第四章 自転車
「出席番号一五番、先崎優。」
「はいっ。」
受け取るのはたった一枚の紙切れ。今までの俺だったらこんな式典は退屈だっただろう。ただ、今は一生終わらないでほしい。この別れの式典は俺の目を腫らすことを止めない。おれはその悲しみに身を任せていた。
ホームルームで受け取るのは担任からのメッセージ。さも煽り散らかした文章だろうと高をくくっていたら、らしくないちゃんとした文章でしっかりと泣かせてきた。最後の校舎。俺は綾に連絡をして一緒に写真を撮る約束をしていた。しかし、綾が来ない。五分、十分、二十分経っても綾が出てこない。ついに、乗る電車の時刻的に出発が来てしまった。
「最後なのに締まりが悪いな。」
今日何度目か数えるのを止めた涙をこらえて俺は駅へと歩き、電車に乗った。
大学からは都心に出ることが決まってるから、もしかしたらこれがお別れになるかもしれない。せっかくだし風景でも見ておこう。後ろの窓を開け、春の空気を吸い込んだ。
「先輩、先崎先輩!」
聞こえるはずのない声、あるはずのない姿。目の前には自転車に乗った綾がいた。自転車に乗れないはずなのに、どうして乗れているんだろう。
「ずっと自転車練習してたんです!何回もコケて、青あざだらけになっちゃったけど、やってみたかったんです。どうです、青春っぽくないですか!」
とんだサプライズだ。間違いない。今、俺らは素晴らしい青春を謳歌しているのだ。
段々と彼女の姿が小さくなっていく。何か言わなくては。一言で今の俺の気持ちを伝えられる言葉を。そうだ、
「綾、好きだ。」
先輩だって後輩を好きになる 白池 @Harushino
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