第10話 商人とパチンカスと太平道 後編


____リカクサイド



 ゴウショウ家の商売(しょうばい)


 ゴウショウ家は国内の品質の高い食料を安値で買い占めて他国に高値で売り、他国の質の悪い食料を安値で大量に買い国内で高く売る商売をしている。


 大量に安く買って大量に高く売る。

 でた、利益で更にそれを繰り返す。

 この国でそういう商売の反発は大きい。


 主にまずくて安い食料しか買えない村や街の人間。

 社会の下層にいる人間に恨まれている。


 しかし、ゴウショウ家が安い食料を大量に他国から仕入れなければ飢え死にする層もでてくるだろうと予測される。 


 国民が飢え死にするより、国内の良質な生産能力を活かして貧しくとも暮らして行けるように安い飯を用意する。 


 ゴウショウ家に感謝する人達もいる。


 なのでゴウショウ家を暴力でどうにかするような者や集団はいなかった。


 しかし、太平道は違った。

 正確には太平道の幹部ジダルマ・マドライは違った。

 

 ジダルマは今は太平道の幹部だが、元は寒村の農民でありゴウショウ家を恨んでいた。


 逆恨み近い恨みだが……。

 その恨みは根深く醜悪だったが、その強い思いが太平道の厳しい修業にも耐える一助となり、太平道で幹部にもなれた。


 太平道の幹部は教祖から特別な実権をもらい取り潰す金持ちや、資産家な個人を決定することができる。


 ジダルマは太平道に入りずっとゴウショウ家に復讐する機会を狙っていた人間である。


 そんな実権を握ればゴウショウ家を潰すために使うのは自明の理という他ないだろう。


 しかし、ゴウショウ家の人間は太平道の動きを察して既に国外に逃げた後だった。

 情報が早い商人ならではである。


 しかし、リカクは不幸にも家族離れて違う商売をしていた。

 そのため、国内に残った最後のゴウショウ家の人間であり、国外のゴウショウ家に繋がる唯一の人間である。

 そんなリカクをジダルマが簡単に逃がすわけがない。

 配下を使って1度失敗したが、街でまた捕らえる事に成功した。


 ジダルマの魔手はリカクを捕らえたのである。

 リカクを太平道の城塞まで連行されジダルマ配下の拷問好きの剣士、アリゲートに散在甚振られた。

 が、家族もうらなければカートの中身も渡さなかった。


 「おいおい、お前さんの家族の行方さっさと吐けよ、それにカートの中身を渡せよ! この糞が!」


 そういってアリゲートはリカクの髪を引っ張り上げて顔面を殴打する。

 リカクは苦悶の表情を浮かべるが気丈に言う


「悪いな! 家族の行方は知らないし、カートの中身はもう先約済みだ。 殴りたいなら好きにしろ!」


 その言葉て態度がアリゲートの神経を逆撫でする。

「糞が糞が! 糞が! これならどうだ?」 

「や、やめろ!」

 アリゲートは拷問用のハサミを取り出した。

「お前がしゃべらねぇーのが悪いんだぜ!」

「あっ! ぐぁ!」

 リカクの叫び声が響きわたる。

 アリゲートはその悲鳴を気持ち良さそうに聞きながらリカクの足の指、手の指を順番に切り落として行った。

 あまりの激痛にリカクは何の抵抗もできなくなっていたが、アリゲートは更にリカクの片目を潰す。 更にもう片方の目も潰そうとした時だった。


 カエデが後ろから突然現れて、アリゲートを気絶させた。

「この娘がリカクとかいうゴウショウ家の娘かのう、酷くやられたな」


「あ、アナタは?」


「わらわか? わらわはあれじゃ! 通りすがりのパチンカスの知り合いじゃ! 傷は痛むだろうが少し待っておれ。 パチンカスが治してくれるはずじゃ!」


 そういってカエデは消えた。


 その後、リカクはパチンカスに救出され傷を治してもらい事なきを得て、そのままサハル平原に続く国境の大扉に向かった。


 が、太平道の追撃は終わらなかった。






____パチンカス視点


 カエデに気絶させられたはずの太平道の連中が、国境の大扉の前に何故かいる。


 何故だ?


