先輩だって後輩を好きになる

白池

一章 階段

 頬杖をついてウトウトしていたのにいつの間にかガクンと崩れかけて、ハッと目を覚ます。先崎優せんざきゆうは今日ものんびりしていた。あーあ。

「おい、先崎。お前今なんの時期かわかってるよな?」

わかってるっつうの。黒板の上にデカデカと書かれた「受験必勝」の文字。知らないうちに飾られて、知らないうちに枚数が減っている共通テストのカウントダウン。こんな状況で受験生であることを忘れられるやつがいるのなら、今すぐにでもその顔を拝んでみたいくらいだ。しかも、授業が終わらないからって、推薦入学が決まってる俺に「三月までみっちりの授業計画〜共通テストを添えて〜」を押し付けているのはそっちじゃないか。

「勉強と部活の両立をするのってけっこう大変なんですよ。たまには寝かせてくださいよ。」

そうオブラートに包んで愚痴っても、結局返ってくるのは両立云々の話ばかり。変わらない現状と溜まった疲労に一つ大きなため息をついた。


 荷物をまとめ、教室を出て塾に向かう。目をつぶっててもできるその繰り返しにもうすでに体は抗うことを諦めている。諦めが悪いのは頭だけか。踊り場の窓からは薄曇りの雲が見えている。本当に自分は中途半端だな・・・

「ばさばさばさばさ、ばたん。」

僕の横を凄まじい勢いで通り過ぎたその音の正体は、踊り場の床に横たわっていた。

「大丈夫ですか。」

そう声をかけた瞬間、彼女はこれまた凄まじい勢いで飛び起きた。俺のアゴを強打して。

「す、すみません。しつれいしましたぁ・・・」

恥ずかしさのメーターが振り切れてしまったのか声が弱々しくなり、顔が真っ赤になっている。

 荷物をまとめるのを少し手伝うと、俺と違う色の上履きを履いた彼女は軽い会釈をして、小走りでその場を去っていた。その姿を見送った俺の心は平穏とは程遠かった。

 なにせ、一学年下に恋をしてしまったのだから。

 

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