第10話 一週間後

 突如、異世界の“無人街”に迷い込んだ『結城イサト』は、『宝石獣カーバンクル』のカバン、半竜人ハーフドラゴムの『アカリ(三女)』・『アオリ(長女)』・『ミドリ(次女)』と出会い、三人が住む市街地【竜頭市スカル・タウン】へと案内された。


 その街の冒険者ギルドで、ギルドマスターの『ヘルク・クレイス』とギルド職員の鑑定士『ティサ』によって、【転移者プレイヤー】の一人であるイサトの意思では開示できないステータスが鑑定された。


 しかし、何度鑑定しても『鑑定対象がおりません』という結果しか得られず、ティサは鑑定できなかったショックで落ち込んでいた。ヘルクはアカリ、アオリ、ミドリに、イサトを保護(という名目の監視)するように頼み込んだ。


 その後、三人の実家である祖父ドリークスが営む薬屋(ポーション販売)に連れて来られたイサトは、その薬屋に店員として住み込みながら、この異世界について色々と知った。


【この世界の言語】

この世界の人々の言語は、一つの言語に統一されている。イサトは何故、別世界の人間と会話ができるのか訊くと、全ての『転移者プレイヤー』には【翻訳バイリンガル】のスキルを持っていると説明してくれた。


【異世界の単価】

この世界の国々は単価統一されている。単位名は『ゼルド』。


10ゼルド(銅貨)=日本円で十円の単位

100ゼルド(青銅貨)=日本円で百円の単位

1000ゼルド(銀貨)=日本円で千円の単位

10000ゼルド(金貨)=日本円で一万円の単位

100000ゼルド(白金貨)=日本円で十万円の単位


【脅威ランク】

魔物モンスターの危険度を記した証で、それぞれ個体差があり、四種類の色で識別されている。


グリーン

危険性皆無の魔物モンスターのランク


イエロー

危険性皆無だが、決して手を出してはいけない魔物モンスターのランク


レッド

人を襲う危険性を持ち、討伐対象に認定された魔物モンスターのランク


ブラック

 集落・都市を襲撃する危険性を持ち、『レッド』よりも最優先討伐対象に認定された魔物モンスターのランク


【地星神教とは】

 この星の礎と化した女神『ステリア』を崇拝する宗教組織。世界各国で一つずつ支部を設置されており、絶滅危惧種の宝石獣カーバンクル数百頭を保護している。


【創世神話】

いにしえ、混沌としたる暗黒の世界に、二柱の麗しき女神が御降臨ごこうりんなされた。


一柱は、災いわざわいを司る女神“イヴィリア”

一柱は、大地だいちを司る女神“ステリア”と申された。


 心優しきステリアは、二柱の御身おんみむつみ合い、共にこの世界を治めんことを願われた。

しかれど、イヴィリアはその願いを嘲笑あざわらい、おのれこそが唯一の支配者たるべきと、やいばをステリアに向けられた。


 かくして、永きにわたる神々の戦いが始まった。

天を揺るがし、地を割る激闘の末、慈悲深きステリアは、その身に宿る全てのちからを解放し、イヴィリアを黒曜こくようの如き球体に封じ込めた。


 イヴィリアが再び इस世このよ災厄さいやくをもたらさぬよう、ステリアはその黒き球体を御体内に飲み込まれた。

そして、御自おんみずからを依り代よりしろとなし、【あまつちうみ】の三つに分かれた新たなる世界、“惑星ほし”へと御変身ごへんしんされた。


 一方、深き【つち】の底に幽閉ゆうへいされしイヴィリアは、その怨念おんねんかてとし、地上を我が物とせんと、【迷宮ダンジョン魔物モンスター】を創造し、蠢動しゅんどうを始めた。


 その悪しき兆候きちょうをいち早く御察知おさっちあそばされたステリアは、これに対抗せんとし、叡智えいちひいでたる生命体、【ニンゲン】を創り出され、彼らに इस世このよ守護しゅごを託された。


 二柱の女神の宿命さだめの戦いは、遥かなる時を超え、 現在いま इस世このよにおいても、なお脈々と続いている』


という神話が、『地星神教』によって、世界に語り継がれている。


こうして、あの日から既に、一週間が経過しようとしていた。






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「それでは、今回はこの鑑定用魔導具マジックアイテムを使用してみようと思う」


