を足してきます」


「「「……」」」


「ん?」


 用を足してくると声をかけるが、三人は座ったまま、うつむいたまま動かない。まるで電源を落とされた人形のように、ぴくりともしなかった。


「寝てるのか……うっ!」


 声をかけても何の反応もないことに不気味さを感じながらも、イサトは強い尿意に耐えきれず、遠くの木陰へ急いで走っていった。


「うー、漏れる……漏れる……あれ?」


 木陰にたどり着いたイサトは、すぐにでも用を足そうとする。しかし、直前まで感じていた強い尿意は、まるで嘘のように消え去っていた。


「おかしいな。さっきまでの尿意はどこに……?」


「キュキュウゥゥゥゥゥゥッ!!」


「ッ! カバン!?」


 突然、カバンが消えた主人を探し出したかのように、一直線に駆け寄ってきた。


「キュキュウ! キュキュウ!」


「ごめんごめん、ちょっと用を足しにきたんだ」


 イサトは大騒ぎするカバンを肩に乗せると、暗い森の中を足元に注意しながら、ゆっくりと野営地に戻り始める。その道中、彼はある違和感を覚えていた。


(起きたばかりで少し寝ぼけていたけど、森の中が……あまりにも静かすぎる。)


 寝ぼけていた頭が次第に冴え、森の静けさが奇妙に感じられる。真夜中の森に響くはずのフクロウやスズムシの声、風の音さえも一切ない。まるで時間が止まってしまったかのようだった。


(やっと野営地が見えてきた。一応、三人にもこの異常さを教え…ん…っ!?)


 この不気味な静寂に、不穏なものを感じたイサトは、三人にこの異変を知らせようと野営地に戻ろうとした。だが、彼は急いで身を隠し、木々の後ろからそっと覗き込む。


何故、身を隠したのか。それは、と直感したからだ。


イサトの目に映っていたのは………









































 ピクリとも動かないアカリ・ミドリ・アオリにゆっくりと接近していく、だった。

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