第4話 「C」 電話対応を学ぶ

 自分が入社したその当時、自分を含め、報道には4人「ワタナベ」がいた。そのため必然的に、局内では下の名前でみんな呼び合うようになる。

ベテランの報道デスク、ワタナベ「カズヒコ」さんも多聞に漏れず。


そのワタナベ「カズヒコ」さん宛てに外部から電話がかかってきた。


その電話を受けた新人同期が「あ、ワタナベさんですか。ワタナベさんは今、席を外しています」と答える。

受話器を置いた瞬間、周囲から

「外部から身内への電話は呼び捨てだろうが!」

「『さん』をつけるな!ワタナベでいいんだよ」と叱責される。


その様子を遠目で眺めながら、小さく頷いていたのが我々と同じ新人の「C」である。

何やらCには

「呼び捨て」「身内」

それらのワードに何やら感じるものがあったようである。


その直後にかかってきた電話。

Cは「オレが手本を見せてやる」とばかりにすぐに受話器を取った。

またもやワタナベカズヒコさん宛ての電話だった。

Cはやや尊大な口調で言った。


「『カズヒコ』は今席を外しています」

 

お前はワタナベカズヒコさんの親父かーい?


大概の事件や災害に対し、冷静沈着に対応してきた報道局の3階フロア全体が、全員のツッコミで底が抜けた瞬間であった。

2階スポーツ局フロアにドリフのごとく頭上からたらい、いや、天井から3階の床をもたらしたのは、我々報道局ではなくC個人であった。


「『カズヒコ』は今席を外しています」

確かに「身内」である。そして「呼び捨て」でもある。


確かに何も間違っていない、互いの顔を見合わせながら、

一瞬のカオスから顔を上げ、人々はまた何事も無かったかのように、底の抜けた3階フロアで

ニュース原稿を書き、そして、映像編集に戻るのであった。


これもまた、Cという同期が引き起こしたことではあるが、ワタナベは「たまたまワタナベカズヒコさんと同姓だった」という以外には何の責任も無いのである。

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