第3話 幻影を焼き尽くせ
「何かおかしいとは思っていたんだ。しかし、新鮮な食材とレシピがあったし、美味しそうなイラストもあったからな。その肉じゃがとやらに挑戦してみたのだ……ティナの為に……」
消え入りそうに俯く姫も超可愛いい!
「その気持ちだけで嬉しいよ、姫」
「うん」
「で、どうしたらいいの? これ、全部幻覚なのかな?」
「幻覚と実体が混ざり合っていると思う。簡単なのはやはりティナの魔法だ」
「うん。この綺麗な家を焼いちゃう?」
「それが一番だ」
私は姫と一緒に家の外へ出た。
薔薇園の中にある小さな家。
深紅と淡いピンクで染められた美しい家。
こんな小さな家で姫と一緒に暮らしたい。
そんな、私の小さな願いを踏みにじる試験官ってさ、どんだけ性悪なんだろうね。
「煉獄の炎で鍛えし灼熱の鉄鎖。かの家を捕縛せしめよ!」
ふふふ。私の魔法バリエーションも結構多いんだよね。
家の周りの地中から、赤く焼けただれた鉄の鎖が何本も飛び出して来た。その鎖は小さな家に何重にも絡みついていく。
高温の炎に熱せられた灼熱の鎖に絡みつかれた小さな薔薇色の家は、途端に発火して燃え始めた。
「ティナ。何故鎖を使ったんだ?」
「家の中に性悪な術者がいたらね、勝手に逃げられないようにするためです。中に潜んでいたら熱い鎖でグルグル巻きにしちゃうんだから」
「……エグイな」
「そうだよ。乙女の夢を弄ぶ性悪には徹底的にお仕置きしちゃいます」
「そうだな」
そりゃそうだ。
他人の夢や希望を題材にして弄ぶなんて許せない。泣いたって土下座したって許してやるもんか!
ごうごうと燃え盛る家の中から何かが飛び出して来た。炎に包まれたそいつは灼熱の鎖に引っ掛かって悶えていたが、すっと消えてしまった。
「逃げたか」
「むむう。アレが黒幕だったのかな?」
「多分な。試験で合格者を出さないように操作していたのだろう」
確かに、勇者選抜試験は難関であるべきで、誰でも簡単に突破できてしまっては意味がない。しかし、精神操作魔法で幻覚を見せて脱落させる姑息なやり方は卑怯ではないかと思う。
薔薇色の小さな家が焼け落ち、その炎が周囲の薔薇園を焦がしていたのだが、唐突に暗くなった。
周囲には白っぽい四角い石、墓石がズラリと並んでいた。そして目の前には焼け焦げた地面と私が召喚した煉獄の鉄鎖がごろりと転がっていた。鎖はまだぼんやりと赤く光っていたが、私はそれを引っ込めた。
「今度は墓地から移動してないみたいだね」
「ああ、場所を移動すると色々面倒なんだと思う」
「面倒って、こんな手の込んだ幻影を使う方が面倒だと思うけど?」
「いや、作者のネタが切れたんだろう」
「作者って何? もう、姫ったら訳が分からない事を言わないで!」
「くくくっ」
姫はニヤニヤ笑っているけど、それが何なのか教えてくれなかった。ま、そんな事はどうでもいいか。試験が無事に済んだなら、姫と一緒に〝肉じゃが〟を作って食べようと思ったのです。
【まだまだ続きます】
薔薇色の小さな家 暗黒星雲 @darknebula
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