青薔薇の加護

夢水 四季

青薔薇を拾って……。

 ああ、俺の人生も薔薇色にならねえかなあ!

 毎日毎日、残業の灰色の日々。

 出会いといえばパートのおばちゃんくらいで、結婚なんて程遠い。

 クソ上司は俺を正当に評価してくれないし。

 部下はゆとり世代で言うことを聞かないし。

 趣味は無難に読書だが、最近は激務で文庫本一冊すらも読めやしない。


 そんなことを思いながら、会社からの帰り道をとぼとぼ歩いていると、道端に奇妙なものを見つけた。

 それは青い薔薇だった。

 何でこんなところに?

 確か青い薔薇は、自然発生は出来ないんだっけか。

 何処かの誰かが捨てたのだろう。

 俺は物珍しさから、その青薔薇を持って帰ることにした。


 1K一か月五万円のアパートに帰り、青薔薇をペットボトルで簡易的に作った花瓶に挿す。

 青薔薇を見ながらコンビニの弁当を食べる。

「お前もこんな殺風景な所に来ちまって災難だったな」

 薔薇に話しかけるなんてメルヘンなことをし始めている自分に気持ち悪さを覚え、さっさとシャワーを浴び、寝床に着いた。


 次の日。

 俺はいつも通りスーツを着て会社に出社する。

「いってきます」

 昨晩は花に話しかけるなんて気持ち悪いと思っていたが、何となく声をかけた方がいい気がして出かける際の挨拶をしてしまった。


 会社に着くと、上司が俺に向かってきて言った。

「昇進おめでとう」

「へ?」

「課長に昇進だよ。お前の頑張りが認められたんだ」

 パートのおばちゃん達も拍手をしてくれる。

「あ、ありがとうございます」

 俺はふわふわとした気持ちで仕事を始めた。


 昼休み。

 俺はいつも通り、職場近くの公園でコンビニ弁当を広げる。

 ぼっち飯だ。ぼっちで悪いか。

 俺が弁当を半分程平らげた頃だった。

「あの」

 一人の女性が話しかけてきた。

「はい?」

「私も一緒にご飯食べてもいいでしょうか? 一人だと何だか味気なくて」

「え、はい、いいですけど」

「ありがとうございます」

 何だ、このイベントは。ずっとここで弁当を食ってきたが、こんなことは初めてだ。

 この女性もよく見ると美人だし。

「私、最近この辺りに越して来たんです」

「そうですか」

 女性がつらつらと身の上話を始めた。

 職場はこの公園近くの図書館で司書を務めているらしいこと、家も俺の家の近くとのこと、引っ越したばかりで友達が欲しいこと、などなど。

 俺は上手い返しも出来ずに「はあ」とか「そうですか」ばかりを繰り返していた。

 彼女と過ごしていると、あっという間に昼休憩の時間は終わりを告げた。

「じゃあ、また明日」

「あ、はい」

 また明日、ということは明日も一緒に昼ご飯を食べてくれるというのだろうか。

 その嬉しさから俺は午後の仕事も頑張れた。


 帰りは奮発してスーパーで焼き肉を買った。

 俺は青薔薇の水を替えながら、話しかけた。

「何かお前が来てから、俺の人生に幸運が舞い降りてきたような気がするよ」


 次の日もまた次の日も、仕事は頑張れたし、彼女との距離も縮まったように思う。


 ある日のこと。

「うっそだろ、当たってる」

 俺は持っている紙切れの番号とスマホ上に表示された番号を何度も確かめた。

 宝くじである。

 何と十億円が当たっていた。

 信じられない。


 そこから俺の行動は早かった。

 今の会社を退職し、独立、CEOになった。

 彼女とも結婚、一軒家を建てた。

 何不自由ない生活が待っていた。

「本当、お前を拾って来た日から、全てが薔薇色に変わっていったよ」



 数年後。

 俺の会社は社員の不正がバレて倒産。

 妻は浮気をし、家を出て行った。

「何でだ! 何で、こうなった!」


 花瓶に生けてある青薔薇は枯れていた。



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青薔薇の加護 夢水 四季 @shiki-yumemizu

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