魔王の剣と勇者の剣 第12話

    表彰式

 表彰式とイベントが始まる。

 闘技場内の魔王の剣を個人戦の優勝者とパーティ戦の優勝パーティーのメンバーが抜く事が出来る者が現れれば、現魔王メナスに魔王の座をかけて挑戦権が与えられるのである。

 100年前にメナスが抜けてからは、現れていない。

 折角なので、まずメナスが、抜いてみる。

 長方形の岩に根元まで刺さり、柄だけ見えている剣・・・

 一気に引き抜く。

 きれいな刀身が見える。

 オーッ!歓声が上がる。

 元に戻す。

 次はアマンダが、柄を握ると引き抜く。

「・・・抜けた。

 100年振りだ。」

 どっと、歓声が沸く。

 剣を戻すと、次はアリアが引き抜いた。

 アインとツヴァイ、カーミラ、アリウス迄が、引き抜く。

 ざわざわ騒ぎ出した観客たち・・・

「どういうことだ?」

「今まで全員が抜けたぞ・・・」

 そして、ハンナが引き抜く。

 そして、更に隣の剣に手を伸ばす。

「あれを、あの剣を・・・」

 いまだかつて誰も触る事さえ出来なかった剣の柄を握ると引き抜く。

 そして、アンナがハンナに抱いてもらい、同じ様に2本とも抜く。

 最早、観客たちは固唾をのんで見守っている。

 そして、最後にルーシー。

 先ずは、魔王の剣・・・

 右手で握ると引き抜く。

 2メートルの長方形の台座ごと・・・

 巨大なアイスバーの様だ・・・

「「「なんだと~!」」」

「抜けた~!」

 いやいや、それは抜けてな~い!と全員が突っ込む・・・

 左手でもう一つの剣を掴む。

 更に巨大なアイスバー・・・

「抜けた~!」

 だから、抜けてないってば~!

