終章:カシコナールは用法・用量を守って正しくお使いください

「まあ、前向きに考えよ。カシコナールの特許こーてくれる人がいて良かったやん?」


 社長はそう言ってこちらを慰めようとしてくれたが、そんなことで俺の気が晴れるはずもない。


「変な言いがかりをつけられずにあのままカシコナールが売れていた場合の儲けと比べたら端金ですよ。あのアホ教授さえいなければ!」


「うちにはよー分からんのやけど、あの教授の論文みたいなことはほんまに人間では起こらんの?」


 社長は首を傾げる。


「起こりませんよ。いや、正確に言えばそれが起こる条件が一つだけありますが、実際にその条件が満たされることは有り得ません」


「条件て?」


「カシコナールを分解する酵素を阻害する薬が一つだけあるんですが、カシコナールの用法・用量は分解酵素が働くことを前提としているので、その薬と併用すると細胞内濃度が異常に高くなり、例の論文と同じように発がんを誘発する可能性が高いですね。

 まあでも今ではどこにも売っていない薬なので、併用されることなんて有り得ませんよ。ほら、前にちょっと話に出ましたよね? 老化を抑える薬、あれです」

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新薬カシコナール 人鳥暖炉 @Penguin_danro

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