男の値段

縞間かおる

第1話 汗が滲むバーコード

「部長! お約束いただいた2年からもう4か月も経っています。私はいつ本社に戻れるのでしょうか?」


 そう尋ねた男を“部長”は一瞥した。


「単身赴任のキミの事はもちろん気に掛けているよ。しかし人事はキミ一人を動かせばいいという事では無い。今、無理にキミを戻せば、キミは10期下の井上の部下になってしまう。私の同期にその様な者が居てはならんのだ!!我ら34期は我が社の中核となるべく日夜研鑽を続けている。キミが苦労しているのはそのアタマを見れば分かるが、キミもその礎になるべく、もうひと頑張りもふた頑張りもしてもらわにゃならん!」


 男は額の上にバラバラ崩れてきているバーコードの髪を汗と共にかき上げ食い下がろうとする。


「もちろん頑張らさせていただきます! しかし……」


 男の言葉には取り合わず部長は話を続ける。


「知っていると思うが、この前の同期会にはキミの奥さんも来ていたよ。相変らずの美貌で……キミが羨ましいよ」


「あ、いえ……」と男は頭を振って言葉を継ぐ。


「部長の奥様こそ、お綺麗でらっしゃいます……」


「キミ!我が社の“役員”に向かって『お綺麗』は不適切だろう!! もっとも“家内”は、そんな事では怒らないがね!」


 部長は鷹揚に笑って見せながら男に釘を刺す。


「キミのそういう所がなってないんだ!! を得意先ではやらんようにな!!」

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