第7話 商人とパチンカスと太平道 前編

 

 今日も今日とて帝国迄の旅路は続く。


 そして、俺の隣にいるのは、

「帝国が誇る最終兵器人馬! エリーシア総統閣下である!」

 次の瞬間、俺じゃなきゃ見逃しちゃうね! レベルの速さでツッコミが入る。

 「いだ!」

「誰が帝国の最終兵器でありますか! 馬鹿な事言ってないで先を急ぐでありますよ!」


 そう言ってエリーシアは俺を背に乗せ駆ける。

 人馬の帝国軍人エリーシア。

 彼女ともだいぶ打ち解けてきたような気がする。

 こういったくだらないやり取りができる関係性というのは素晴らしい。


 なんのトラブルもなく足止めもなく、

 今日も順調な旅路になるかなと思いきやそうはならなかった。


 予定通りなら国境の街、エル・パソに到着していたのだが……。

 予定通りには行かなかった。


 何故なら街を目指す道中に盗賊が商人を襲撃していたからである。


 赤い髪の猫っぽい獣人やら

 緑の髪の土竜っぽい獣人やら

 黄色の髪の狼っぽい獣人やら

 多種多様な姿形の獣人の3人組が商人の馬車を襲撃していた。


 商人の護衛は殺されてしまい商人もコロコロ殺されるのは時間の問題だろう。


 とりあえず俺は仲裁に入る。

 挨拶代わりに一発かます!

 パチスロ台を巨大化させて投げつける!

 盗賊と商人の間にきっちりコントロールされたパチスロ台は盗賊から商人をガードしている。


「はい、そこまで!」


 商人と盗賊の間に距離ができた。

 これで少しの間は大丈夫だろう。


「エリーシア、盗賊と商人どっちを助けるべきですかね?」

「商人を助けないでありますか?」

「いや、こういった時って正解が難しいなと思って……」


「難しいでありますか?」


「難しいです。 今の状況って盗賊は商人から命も財産も奪いたい、商人は命も財産も盗賊に渡したくないという状況なわけですよね?」


「そうでありますね」


「俺は商人を助けたら商人から感謝されたりする立場に今あるわけだけど、盗賊を手伝ったり、盗賊を倒してから商人も倒してしまってもよいわけですよね?」


「パチンカス殿は何が言いたいでありますか?」


「弱い人、困ってる人を助けるのは良いとは思うんですけどね。 盗賊の人達は商人から奪わないと困るわけで、商人の方も盗賊に財産や命を奪われたら困るわけですよ。 だからこの場合は見て見ぬ振りをして通りすぎるのが、盗賊の方にも商人の方にもフェアなんじゃないかと」


 商人の女性は呆気にとられている。

 盗賊も呆気にとられている。


「パチンカス殿は見て見ぬ振りをしたいでありますか?」

「そうじゃないですが、商人助ける義理も義務もないかなと思いまして」


「パチンカス殿! それは間違っているでありますよ! この場は商人を助けるが正解であります!」


 エリーシアは自信に満ちた顔をしている。


「それは何故ですか?」


「商人が物品を流通してくれてるおかげで沢山の人の生活が豊になるであります! 盗賊が商人を襲って商人が殺されてしまうと商人以外にも沢山の人が不幸になるであります。だから盗賊から商人を守った方が良いのであります!」


「なるほど! そうですな!」

「そうであります!」

「そうですな!」

「そうであります!」

「そうですな! ナハハハ」

「なんで笑うでありますか?」

「なんとなくです!」

「なんとなくでありますか」

「はい」


 というわけで盗賊から商人の女性を守ることにした。


「あー。 盗賊の方々、死んだり怪我したりする前に逃げた方がよいでありますよー。 この方はとてつもなく強いでありますよー」


 呆気にとられていた猪の獣人が我に返ってこちらに向かってきたがパチスロ台をぶつけてあっさり撃退。


 残りの盗賊共にもパチスロ台を加減してぶつけて倒した。

 倒した盗賊は端からエリーシアが手際よく捕縛していく。


 あっさり商人娘を助ける事に成功した。


 盗賊達は悪態をつく。

 元気はまだあるようだ。


「というわけで盗賊の方々何かいい分はありますかね?」


「お前こんな真似してタダですむと思うなよ!」

 威勢よく猪の獣人が脅しじみた口調で凄んでくる。

 よくこの状態でこんな口がきけるもんだと感心してしまう。


 命が惜しくないのだろうか?

 まあ、命を取ろうとは思わないけど……。


「盗賊の処分って勝手にしてもよいんですかね? 俺の生まれた国だと捕縛はよくても勝手に罰を与えるのは禁止されてるんで、やっぱり役所かなんかに突き出したらいいんですかね?」


「そうでありますな。 次の村に常駐してる衛兵に渡すのが無難かもしれないであります」


「衛兵に突き出しても駄目よ。 そいつらは太平道の信者だもの。 逆に貴方が捕まるわよ」


 助けてあげた商人娘が割って入ってきた。


「元気になって良かったですね。 護衛の方々は残念でしたが」


「ケチって役に立たない護衛をつけてしまって今日程後悔したことはないわ。 ホントマジにムカつく!」


 想像以上に口の悪い商人娘だった……。


 緑のワンレンの長い綺麗な髪、気の強そうなツリ目が特徴的で、赤く高そうな生地のドレスにフリルのついたスカートを着用している。


 近くで見るとめっちゃ美人だ!


