第4話 宮川泰、布施明『ひとり芝居』を激賞する
1977年、中1の間は、楽器に関してはすべて実技着手の時期で、人前で何か派手な成果をあげるということもなく、修業、研鑽の日々だったのだが、とにもかくにもFM聴取やエアチェックは戸建て住まいになって個室も獲得したので、ますます盛んにやるようになり、毎週土曜昼下がりのFM東京の和洋のベストテン番組も相変わらず欠かさずチェックしていて、録音まではそう滅多にしていなかったが、『宇宙戦艦ヤマト』の作曲者宮川泰がずっと「コーセー歌謡ベストテン」のパーソナリティをやっていたので、今週は何を言うかな?と、そこそこ楽しみにしていたところもあった。
今振り返ると、宮川泰が異様に褒めていた、つまりは激賞していた、4曲の記憶がとにかく強く残っていて、たまたまなのか、それは小6だった1976年から年に1曲ずつなのだった。もちろん、あくまで自分が聴いて覚えている範囲での話である。
1976年『コバルトの季節の中で』沢田研二 作詞小谷夏 作曲沢田研二
1977年『ひとり芝居』布施明 作詞作曲布施明
1978年『さよならだけは言わないで』五輪真弓 作詞作曲五輪真弓
1979年『君は薔薇より美しい』布施明 作詞門谷憲二 作曲ミッキー吉野
のこの4曲はまさにベタぼめで、特に『君は薔薇より美しい』の時なんかは「ミッキー吉野は天才!」って断言してたのが印象に残る。
で、業界内の力関係で身びいきしてたような印象はなかった。というのも、沢田研二や布施明の『渚のラブレター』や『落葉が雪に』あたりは特に褒めてなかったというか、むしろ『渚のラブレター』なんかは評価しない、と言い切ってたように思う。
宮川泰を特に尊敬、崇拝していた、というわけでもないが、実際ガチのプロ作曲家が激賞するだけのことはある4曲だなあ、とは自分も思う。
そして1977年4月5日発売の『ひとり芝居』激賞の回も間違いなく聴いてたのだが、この曲はオリコン集計のチャートで見ると「年間」88位であり、週間ランキングでの最高位は12位であり、さらにいえば布施明全シングル曲のなかでのランクも12位で、あとウィキペディアで単独で立項されていない。しかし「コーセー歌謡ベストテン」には複数回ランクインして複数回オンエアされていた。何かちょっと狐につままれた気分ではあるが、なにせ「コーセー」提供だから、資生堂のCMソングだった堀内孝雄の『君の瞳は10000ボルト』はランクインしない、とかそういう事情もあったりするし、どういうカラクリで『ひとり芝居』を複数回きけることになったのかはこちらのあずかり知らぬところではあるが、聞けないよりは聞けた方がよいのでそこは気にしてもしかたないことなのであろう。
さて、その歌の内容だが、シャンソン風味の倦んだ恋愛歌なので、「ひとり」で「芝居」とか言ってて、暗い展開であり、しかし厨房思考でこれをエロい方向でいろいろ考えると、実になんかこう味わい深いものがあることだなあ、と思った。
ということで、『ひとり芝居』にかこつけ、しかも中1のことだし、お、ここで自慰とかオナニーとか精通とかの話きますか?と早とちりする方もいらっしゃるやもしれぬが、あわてるな。まだその時期ではない。
団地から戸建てに越して個室を得て、何が嬉しい、ってそりゃオナニー以外にもひとりでやれる楽しいことはいろいろあるのであり、それはなんといっても夜間の窓ガラスを鏡に見立てての「形態模写」である。というかまあそれは自分の部屋ではなく、物干し台、ベランダと隣接していた父親の部屋の窓ガラスなのであるが、いろいろわけあって、あまり父親はそこにおらず、とにかく窓ガラスで「形態模写」しまくった。何を?「打撃フォーム」である。
野球部3日で辞めたのだが、野球「部」が合わないのであって、野球そのものは嫌ってなかったし、あと、その頃ようやく自分で勝手にマンガ雑誌や単行本を購入してもガミガミ言われなくなったのもあって(小学生の時はマンガは手塚治虫以外禁止の家庭なのだった)、それも嬉しく、いろいろ買い始めたなかに創刊時期の「マンガくん」があり、水島先生の『球道くん』がメインだったので熟読しつつ、自分なりの打撃フォーム改良に取り組んだのである。
それから、投球や守備に関しては、自分の家の向いのブロック塀を使って、団地の時同様にグローブと軟球で練習した。それもどっちかといえば夕方以降で、街灯の照度で十分補えたし、向いは明らかに居住者のいる普通の家なんだが苦情や文句は全く言われなかった。何故かはわからぬが。
それらの合間に、ギターやピアノも練習していたのである。
ということで小学生の頃、全く使い物になってなかった「打力」は明らかに向上して、体育の授業でごく短期間一瞬だけあるソフトボールや、休み時間の校庭でゴムボール使って行うインディーズ野球などで好成績をおさめるに至った。