 そして、こちらに気づかれた。

 総勢100人ぐらいだろうか?

 エル・パソの街の外出会った奴等も混じっている。


 そして、集団をまとめているであろう男がこちらに向かって歩いてきた。


 三蔵法師のパチモンみたいなやつが両隣に牛頭のデカイ獣人と、細身の剣士を引き連れてこちらにやってきた……。


 「私は太平道のジダルマと申すものです。 貴方達ですか? 我々の邪魔をする不心得者達は?」


「エリーシア。 俺達は誰かの邪魔をしたのか?」

「パチンカス殿! 目の前の人間を無視してこちらにふらないでほしいであります」


 ぐぬ、的確なツッコミ!


「その前に2つ聞きたい、何故俺達より早くこの場所にこれた? 何故リカクの場所が分かった?」


「要塞と街の地下で繋がってるんですよ! それと私は探知魔法や集団を目覚めさせる魔法の使い手ですからねこの程度は容易い事です」


「つまり、お前が要塞の人間を起こしてリカクを探知して地下から追ってきたってことか」


「然り。 私は太平道の幹部ですからこれくらいは造作もありませんよ」


 魔法……なんて便利な力なんだ!

 敵対する相手の探知魔法とか禁止して欲しい!


 ジダルマが現れてからリカクは怯えている。


「リカクをあんな目に合わせた奴はお前か?」


 細身の剣士が前にでたきた。

「おれぁ、ぐあ!」


 俺はパチスロ台を細身の剣士の顔面にぶつけて倒す!


 死にはしてないがわりと重症だ。


「アリゲート! テメーなにすんだ!」

 牛頭の獣人が喚く。

「下がりなさい、ゴズ」

 ジダルマがゴズとかいう獣人を制してくれた。


「貴方がたらは我々、太平道に背くということでよろしいですかな?」


「そんなつもりはないけどな」


「ならそちらのゴウショウ家の娘をこちらにお渡しください。 今なら貴方がた見逃してあげても良いですよ。」


「リカクはどうあっても見逃してくれないと?」


「無理ですね」


「さあ、早くゴウショウ家の娘をこちらに渡してくれませんかね?」


 太平道の幹部ジダルマがパチンカスに凄む。


 俺はこの際思いっきり開き直ってみた。

「お前等さぁー なんでこんな小娘を執拗に狙うんだ? マジに理解ができんのだが」


「その小娘がゴウショウ家の娘だからですよ! それ以外の理由が必要ですか?」


「なんだよ? ゴウショウ家ってそんなに恨まれなきゃならんのか? 金持ちってのはそんな悪なのか?」


「悪ですよ! ゴウショウ家はね。 それもう酷いもんです。 ゴウショウ家は国内の品質の良い食料を安値で買い叩き、国外に高値で売り捌く、そして得た利益で他国から粗悪で安い商品を大量に買い付けて国内の食料が不足してる街や村に高値で売り捌きのし上がった悪の商人の家系なんです。 これを国賊と言わずにいれますか?」


「なんだよ。 やっぱ別にゴウショウ家何にも悪くねーじゃん。 俺はてっきり、金塊を見せて証書だけ大量に売り捌いて金を先払いさせて儲けた金持ってドロンしたり、会員になれば大きなリターンが得れますよーみたいなこと言って会員になった客を騙したり、ポンジスキームなような事してたんならまだしも、真っ当な商売してる人間を悪と言うお前等に問題があると思うぞ」


「おやおや、随分と変わった見解を持つ御仁だ。 ゴウショウ家が品質の良い我が国の食料品を他国に売り捌いたせいで、貧乏な者が粗悪な食料品を掴まされる。 その醜悪な構図がわからないとはね。 そしてそこの娘はその醜悪な金儲けで稼いだ金の恩恵で、育ったのだから悪そのもの! だから酷い目似合うのは当然なんですよ。もっと苦しめて、苦しめて、貧乏人が苦しんだ報いの責任をとっていただかなくては!」


