絢子の夢

黒猫の夢

第1話


「私は人を殺す時はブロンドでやるの。」


絢子はタクシーの中でそう言いながら、ブロンドの長い髪のウィッグをとった。その下には肩につかないくらいの白い髪のボブヘアー。


その見た目は、40代を過ぎたくらいだろうか。

白髪は10代の時からだったらしい。それも何本か生えているのではなく、全体が白髪だったようだ。


弟も、同じように10代の時には全体が白髪だったが金髪に見えるように染めていたため、不自然には見えなかったようだ。



ー5年前ー


絢子37歳。


「さて、お惣菜も買ったし帰ろうかしら。」


商店街の中にある市場。そのすぐ側には階段があり、ここを登ると2階にはアパートがあった。


絢子はそこで弟の雅志と2人暮らしをしている。


玄関の扉を開くとすぐにダイニングキッチンがみえる。いつもは弟しか居ないのだが、そこには全身黒色の服を着た中年の男性と7歳前後の女の子が居た。可愛らしい赤っぽいスカートワンピースを着ている。



「絢子さん。勝手にお邪魔してすみません。」


正座をしてたであろう、その中年男性は立ち上がる動作をしつつそう言った。


男性の後ろ側、隣の部屋と繋がるふすま扉のそばに女の子がいる。なにやら熱心に扉の角の出っ張りを確かめるように、それに触れて指先で感覚を確かめつつその扉の角と自分の指先を見ていた。



「なんの用かしら?」


絢子は状況を把握しようと部屋の中を見渡しながら、そう言った。買ってきたお惣菜の袋をキッチンのシンクに起き、隣の部屋を覗くと弟がふすま扉を背に座っていた。


「おう。」

一言そう言って、軽く左手を上げる弟。



絢子はダイニングキッチンに戻り、男と話をしようとしたその時、突然扉が開く。


「あなた、なに?!」

絢子の声と共に銃声がした。1回。2回。

絢子と中年男が撃たれたのだろう。



そして、隣の部屋に入ってきた。

20代くらいの男だろうか。全身黒色の服を着て、髪を明るく染めている。


そしてに銃口を俺に向けて、1発。

この1発で致命傷になっただろうか?もう1発くらわせるべきか?男はこちらを見つめながら、しばしの間考えていた。



突然の出来事に驚きを感じながらも、それを察知した俺は目を閉じ、致命傷で意識も無くなってしまった。というふうに見せながら、男からの2発目をどうにか避けられることを祈った。そして、とにかくここから逃げなくては。と思っていた。


男は、俺に2発目をくらわせる必要は無いと判断して、俺から目線を外したあと、同じくこの部屋に逃げてきた女の子を見つめた。


女の子は、突然の出来事に状況を理解できず、ただ怯えた目で男を見ていた。

女の子は何もしないだろう。と判断した男はまた、隣の部屋ダイニングキッチンに戻って行った。


雅志は、痛みよりもどうにかして逃げなければということに思考が回っていたため、撃たれた腹部を抑えながらもどうにかそばにある窓までたどり着き、音をたてぬようゆっくりと開けたのち、そこから飛び降りるように逃げ出した。



男の銃は小型で、撃たれたところも腹部だが、内臓の損傷は避けられたため雅志は、かろうじて歩くことも出来た。


窓は商店街側にあったため、すぐ目の前にあった市場に駆け込み、助けを求めた。


そこには銃声を聞いたであろう人達が集まって、何事かと騒いでいた。


「警察を、警察を呼んでくれ!撃たれたんだ!」

「警察を呼んでくれ!!」


目の前にいた何人かの人に掴みかかるようにして、大きな声でそう言った。


しかし、こいつらは俺を見るだけで何もしようとはしなかった。動揺する様子もなく、ただ様子を見ているだけだった。


俺は瞬時に気付いた。こいつらは、あの銃の男の仲間だ。雰囲気的におそらくはこの目の前にいる3人の人間。


どいつも20代後半くらい。きっと下っ端なのだろう。ただ外で監視しろと言われていただけであるために、俺に声をかけられても何もせず見守っているだけであった。


しかし、俺を捕まえてどうにか処分しようかと考えている雰囲気もあったため、俺は行動を起こされる前に別の人達に助けを求めることにして、そこを離れようとした。


すると、その直後に背後から声をかけてくれた女性がいた。


「大丈夫ですか?!」


彼女は警察の黒い砲弾ベストを着ていた。その周りにも2人の警察官が来ている。きっと発砲事件があったと誰かが通報してくれたのだろう。



「助けてください。撃たれたんです。」

彼女にもたれかかり、必死に事の重大さを訴えかけた。さっきのやつらとは違い、真剣な顔で聞いてくれた。そして直ぐに病院まで連れて行ってくれる手筈をしてくれた。







退院の日がやってきた。

撃たれてから数ヶ月。病院内では、なんだか監視されているような気がする時もあったが、何かをされるわけでもなく、無事に退院できた。



あの商店街の家は、絢子が手放したからもう帰ることはない。俺は自分の車を運転していた。



後をつけられている感じがする。1台の車が俺の車の様子を伺うような動きをしながら追走してきていた。


俺がとある道まできた時に、車を停めるとその車も少し後ろで停車した。中から様子を伺いつつも、車から出てきそうな気配もあった。


そして、直後、対向車線から1台の車が走ってきて俺の車のすぐ前に停まった。


お互いに運転席の顔が見える。


対向車の運転席には手を振る絢子がいた。俺も右手を軽く上げて挨拶した。

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