薔薇色爆弾
ケーエス
🌹🌹🌹💣
「こちら爆弾処理班、55階男子トイレに到着。今から爆弾処理を開始します」
『了解。始めてくれ』
隊員3人は男子トイレの中に突入した。
「なんで私がこんなところに来ないといけないんですか!」
唯一の女性班員、花
「仕方ねえだろ!! さっさと爆弾を探せ、個室にあるとの情報があるぞ!」
班長の
「あーちゃー。ここのトイレ、個室が20個もあるっすよ。こりゃ無理そうですね」
「お前! そういうことを言うな! いつも言ってるだろ!」
班員の無井理に武久が激を飛ばす。
ここは商業施設やオフィス、ホテルを有する巨大ビルディングの55階。ここは最近初任給を50万に引き上げ、ひんしゅくを爆買いしている大企業のオフィスフロアとなっているが、ここのマンモス世代の社員が、「クソがよ……」と愚痴を便器に流そうとしていたところ、爆弾を見つけたというのである。避難する社員たちと入れ替わるようにしてやってきた爆弾処理班はついにその爆弾と対面した!
「あ、ありました!」
「あったか!」
「あったんですけど……」
花は口をパクパクさせてなんだか難しそうな顔をしている。開けた個室を武久と無井が覗き込んだ。
「なんだこれ!?」
「なんすかこれ」
3人の開いた口が塞がらないのも無理はない。眼前に見える便器には爆弾が詰まっている。しっかり〔3:00〕という表示もあり絶対絶命だ。しかしそれ以上に不可解なのはその爆弾からすくっと立派に生えている3本の花である。
「薔薇……ですよね」
「やーっぱりそうだよな」
お花に詳しくない隊長でもわかった。そう、爆弾からは赤、青、黄の3本の薔薇が生えているのである。なんとも立派に、たとえ便所であろうと陰りを見せない鮮やかさで。3人は10秒ほど見とれていたが、最初に息を吹き返したのは武久班長であった。
「おい、どうなってるんだ!?」
と無線に怒鳴り散らす。
『それは恐らく新型の爆弾だろう。特徴を教えてくれ』
「あー、薔薇が3本生えてる」
『薔薇? いくら寒いジョークを言っても爆発までの時間は凍結してくれないぜ』
「ホントなんだよ!」
『色はいくつある?』
「赤の薔薇と黄の薔薇と青の薔薇だ!」
『なんだなんだ誰かにプロポーズでもする気か、そんな相談は受け付けてないぜ。もしかしてそこの花さんにか?』
「ええ」
花がフンでも踏んだような顔をしたのを見て、班長は胸辺りをつかみながら、
「ちげえよ!」
と否定する。
「導火線が薔薇になってんだよ! 導火線が薔薇になってるのか」
まさかの事実に隊長はちょっと静かになった。
『とにかく、よくわからないから俺にできることはもうない。頑張れ、以上』
「おい!!!!!!」
無線は切れていた。隊長に投げられた無線機はコロンと音を立てて床に転がった。
「もう無理っすよ」
「そんなことを言うな、無井。なんとか策を練れ、策を!!」
とは言いながら隊長は腕組みをするものの、何も思い付かない。薔薇の茎が導火線の代わりになっているのはわかった。では赤、青、黄、どの薔薇を切ればいいのか。当然無井も策を出せない。爆弾は〔2:00〕と時の経過を示す。絶望感が辺りを包む中、唯一何かを思い付いたのは花であった。
「そうだ、プロポーズですよ!」
「だから俺はプロポーズなんかしねえよ」
「隊長のプロポーズはどうでもいいんです。プロポーズといえば薔薇。花言葉ですよ!」
「どういうことだ?」
勘のにぶい隊長に花は眉をひそめる。
「お花には花言葉というものがあって、それぞれお花には意味があるんですよ。プロポーズに限らずお花を贈るときは、その花の花言葉を込めて相手に贈るんです。例えば赤い薔薇の花言葉は愛情、美、情熱。青い薔薇の花言葉は不可能。黄色い薔薇の花言葉は友情、平和、愛の告白を意味します。これがどの色を切ればいいのかヒントになるんじゃないかなと思うんですよ!」
両腕をグーにして何度も何度も振りながら力説する花だったが、武久は、
「はあ……面倒だなそれは」
と言うばかり。
「隊長は本当におしゃれじゃないですね」
「さっきから風当りが強いな」
「でも結局どれを切ればいいのかわからないっすよ。花言葉なんて関係ないかもしれないし。やっぱり無理っすよ」
無井の言葉に再び黙り込む2人。爆弾は〔1:00〕を示し、無井の無理節も現実的に感じられるのだった。
目の前には有り得ない薔薇が生えた爆弾。薔薇を切れば爆破が止まる? そんなことがあるのか。無理……無理……不可能。
「「「青」」」
3人は顔を見合わせた。まさか。そんな単純な。
「青い薔薇の花言葉は不可能なんだよな?」
「はい、そのはずです」
「よし、無井お前が切れ。青い薔薇は一番お前にピッタリだ」
武久が無井の肩を叩いた。
「そんな、マジっすか。嫌っすよ」
「あと30秒です!」
「お前何言ってんだ! そういうことを言うな。お前は爆弾処理班だろ!このビルを守るんだ。さあ、早く!」
「そんな失敗したら」
「早く!」
武久の顔は無井と今にもキスしそうなほど近かった。口臭がムンムン無井の鼻孔まで届いてくる。
「20秒です!!」
「わかりましたよ……」
しばらく固まっていた無井だったが、観念したようにしゃがみこみ、ハサミを取り出した。無井が震える手を伸ばす。ハサミが青い薔薇の茎を捉える。
「いきます!」
無井は目をつぶって茎を切った。青色の花弁がはらはらと落ちていく――。
「止まった……」
「おお」
「よっしゃー!」
隊長は両腕と雄叫びを上げた。花は口を大きく開けて笑った。無井はパタンとその場に崩れおちた。爆弾が、爆弾のタイマーが止まったのだ。こうして巨大ビルディングは守られた。
任務完了後、花は思い出した。青い薔薇の花言葉は確かに「不可能」だった。でもそれは長らく人類が青い薔薇を生み出せなかったから付けられた意味だったのだ。でも青い薔薇が存在する今は違う。今の花言葉は「奇跡」だ。
薔薇色爆弾 ケーエス @ks_bazz
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