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倉庫がたくさんの声でいっぱいになる中、たった一人の声は冷静だった。


「おい鶴、いい加減にしとけ」


ツル、とは彼のことだろう。そしてこの声はきっと赤髪の。




「へいへーい、じゃ、残念だけど面倒になる前に帰りますか」


いやいや、もう十分面倒になってますよ


なんて、現在形で抱きしめられている私は口に出来ないけど……



とにかく帰ってくれるなら有難い。


忘れかけていたけど、さっき怪我をしたショウの手当てだってしたいし、何より凛太郎を落ち着かせないとあとあと面倒だ。




頼むから早く帰ってくれ、もう面倒事はごめんだ



そんな風に思っていたのに……







「……え、」



突然ふわりと体が浮いた。

目の前には目を見開く青龍のメンバー、お腹には硬い何か

そして謎の浮遊感。


「え、ちょ、……まっ、て」


不安定な感覚につい声を出してしまう。



「あは、そんな声も出るんだ。ほら、大人しくしないと落ちるよ」



グラリと揺れるのが怖くて私はしがみつくようにシャツを握った。





……シャツを握った?誰の?








恐る恐る自分の状況を見て頭が真っ白になる。






私は彼、紺野の肩に担がれていたのだ。

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