 更に全員が突っ込む。

「見て見て~!つよそーなけん!」

 笑顔でブンブンと両手で巨大なアイスバー2本を振り回すルーシー・・・

「これが一番つよそーなけん。」

 立ち会った審判が、

「・・・え~一名以外、全員が抜けたという事で・・・」

 ルーシーは、

「ひどーい!抜けたのに~!」

 むくれるルーシーは、無視される・・・

「え~それで皆さんは、魔王に挑戦しますか?」

 全員、「「「興味なーい」」」

     解決策

 だが、観客席はざわつきが止まない。

「魔王の剣はともかく、勇者の剣を抜いたのは初めてだぞ。」

「あれは、魔王を倒す剣じゃ・・・」

 しばらく反応を見守ったメナスが、

「皆の心配はもっともだ。」

 メナスは、ニコッと笑う。

「こういうのはどうだ?」

 ハンナとアンナに近づき、ハンナに向かい合う。

 息を吞むハンナ。

「・・・なあ、ハンナ。」

 初めて、ちゃんづけ無しで呼ぶ。

「は、はい。」

「俺と、一緒になってくれないか?」

 観客、

「「「え~っ!」」」

 ハンナは顔を真っ赤にしている。

「俺は本気だし、別にこの状況だから、とかでもないぜ・・・

 そして、3人で新天地、オルクスに行こう。」

 やがてハンナは、真っ赤な顔で少し頷く。

 ・・・少し遅れて、大歓声が上がる。

「こりゃあ、祭りだ。」

「魔王メナスが勇者をノックアウトだ!」

「逆だろう!」

「お妃さまバンザーイ!」

 そして、メナスは

「今回の闘技際の終了後、俺は魔王を辞める。

 そして、移民団を集めてオルクスに入植を進める事を宣言する。

 この国は、新たな魔王としてアマンダを筆頭にして合議制とする。

 かかる金は、闘技際の賞金と、ユレノ侯爵が出してくれるさ。」

 メナスが、ニヤッと笑う。

「さあ、文句がある奴は降りてきな!」

 そして、アマンダが、

「メナスの後は私が引き継ぐ。

 メナスは、ああいったが私は魔王として、この国は引き継ぐが私の上に初代「大魔王」メナスがいると思いな!」

 闘技場が静まり返る。

 やがて、

「大魔王メナス!」

「新魔王アマンダ!」

「お妃様、ハンナ様」

「勇者アンナ!」

 歓声が上がる。

「さてと、先ずは船だ。

 明日からは人手がたくさん必要になる。

 王都に仕事を探す奴、新天地に行きたい奴はギルドに集まってくれ!」

        先発隊

「ルーシー、先にいく。

 あいさつまわりするね。」

 メナス達は、驚く。

「何故だ?ルーシー。」

「国作っておくね。

 あと、お船はいらなーい。

 ここから、つなげるねー。」

 ルーシーから、星空が広がる。

 ルーシーの手に刀が一振り。

 と、その刀身が星空になり、そして虹色になる・・・

「くーかんとじかんきる。」

 軽く一振りすると、空間に大きな亀裂が入った・・・

 亀裂の下に、星空がある。

「こてーかんりょう。

 これで、いつでもだれでも行けるよ。

 3ねんくらいこのまま。」

 アリアが、メナスに

「これが消えても、あんたがルーシーにもらった刀か、ここに置いていく魔王の剣と勇者の剣を使えば、「ゲート」が開くわ。

 出口は目印があるから必ず同じ地点が出口になるからね。」

 と、アンナが不意に

「ルーおねえちゃん、アンナもルーおねえちゃんといっしょにいきたい。」

 ハンナが、狼狽えて

「どうしたの?突然。」

「アンナは、ぼうけんしゃをしたい。

 ルーお姉ちゃんともっと、たびしたいの。」

「いーよ。」

 ルーシーがあっさりと言う。

「いつかは、「お友達」だけど、まずはいっしょにいこー!」

 アリアが、

「じゃあ、あたし達は撤収するわ。

 メナス、あんたらは準備出来次第、順次来なさい。

 そして、到着した地に街を造りなさいな。

 ルーシーがその周りの広大な一帯をダンジョンに変えているだろうから、防衛をしっかりとしなさい。

 短い間だったけど楽しかったわ。

 じゃあね。

 ハンナちゃんも元気でね。」

 ふっと、ルーシーとアンナ以外のメンバーが消えた。

 去り際、ハンナにアリアの声が聞こえる。

「アンナちゃんは気を使っているのよ。

 あの子の成長の為にも見送ってあげなさい。」

「ルーシー達も行くね。」

 ルーシーとアンナが、手をつなぎ空間の亀裂に向かって駆け出し、ふっと姿が見えなくなった。

「あ・・・」

 ハンナが、呟いた。

 メナスが、

「振り向きもしないで行っちまいやがった。

 まあ、すぐに会えるさ。

 船も要らなさそうだしな・・・

 さあ、万全の体制を整えて俺たちも行こう。

 メナスが、ハンナの肩に手を置く。