「護衛も命かけて頑張ったんじゃないかな?」


「あんた途中から来たから知らないでしょうけど死んだ奴等はアタシを引き渡す代わりに命乞いするようなロクデナシよ! 死んで当然な奴等よ」


「この盗賊達はそんなやばい奴等なんですか?」


「太平道の実行部隊よ! やばいに決まってるじゃない」


「エリーシア 太平道ってご存知?」


「太平道はこの国を荒らしてる宗教であります」

 これを読んでみるとよいであります。

 エリーシアから太平道の事が書かれた冊子を見せてもらう。


 太平道とは?

【神は富の偏在を赦さじ其れを正すこと正義成り】

 貧乏な人間が何故生まれるのか?

 それは金持ちが存在するからである!

 故に金持ちから富を奪い貧乏人に分け与える!

 それこそが正義

 世の正しい姿である!

 というような内容の宗教である。

 

「太平道の信奉者はとにかく金持ちや資産家を許さないであります。 1度狙った相手は骨までしゃぶり尽くす危ない宗教団体であります!」


「つまり、隙あれば何時でも金持ち殺したいね! 金持ちから奪った金で世界を平等に公平にするマン! みたいな存在ということですか?」


「まあ、そういった感じの集団なイメージはあるでありますな」


「なる程、ということはこちらのお嬢様は大変なお金持ち?」

「そうよ! アタシはお金も資産も沢山持ってるお金持ちよ! でもそんな事で恨まれて殺されるなんて迷惑よ!」


 まあ、そうだよな。


 だが……。

 貧乏人が自力救済として金持ちを襲う。

 そういった宗教が流行るという事はこの国は真っ当に働くよりそっちのが幸せになれるくらいに荒れているということだろうか?


 だとしたら、俺はどうすれば......。


 まあ、軽くどうでもいいです!


 俺はパチスロ打てたらわりとどうでもいい。

 俺は俺で、安全な場所で悠々自適に暮らせればそれでいい!


 少なくともこの国より帝国のが暮らしやすそうだし面倒事は避けて先を急ぐ!


 それが一番良いと俺は考える。

 結局のところ俺は知らない誰かには、とことんドライなパチンカスなのかもしれない。


「こいつらをこのままここに埋めてしまって証拠隠滅ってわけにはいかないですかね?」


「無駄な殺生はあまりきがすすまないであります」

 エリーシアの言う事も一理ある。


「かと言ってもう遺恨がうまれてますし、このままってのは後に災いになりませんかね?」


「なら殺すでありますか?」

「え……」


「パチンカス殿がそれでいいならワタシはそれでいいであります」

 これは、それでいいやつじゃないやつだ。

 しかし、俺も人を殺したいとは思わない。

 仕方ない。


「おい、お前等、今回は見逃してやるから今後は俺達に関わるな! 絶対にだ! もしも、次に俺達の前に現れたら こうだからな!」


 俺はパチスロ台を街道の外れにある大きな岩めがけて放ち粉々にする。


 盗賊共は目を見開いてあんぐりしている。

 だいぶビビってくれたようだ。


「アル! こいつ絶対やばい奴だよ!」

 土竜の獣人は正しい判断をしてくれたようだ

「アル......怖いよー」

 女狼の獣人はビビりすぎだな。

「だおら、くそ!」

 アルと呼ばれている猪の獣人はわりと反抗的である。


「この場に放って置いても大丈夫ですかね?」

「運が良ければ仲間が助けてくれるであります」

「じゃあアタシがこいつらをどうしようといいわけね」


 女商人は殺る気だろうか?


「それはそうと商人さん俺は貴方を助けました。何か言う事があるんじゃないですか?」

「なによ? お礼が欲しいの?」

「いえ、礼儀が欲しいです」

「あ、そういうこと」


 女商人は改まって名乗る。

「アタシの名前はリカク、リカク・ゴウショウと申します。この度は危ない所を助けてくださって誠にありがとうこざいます! この3人の獣人はアタシに譲っていただけませんか?」

 と言ってリカクは綺麗に一礼する。


「こいつらををどうする気ですか?」

「こうするわ」

 そう言ってリカクは獣人達の頭に触れて魔法を発動する。


「今日あった事は忘れてアジトに戻りなさい」


 そうリカクが言葉を発すると獣人達は何かに操られたように立ち上がりそのまま去っていった。


 精神操作系の魔法かな? 

 こいつやばいやつなんじゃ……。


「そんな魔法が使えるなら俺が助けるまでもなかったですね」


「そうでもない、相手の頭に直接触らないと発動できないし、30分しかもたない欠陥魔法よ」


 それでも充分凄い魔法だと思う。


「カートは無事だし。 助かったよ。 それで助けられたついでといっちゃー、あれだけど、アタシをエル・パソの街まで連れて行ってくれないか? だめか?」

「それくらいなら構いませんよ」

「助かるよ」


 一緒に行くなら俺もきちんと挨拶を返そう。


「俺は旅の者、パチンカスと申します。 隣は案内人のエリーシア、街までは短い間かもしれませんがよろしくお願い致します」


「リカク殿よろしくであります」


 そう言って俺とエリーシアの手をとるリカクの手は少し震えていた。


 多分、内心は色々とブルっていたのかもしれない。


 何はともあれ、商人のリカクとエル・パソの街まで行くことになった。



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