「手前勝手な理屈をつけて相手を悪だと決めつけて暴力を振るって、財産を取り上げるお前等の方が悪に感じるがな!」


「悪を倒すために悪にならいないものがおりましょうか!? 私共、太平道は金持ちという悪を倒し、多くの民を救う、そのためならどんな非道も行う覚悟です」


「どうしても見逃せないってか?」


「ゴウショウ家の人間は太平道が悪と断じましたゆえ、見過ごせませんな」


「リカクは俺とこれからサハラ平原に行き国内からでる! それでも追ってくるか」


「そうなる前にここで討ち取らせてもらいます」


「させるわけないだろ!」


 「やれ!」

 太平道の幹部ジダルマの号令で、ゴズを筆頭に100人近い配下が俺達に襲いかかる。


 が、パチスロ台を人数分召喚して投げつけてあっさり撃退。


 俺のパチスロ能力の前では集団も無力に等しい。


「ジダルマさんとか言ったかな? とりあえずお前等程度の力じゃあ、俺は倒してリカクを捕獲するのは無理だ。 何度も言うがリカクは俺と国外に退去する。 だから諦めな!」


「やむ得ません。 これは使いたくなかったのですが!」


 そう言ってジダルマはクリスタルの結晶を割る。

 9つの蛇の頭を持つ大型のヒュドラが現れた。

 デカイ! ここまで大型のクリーチャーは荒野で戦ったもの以来だ!


「このヒュドラは教祖様が作り出した太平道の守護者であり、最強の化身でござ、」

 俺はパチスロ台を多数召喚してグミ打ちした。

 ヒュドラは胴体を少し残してバラバラになった。

 ジダルマはあんぐり開いた口をパクパクさせている。


「たいしたことないですね?」


「まだです!」


  太平道ヒュドラは胴体を起点に高速で再生しようとしている。


 俺はヒュドラの胴体を起点にパチスロ台を小さく召喚して太平道ヒュドラ以上に大きく拡大した。


 太平道ヒュドラは爆散して細切れに地面に落ちて蒸発するように消えた。


 荒野でも経験したことだが再生能力を上回るダメージを受けたら回復力の高いモンスターも簡単に死ぬ。

 太平道ヒュドラも例に漏れず倒せた。


「で、ジダルマさんとやら、まだ何か手段が?」


「私は悪に屈するわけにいかない! いかない! いかないのです!」


 そう言ってジダルマは何かを飲み込みこちらに突進してくる。


 行き過ぎて相容れない思想とはいえ、そこまで思い込めることに逆に感心したくもなるが……。


 俺はジダルマの前にパチスロ台を大きく召喚して壁をつくる。


 ジダルマはパチスロ台に衝突して爆散した。

 酷く偏ったやつだがなかなか芯のある奴にも見える。


 俺はジダルマの飛び散った身体を集めて上級ポーションを使う。

 ジダルマは身に起こった奇跡に困惑しながらも状況を認識して話す。


「これ以上、やるってなんなら本当に殺さないといけなくなる、諦めてくれないだろうか?」


「何故私を助ける?」


「なんでだろうな。 お前等はリカクに酷い事をしたが、命までは取らなかった。 理由があるにせよな。 なら、死なせるの忍びないと思っただけだ」


 ジダルマは完全に自分の敗北を認めるように頭を下げる。


「私の負けです。以下のようにもされよ」


「まあ、貧乏な人間を救済するって考え方は嫌いじゃないぜ。 でもやり方はもっと考えな! それとリカクにはもう手をだすなよ、それじゃあな」


 ジダルマは頭を下げたまま頷き小さく呟く

「承知した」


 その後ジダルマは太平道をやめて違う道を歩き出すことになるのだがそれはまた別の話だ。


 俺はリカクと太平道との決着をつけることができたとは思う。 少なくともジダルマはもう襲ってこないだろう気がする。


 ああいった奴は負けるとすぐに方向転換するからなー。


 良い方向に変わって欲しいものだ。



 俺達はこうして太平道の脅威を退け、そしてそのまま国境を越える事になった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

パチンカス異世界に行く ネコネット @nekokone

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