 ハンナはこくんと頷いた。 

 亀裂の横に石板の様な石・・・

 魔王の剣が刺さっている。

 そして、石板の内にぼんやりと勇者の剣が見て取れる。

 何故かハンナは亀裂を超えた先の出口にもう一つの石板があると、確信する。

 メナスに頼んで、石板に文字を入れてもらおうか・・・

 私達姉妹が出会った星空を操る女の子の事を・・・

 ハンナは、ぼんやりと考えた。

     出発

 そして、半年後にメナス達と3千人が出発した。

 シリウスを中心とした冒険者達。

 建築技術者達。

 これから続々と人が来る予定だ。

 到着すると、果たして先ずは、石板が見える。

 見渡して、後ろを見て立ちすくむ。

 巨大な城・・・

 城門に多数の見たことのない人々がいる。

 メナスが、

「あんた達は?」

「大魔王メナスだね。

 我々はこの魔大陸にある4つの国の代表団だ。

 あなた達を歓迎する為に集まっているのさ。

 不思議なのは無理もない。

 今から150年程前に2人の女の子が現れて、あちこちの国を訪れたのさ。

 記録によれば、「お引越しそば」とかいう変わった食べ物を持ってね。

 そして、今日君達が来るからよろしくと言ったのさ。

 私は央国の大使だが、いやあ我々人族は寿命が短いので当時の王から3代変わったからねえ。

 北の国のドワーフや南の国のエルフとは違ってね。

「私達東の国もそうさ。

まあ、「世界樹の女神」にも頼まれているからねえ。」

「世界樹の女神?」

 メナスが、訊ねる。

「それは私が。

 南の国の代表団のハイエルフのユリウスです。

 南の国の世界樹の上にいる女神「ラムダ」から同じ時期に神託があったのです。

 友好な関係を築くようにとね。

 そして、その少女達はその後に大陸を回りあちこちで、冒険?大暴れ?奇跡?を起こして回ったのですよ。

 そして、世界樹の勇者アンナは世界樹に今いると言われています。

 ふらりと突然、姿を現すこともあるようですが。」

 メナスが、

「もう一人、ルーシーは?」

 ユリウスは、

「南の国で戦乱がありまして、その時から行方不明と聞いています。

 名前は知られていませんが、「女神に愛されし邪神の姫君」とね。

 この城はその姫君がある日突然、建てたと伝えられています。

 この城の位置する、央国の西側の広大な「魔の森」が巨大なダンジョンと化したのも、その姫君のした事とか。

 まあそんな訳で我々は、国交を樹立しに来たのですよ。

 魔の国の大魔王メナス、よろしくお願いします。」

「あ、ああよろしく頼む。」

 メナスが、各国大使と話をしているのを横目に、ハンナは何気なく見ていた石板のふもとに、一冊の本が落ちているのを見つけた。

 近づき手に取り見ると、日記の様だ。

「お姉ちゃんへ」

 開ける。

「ハンナおねえちゃん。

 きょうから、おねえちゃんにお手紙かくね。

 きょうは、ルーおねえちゃんとドラゴンやっつけておにくたべたよ。」

「きょうは、おおきなおしろで、らむだちゃんにあったよ。」

「きょうは・・・・・・」

 読むハンナの目から、大粒の涙が止まらない・・・

 そして、最後のページには、

「今日、ルーシーと別れた。

 彼女は私が一生を全うし、悔いがなくなって尚、一緒に行きたいのなら迎えに来ると言った。

 彼女はまだ、これからも私の想像を超える様な長い時間を旅するのだろう。

 ルーおねえちゃんに幸多からんことを祈る。

 そして、ハンナおねえちゃん、メナス兄さん、また会いに行くね。」

「うん、うん・・・」

 ハンナは、泣きながら微笑んでいた。

 3年後・・・

 ハンナは、石板の前で王子を抱いている。

「建国の姫君、星空を操る少女に捧ぐ」

 メナスが、ハンナに請われ文字を入れさせた。

 ふと、背に刀を背負う一人の戦士風のいでたちの女性が近づいて来る。

 その顔立ちは・・・

「・・・アンナ?」

「お姉ちゃん!

 やっと会えた。」

 二人は石板の前で抱き合って涙を流す。

 王子は不思議そうな顔で二人を見ている。

     エピローグ

 大魔王メナスは、2人の王子と妻ハンナに見守られてその生涯を終えようとしている。

 周りの声も最早、聞こえない・・・

 耳元でささやく声がする。

「いっしょに来る?」

 遠い昔に聞いたことのある女の子の声・・・

「いや、もう満足さ。

 ありがとう。

 ・・・ルーシーに幸多からんことを・・・」

 アリウスは、呟いた。

           終わり

 


      

 


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