第4話 生命の危機

「………(ヒョイッ、バクンッ! バリバリッ! グチャッグチャッ!)」


 肉塊のような舌は、潰れて絶命したゴブリンを拾い上げ、巨大な影の口の中に放り込んだ。ゴブリンの肉を味わう咀嚼音が、イサトの耳に響いた。


「な、何だ、あのデカいのは……?」

「キュ~……」


 イサトはゴブリンが喰われた場面を目撃し、恐怖で脚が竦んで動けずにいる間に、巨大な影は全貌を現した。


 正体は、地球の日本に生息する、全身の体表が紫の皮膚・粘膜で覆われ、世界最大級の両生類【オオサンショウウオ】に酷似する、巨躯の両生獣だった。


「(ゴクンッ!)………」


 咀嚼し終えた両生獣は、前方に佇むイサトを発見したかのように、ジッと凝視する。そして……


































「グォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

「キュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」


 数秒後、両生獣は「新たな獲物を発見!!」と叫ぶように雄叫びを揚げ、イサトに向かって猛ダッシュで一直線に襲い掛かる。彼は事前に危険を察知し、無我夢中で逃走を開始した。


(ブンッ!)

「ひいぃぃぃっ!!」


 両生獣は四本の脚で爆走しながら、先程と同様にゴブリンを仕留めた威力を誇る舌の攻撃を放ってきた。イサトは頭をしゃがみ、紙一重で回避する。


(バゴォォォォォォンッ!!)


 舌の攻撃を巻き添えで喰らった複数の建造物は轟音を立て、瞬く間に崩壊し、瓦礫の山と化した。


「嘘だろ!! あの舌の攻撃を受けたら、一瞬でお陀仏じゃないか!?」

「キュワァァァァァァ!!」


 イサトは建造物を瓦礫に変える威力を誇る巨獣の舌を目にし、絶対に喰らってはならないとすぐに立ち上がって逃走する。


「グオォォォォォォォォォォォォ!!」


 両生獣は、自らの巨躯に似合わない脅威的な速度と膂力で周囲の障害物を薙ぎ払いながら、イサトを追いかけ続ける。


「くそっ!! 一体どうすれば逃げ切れるんだ!!」

「キュッ! キュキュキューッ!!」

「何だよカバn……! それは、ナイスだカバン!!」

「キュー!!」


 カバンはイサトの背負うリュックの中から、ある物を取り出し、彼に渡してきた。それは、いざという時に仕舞っていた、『魔導具マジックアイテム』の類である黄色の宝玉だった。


 モンスターを狩る某ハンティングアクションゲームで使用するアイテムの一つと酷似しており、未確認だが、投擲で相手にぶつけると眩い閃光を放出し、敵を怯ませる魔導具マジックアイテムだとイサトは推測していた。


「よっしゃあ!! 両生類の化け物め、コレでも喰らいやがれぇぇぇぇぇぇ!!」

「キューーーーーーッ!!」


 眩い光で視界を遮らせた後、見えなくなるまで全速力で逃げ切ろうと頭の中で画策したイサトは脚を止め、カバンに渡された黄色の宝玉を両生獣の頭部に狙いを定め、勢い強く投擲した。だが……


(ガンッ! コロコロコロ……)

「……」

「……あれ?」

「……キュ?」


 投擲した黄色の宝玉は、両生獣の頭部に鈍い音が出るほど命中するが、眩い閃光を発することも無く、コロコロと地面に転がり落ちた。


「……グォォォォォォォォォォォォ!!」

「うわあぁぁぁっ!! 怒らせちゃっただけだぁぁぁぁぁぁっ!!」

「キュワーーーーーーッ!!」


 頭部にぶつけられた事で制止していた両生獣は、激昂するように雄叫びを挙げ、再びイサトに襲い掛かる。制止していた彼も逃走を再開する。


「クソッ!! だったらこれならどうだ!!」


 イサトはリュックの中から別のアイテムを取り出す。それは全長三十cmの翠緑色すいりょくいろの刃の短剣ダガー。黄色の宝玉と同様、拝借したアイテムの一つ。

 色からして、風・雷属性が付与された魔導具マジックアイテムに違いないと彼は推測し、両生獣に斬撃を放とうと短剣を振るうが……


「……」

「……噓だろ!? 何も起きない!?」


 またしても何も起こらない。短剣の使用方法が間違えているのかと焦り出してしまう。


「詠唱しないと発動しない仕組みなのか!? ええっと、『ウインド』! 『サンダー』! それじゃあ、ブr……」





















(ブチィィィィィィィィィィィィッ!)


















「……へ?」

「……キュ?」

 両生獣に刃先を向けて短剣ダガーに付与されている魔法を発動しようとしたその刹那……イサトの耳に何かが千切れたような音が響き渡り、ある物が宙に舞っていた。宙に舞うそれを見た瞬間、表情が一気に恐怖に染まった。


 宙に舞っていたのは、さっきまで体に繋がっていた、だった。

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