「今度こそ、自分のステータスが表示されますかね?」


「キュウ?」


「勿論! 此処にある魔導具マジックアイテムは、入手困難な代物を収集する他国ギルドから、大金をはたいて購入しましたから!」


 ギルドマスターのヘルクに呼び出され、冒険者ギルドに赴いたイサト(ついでにカバン)は、ギルドマスタールームで再度、自身のステータス鑑定をされていた。


 今回は鑑定士スキャナー魂に火を点けたギルド職員のティサが、この日の為にギルドマスターと知り合いの他国ギルドから購入した水晶・レンズ・鏡の三つの鑑定用【魔導具マジックアイテム(魔法の力が込められた道具)】がテーブルにズラリと並んでいた。


 早速、全ての鑑定用魔導具マジックアイテムを一つずつ行使するが、


『鑑定対象がおりません』


「……やはり、魔導具マジックアイテムでもダメか」


「どうして…どうしてなの。鑑定率100%を誇る、貴重な希少級レアクラス

魔導具マジックアイテムの筈なのに、何で見通せないの……」


 よりすぐりの希少な魔導具マジックアイテムでさえ試してみたものの、結果はどれも惨敗に終わり、ティサは困惑し、その影響で落ち込んでいた。


「すまない、今回も君のステータスを測れなくて」


「いえ。こちらこそ申し訳ありません。折角自分の為に用意して下さったのに、それじゃあ、失礼します」


 ヘルクは彼のステータスを測れなかったことを謝罪。イサトも申し訳なさそうに二人に詫びて、ギルドマスタールームから退室した。


「……あれから一週間か。アオリからの定期連絡によれば、ドリークスさんの店で何のトラブルも無く、キチンと働いているらしいな」


 イサトが退室したのを確認して、ヘルクはアオリから渡された一週間の定期連絡に目を向けた。そこには、彼に目立った様子はなく、黙々と働いていると記されていた。


「……ギルドマスター、あのイサトという男は本当に転移者ぷれいやー……いや、ヒトでしょうか?」


「……?」


 ようやく立ち直ったティサが、イサトにある疑問を真剣な表情で語り始めた。


転移者ぷれいやーだけが持つスキル【閲覧妨害】は、【鑑定】を使った相手に『』と表示されます。それなのに、【完全鑑定フル・スキャニング】を何度も使っても、あの男からは『』としか表示されないんです」


「つまり…どういうことだ?」


「まるで…鑑定スキルが、彼そのものをしていないような……」


「そんなわけがないだろう。【鑑定】はあらゆる、あらゆるを鑑定対象とするスキルだ。イサト君の【閲覧妨害】が、他の転移者ぷれいやーよりも強力なだけかもしれないだろ」


「……そう、ですよね」


「早速で申し訳ないが、数日前に三人が調査した“無人街”が……事態を、他国の冒険者ギルドに連絡しておいてくれ」


「了解しました」


 ティサの出した結論を、ヘルクは「それはありえない」ときっぱり否定した。そして彼は、アカリ・アオリ・ミドリが調査した“無人街”が、イサトの竜頭市スカル・タウン到着の翌日に一夜にして消失した事態について、他国の冒険者ギルドへ連絡するよう指示した。






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 一方その頃、ギルドマスタールームから退室し、ギルド内の廊下を歩いていたイサトは、依頼ボードの壁に設置された依頼用紙を眺めていたアカリ・アオリ・ミドリを発見する。彼にいち早く気付いたミドリは二人に伝える。


「あ~、二人共~、イサトくんとカバンちゃんが戻ってきたよ~」


「随分早く戻って来たわね」


「イサトさん、ギルドから希少級レアクラスの鑑定用魔導具を用意したって聞きましたけど、どうでしたか?」


「……ダメでした」


「キュウ……」


 ステータスが開示されたかどうかアカリに訊かれ、イサトは駄目だったと伝えた。


「え~、それでも見れないの~?」


「幾ら何でも、貴方の【閲覧妨害】は強力過ぎない?」


「そんなの自分に訊かれても……」


 イサトは頭の中で、(俺のスキルは一体何なんだろう? 何で俺だけステータスが表示されないんだ? 【閲覧妨害】のほかに、別のスキルが鑑定を邪魔しているのか?)と考え込んでいると……


「いい加減にして下さい!! こんな大量の素材、何処で入手したんですか!!」


「…ん?」


 受付場所で働く受付嬢が、一人の冒険者を叱咤していた。


「いくら転移者ぷれいやーであるアナタでも、この素材の量は度を越しています!」


「っ!!」


 受付嬢はその冒険者を、転移者プレイヤーと呼んでいた。

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