GHOST-PAIN ゴーストペイン
猪糸コイチ
第1話 人の雨
人の雨が降っている。
漆黒に塗り潰された不気味な空。その空から伸びたおびただしい数の巨大な
助けてと、死にたくないと、あちこちから聞こえる悲鳴。
宙を飛び交う瓦礫とともに、何十、何百という数の人々が雨粒のごとく落下していく。足掻く術もなく、さながら宙を舞うマネキンのようにただ地上へ放り出されていく。
街はすでに廃墟と化し、無事な建物などほとんどなく、まっさらな更地へと変貌していた。至るところに真っ赤な染みを残して。
地獄絵図──そのあまりに現実離れした光景を、俺はただ横たわりながら地上から見上げることしかできなかった。
──くそ、息が……身動きが、できねぇ……。
朦朧とした意識の中、満身創痍の状態で空を睨む。人々を、街を蹂躙して回る、あの巨大な骸の腕の軍勢を。
俺がもっと強ければ、力があれば、せめてここまでの惨劇は回避できたかもしれないのに。自分の弱さと不甲斐なさに、歯噛みを禁じ得なかった。
〝君は、まだ生きたいと願うかい? 自分の望むような人生を送ってみたいと思うかい?〟
頭の中で、いつかどこかで出会った少女の声がこだまする。これが走馬灯というやつか。あるいは生存本能が呼び覚ました記憶の断片か。いや、どちらでもいい。
〝なら私は、君に命と力を授けよう。命は、君の凍えた心臓に再び鼓動を蘇らせるだろう。力は、君に自分の望む生き方を実現させるだろう。その力がどんな形で現れるか、全ては君の魂の在り方次第だ〟
なんでもいい。今ここで起きている最悪の理不尽を止められるなら、自分の命を差し出したって構わない。だからどうか──もう一度、俺に力を貸してくれ。
〝君はここで過ごした記憶を忘れてしまうだろうけど、どうかこれだけは覚えていてほしい〟
決して忘れるものか。
漆黒の空に手を伸ばして、俺はその化け物の名を力の限り叫んだ。
「味わわせてやる……みんなの痛みを! イザナミ──!」
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