第15話 触れない

 レイフィアは、自身に起きたこれまでの出来事を説明してくれた。


 一週間前、何もない平地に転移者プレイヤーである結城イサトと“無人街”を天界から発見したレイフィアは、彼に直接『恩恵』を授けようと地上に降り立った。しかし、イサトと「無人街」は跡形もなく消え去っていた。


 レイフィアは「イサトに恩恵を付与させる」という名目で地上に降りてしまったため、天界に帰還することができず、一週間もの間、地上を彷徨い続けていた(様々な魔物モンスターが襲ってきたが、神の力で撃退していった)。そうしてようやく、イサトが竜頭市スカル・タウンへ移動したと聞きつけ、やっとの思いで彼を発見し、今に至るという。


 その話を聞いたイサトは申し訳なさそうにした後、自身のステータス情報が何度念じても表示されない原因が、そもそも自分に『恩恵』がないことに気付き、愕然とした。同時に、ある疑問が脳裏に浮かび上がった。


「あれ、ちょっと待ってください。『恩恵』を与えられるのは、たしか【グローバル・ファンタジア】をプレイしていたランキングプレイヤーだけの筈ですよね。どうして一度もプレイしていない自分にも『恩恵』を授けてくれるのですか?」


 何故、【グローバル・ファンタジア】の非プレイヤーである自分が、神の『恩恵』を貰えるのか問いかけると、レイフィアの口から発した返答に、衝撃が走った。












































「? 何を言っているの? 貴方は他の皆より遅れて召喚された【グローバル・ファンタジア】のでしょ? 」


「……は?」


「……は?」


「……キュ?」


 レイフィアの口から発せられた「」という言葉に、イサトは理解ができず、困惑の入り混じった間の抜けた声を漏らした。


(俺が……最後の一人のプレイヤー?どういうことだ?誰かが俺になりすましてプレイしていたのか? 一体誰が、何のために?)


 彼は頭の中で保管されている記憶から、過去に出会ってきた人々を辿るが、最も心当たりのある人物は誰にも該当せず、今の彼には知る由もなかった。


 レイフィアは彼の困惑した反応に一瞬だけ戸惑うも、気持ちを整理させて本題に入った。


「…と、とにかく! これが貴方の『ステータス』と『スキル』が込められた『恩恵』です」

 

 彼女はそう言うと、手の平から虹色に光るエネルギー状の球体を現出させ、イサトの目の前に差し出してきた。


 そのエネルギー状の球体が『恩恵』だと悟ったイサトは、「これ、触っても大丈夫ですか?」と訊くと、「はい、触っても問題ありません。触れた瞬間、吸い込まれるかのように体の中に入り込み、『ステータス』と『スキル』が付与されれば、これで『恩恵』の授与は完了です」と答えてくれた。


「では、結城イサトさん。この力で、世界に発生した異変を、これから出会う仲間達と共に立ち向かい、解決して下さい!」


「は、はい! ありがとうございます!」


「キュキュ~!」


 お礼を言ったイサトは、彼女の手の平に乗っかった虹色の光玉『恩恵』を受け取ろうと手を差し伸べて掴み取った……筈だった。





















「(スカッ)……あれ? (スカッ、スカッ、スカッ)……あれあれ?」


「…どうかしましたか?」


「あの~、この『恩恵』、触れないのですが?」


「……は?」


 予想外の事態が起きた。イサトの手に『恩恵』が触れたかと思いきや、すり抜けるかのようにスルリと通り越してしまう。いや、文字通りすり抜けていた。


「ちょっと~、女神のワタシに冗談はやめて下さいよ~。触れないわけないじゃないですか~。ほらこうやって体にはめ込むように(ゴトンッ! コロコロ)……は?」


 レイフィアは彼が悪ふざけしているのかと思い、『恩恵』を胸元にはめ込むように差し出した瞬間、『恩恵』はイサトの体からすり抜け、床に転げ落ちてしまった。






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「……どうして、どうしてなの。どうして彼に『恩恵』を渡せないの? どうしてすり抜けるの? どうして床に転がり落ちるのよ。これじゃあ天界に帰れないじゃない(泣)」


「あの~、大丈夫ですか~?」


「キュ~?」


 その後、レイフィアは彼に『恩恵』を譲渡しようと何度も試行錯誤したが、彼に『恩恵』を授けることが出来ず、落ち込むように床に体育座りをしてメソメソと泣いてしまい、イサトとカバンは心配そうに彼女に声をかけ続けた。 


 イサト自身も、一体何故、『恩恵』を授けられないのか考え込んだが、答えを導き出す事が叶わなかった。

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