この時期に至って、うっすら「体育会」的なるものの意味や位置づけみたいなものも判ってきていたので、野球部もうちょい粘ればよかった、というような気持にもならなかった。ただ純粋に「上手くなるとより楽しい」ってだけのことである。
さて布施明といえば縁の深い小椋佳だが、小椋佳のヒット曲を「コーセー歌謡ベストテン」で聴いたのは結局小6の1976年が最後ということになって、中学入学以降はチャートインしたのをリアルで聴くことはなかったが、とにかく自我の芽生えの小5の1975年とその次の小6、1976年のこの2年間は小椋佳全盛期なのは間違いなく、我が家でもそれがちょっとした論争を呼んだ。
それは布施明と小椋佳の「歌い方」と「聞き心地」の件であって、
父母ともに「布施明の方がそりゃ上手いに違いないが、聞いてる分には小椋佳の方が力が抜けてるので楽」、と言うのであり、いやいやいやそんなことより、上手い方がいいに決まってるではないか、と自分は正論一本やりだったが、これは「音楽」を語りだすと、どのジャンルでも、いつでもどこでも始まる永遠のテーマだし、自分としてもそのへん今はもうどっちかに決めるつもりもない。その時々の気分でいいんじゃないの?みたいな。
さて宮川泰のほうはそうやって毎週FMの番組こなしつつも、『宇宙戦艦ヤマト』の爆発的ヒットぶりは凄かったし、吹奏楽部なのであのテーマ曲はことあるごとに演奏したので、日本全国津々浦々その名を知らぬ者はなし、という状況だったろうけど、考えてみれば昨今の久石譲や鷺巣詩郎とは全然ちがう存在感だったなあ、と。
で、ヤマトもエヴァのようにブームがあとからきたので、再放送やってたのかどうかとか記憶あいまいなのだが、ヤマトのような流行りもののTV音楽に関しては、当時全国の幅広い家庭で行われていた「生録」を自分もやった。ヤマトはよく覚えてないが『ルパン三世』の新しい方とか『太陽にほえろ』とか、そのへんのめぼしいテーマ音楽はポータブルな録再デッキとマイク、やら、大き目な生録機能付きラジカセやらで、家の者に静かにしといてもらって録った。大河ドラマ、『花神』のも録った。
そのように、いろいろ「蓄積」していったのだが、マンガ以外の読書に関してはなにしろ父がこれから大学の教える側の世界でますますの報酬を得るための競争に突入する、という局面だったので、親の持ち物として既に本は溢れていたし、いつとははっきり覚えてはいないのだが、引っ越し後1年以内、自分が中2になるまでには、町内の工務店に依頼して壁一面の大きな書棚を据え付けて、平凡社の百科事典全巻をまず揃えて下の方から埋めていき、その時点ではあり余ってた上方のスペースもあっというまに埋め尽くされた。
が、その大きな書棚の本は百科事典以外はあまり興味をひくようなものはなく、学問と関係なさそうな息抜き的な文学、小説の類がピアノ部屋のスチール書棚にぎっしりつまっていて、そこからよく大江健三郎の文庫本を持ち出して勝手に読んで、『われらの時代』や『性的人間』あたりをズリネタにしてたわけだが、どう考えても中2以降の話だと思う。
中1のクラスでは、部活も一緒の藤本が先述したようにラテン系ナンパノリに「やや」近い感じではあったが、まだそれほど強くそういう傾向が出ていたわけでもなく、マンモス校のなかにあってはクラス自体比較的、おとなしめであったように思う。あとで気づいた話なのだが。
とにかく毎年クラス替えがあるわけで、まさに中2病まっただなかに突入することになる2年の時のクラスが実にとんでもなくアクの強い者どもの集まりであり、1年中「エロ」話をし続けるやつがわんさかいたのであった。
1年の時はまだ「小柄」で、「お人形さん」的に女子に愛玩されてたところもあり、楽器はまだ全部修業中の身で、それで「目立つ」わけでもなく、「演者」としては腑抜けてた感じの春夏秋冬だったわけだが、中2の途中で身長がいきなり「成人男子平均身長」の170に追いついたってのもあり、なにもかもがまさに「中2病」の時期に同時多発的に自身の内部で「爆発」した感じがあった。
なので多分、小説をズリネタにする、っていうのも2年になってからの話でほぼ間違いなかろう。当然のことながら百科事典の中の絵画の図版もネタにした。小説よりはそっちが先だったのか、父母の目を盗んで、というのを考えると小説の方が先だったのか、そのあたり細かいことはもう思い出せない。思い出せないが、絵画の図版の選択対象は、あの『仮面の告白』とは違い、「女体」図像オンリーであった。産湯の光景覚えてるタイプの者でもないし。
てかさっき「まだその時期ではない」とか書いておきながら、結局同じ回のうちに「ズリネタ」の話まで進んだなあ。まあ、そのへんは出たとこ勝負ということで。
というか「中1」は「まだその時期ではなかった」のは合ってたってことで。
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