第12話
夜10時頃、私は再びVRカプセルに入り、短時間だけ遊ぶつもりで「アーデント・オンライン」にダイブした。ログインした先は、拠点都市レーヴスの宿屋。
オンライン状況を確認すると、ユマがすでにいるようで、すぐにメッセージが飛んできた。
『おかえりー! 今、街の北門付近にいるよ。スケルトン系が出るダンジョンに興味があるんだけど、行ってみない?』
どうやらユマは、レベル上げも兼ねて中級寄りのダンジョンを探索したいらしい。私は賢者の石板の手がかりが気になるが、今夜は疲労も残したくないし、気分転換にいいかも。
『わかった。じゃあそっち向かうね』
私はすぐに行動開始。街の北門付近へ行くと、ローブ姿のユマが手を振って待っていた。
「コトハ、お疲れ~。あのね、北の方に廃墟のお城があるんだって。そこそこ強いスケルトンが出るらしいけど、レグラーナほどじゃないと思うし、レベル上げになるかなって」
「お城か。面白そうだね」
私は笑って頷く。こういう中規模ダンジョンは気軽に楽しめるし、レアアイテムが拾えることもある。
「じゃあ行こっか。時間もあんまりないし、ちゃちゃっと攻略して帰ってこよう」
そう言って私たちは北門を出て、夜のフィールドを駆け抜ける。夜のフィールドはモンスターの強さや出現数が若干変化するが、まだそこまで脅威ではないだろう。
約10分ほど移動し、見えてきたのは崩れかけの石造りの城塞。城門が口を開けていて、中には青白い灯りがかすかに揺れている。
「うわ……不気味」
ユマが思わずつぶやくが、私も同感。幽霊屋敷感がすごい。
入り口付近にはスケルトンソルジャーが2体ほど見張りのように立っていた。ユマが火球を放ち、私がショートソードで仕留める。そこまで強くないが、防御力はそこそこあるようで、ちょっと手間取った。
「中に入るよ。気を引き締めてね」
「はーい」
城内の廊下は冷たい石の壁が続き、松明や燭台がところどころに取り残されている。床には砕けた骨や壊れた剣が散乱していて、思わず足元を気にしてしまう。
「この先に大広間があるみたいだし、そこに中ボスがいるってネットの書き込みで見たことあるよ」
ユマが情報を教えてくれる。こういうダンジョンは有志の攻略WikiやSNSである程度の情報が共有されているものの、私自身はあまりそういうのを見ないタイプ。自分で挑むのが好きだから。
「じゃあ、行ってみようか」
廊下の途中、横の部屋からスケルトンアーチャーが矢を放ってくる。私は壁を盾にしてやりすごし、ユマが魔法で牽制。近づいてきたところを私が一気に叩くという連携が決まり、スムーズに撃破できた。
「なんか私たち、いいコンビかも?」
ユマがはしゃいだ声を上げる。私も嬉しい。こんなふうにマルチプレイしていると、やはりソロとは違う楽しさがある。
しばらく進んで大広間へたどり着くと、そこには甲冑姿のスケルトンナイトが4体ほど待ち構えていた。さらに奥の玉座には、一回り大きなスケルトンキングがどっかりと腰を下ろしている。
「おお……ボス感あるね。どうする?」
ユマがドキドキした口調で問う。
「うーん、まずは取り巻きのナイトを1体ずつ釣ろう。多勢に無勢は不利だし。私が弓で先制して、1体ずつおびき寄せるから、他のやつらが来ないように距離を取って」
「了解!」
私は短弓を構え、玉座から一番離れたナイトを狙う。矢がヒュッと飛び、ナイトの肩に命中。すると、そのナイトがカシャカシャと音を立てながらこちらへ接近してくる。他のナイトたちやキングは動かない。
(よし、計画通り)
距離をとった場所で、ユマの魔法と私の連撃でナイトを倒す。そこまで強くはないが、防御力が高くて少し時間がかかる。
「次!」
同じ要領で2体目、3体目と片付け、残るはナイトが1体とスケルトンキングのみ。最後のナイトもおびき寄せて無事撃破すると、ついに玉座にいるキングが立ち上がった。
「グゴゴゴゴ……」
低い唸り声とともに大剣を振り回しながらこっちへ歩いてくる。黒いオーラが見え隠れして、見かけよりも危険な雰囲気が漂う。
「こいつはちょっと手強そうだね。ユマ、援護頼むよ」
「うん、任せて!」
私は短弓で様子を見ながら攻撃し、ユマの火球と組み合わせて牽制。すると、キングは大剣を振りかぶり、床を叩きつけた。衝撃波が走り、私とユマは体勢を崩す。
「うわっ……!」
「きゃっ!」
VR特有の振動が身体に伝わり、軽くスタミナを削られる。すぐに立て直して距離を取り、ユマが立ち回れるスペースを確保する。
「火球、もう一発……!」
ユマが詠唱している間に、私が正面から気を引きつける。キングが大剣を振り下ろす瞬間にステップで横へ回避し、横腹へショートソードを叩き込む。
ジャキッ!
骨が軋む感触が伝わる。でも、体格差が大きいせいか、そこまで効いた様子はない。キングが振り向きざまに大剣を水平に薙ぎ払ってくる。
「あ、危なっ!」
私はギリギリのところで伏せるように回避。髪の毛一本分くらいの距離で剣が通過する感覚にゾッとする。
その間にユマの火球が放たれ、キングの胸部を直撃。ドゴッという破壊音が鳴り、骨の破片が散る。キングがぐらりと後ずさる。
「いい感じ! あと少し!」
私は立ち上がり、素早く背後をとるように駆け寄って、首元へ連続攻撃。骨が崩れ始めたのを見てユマがとどめの大火球を放つ。
ズバァーン!
派手な爆音とともに、キングの体が一瞬にして砕け散る。しばらく骨の塊がカラカラと音を立てて床に転がり、やがて消滅した。
「やった! 勝ったよ!」
ユマが飛び跳ねて喜ぶ。私もほっと安堵の息をつく。ここまでスムーズに倒せるとは思わなかったけど、それだけ私の装備とユマの火力が噛み合ったんだろう。
ドロップアイテムを確認すると、「骸王の大剣」「古代の王冠の欠片」など、いかにもスケルトンキングらしいものが手に入った。大剣は使えないけど、売ればお金になりそうだ。
「これでユマの経験値はそこそこ上がったんじゃない?」
私が尋ねると、ユマはステータスウィンドウを開いてニコニコ笑う。
「うん、レベル18になった! すごい上がり方!」
それは良かった。私もそこそこ経験値をもらえているから、気分がいい。
「今日はこの辺にしよっか。あんまり夜更かしすると明日がしんどいし」
「そだね。満足したし、まだちょっと余韻を楽しみたいけど……明日も学校あるからなあ」
現実でも高校生同士、こうして息抜きができるのがVRMMOの良いところ。
私たちは無事に城から脱出し、レーヴスへ帰還。宿屋にチェックインしてからログアウト。もう夜も遅いし、体力的にも区切りがいいだろう。
カプセルから出ると、0時を過ぎていた。
「……明日(正確には今日か)、朝起きられるかなぁ」
そうぼやきながら布団に潜る。ゲームの中の出来事を思い返すうち、すぐに寝落ちしてしまった。
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