魔王の剣と勇者の剣 第10話

     剣士ルーシー

 グラーフがルーシーと対峙する。

「子供が相手とはな。

 可哀想だが、少しばかり痛い目に遭ってもらうぞ。」

 ルーシーの足元から星空が広がる。

 元に戻ると、いつの間にかルーシーの手に木刀が握られている。

「ルーシーの、あいと~典助。

 いくよ~柳生新陰流、奥義ルーシー剣た~!」

 距離は10メートル程で、ルーシーが剣を振る。

「ポカン!」

「いてっ!」

 突然、背中に一撃を食らう。

 グラーフは、振り向いてから、またルーシーを見る。

「と~!」

「ポカン!」

「いてっ!」

 次は後頭部・・・

「かならず、どこかにあたるのが、ルーシー剣。」

 どや顔でルーシーが言う。

「た~!、と~!、や~!」

「いてっ!、いてっ!あ痛っ!」

 段々ボコボコにされていく・・・

 こうなったらと、距離をつめようとする。

 グラーフの動きに合わせてルーシーは足を動かしてもいないのにまるで滑っている様に距離が縮まらない。

「た~!」

「チーン!」

 トライアングルの音・・・

「あっ、ボーナスポイント~」

「はうっ!」

 股間を押さえて倒れるグラーフ。

 審判は、確認して、

「勝者、ルーシー。」

 メナス、

「・・・個人戦、出なくて良かった・・・」

     本戦出場

 そして、次戦は・・・

「アマンダを倒した奴か・・・厄介だな。」

 アリアは、

「タネが分かれば、つまらん奴さ。」

「解るのか?」

「まあ、観てな。」

 黒ずくめの男が突然、影の中に消える。

 次の瞬間、ルーシーの背後に現れてルーシーの首に短刀を突き立てる。

 切っ先が触れた瞬間、固定されたように突き通らない。

 また影の中に消える。

 ルーシーの足元から星空が広がる。

 闘技場の端まで広がり、元に戻る。

 いつの間にか、5人の黒づくめの男が立っている。

「・・・5人いたのか・・・」

 5人の男が、これまでかと審判が宣言する前にルーシーに襲い掛かる。

 再びルーシーの足元から星空が広がり、

 触れた男達が3人は、指一本動けなくなる。

 飛び上がっていた2人は短剣がルーシーに触れた瞬間短剣を握ったまま空中で固定されたように、固まっている。

 いつの間にか、ルーシーの手に拳銃が握られ、5発撃つ。

 5人の鼻先でカプセルがパチンと弾ける。

 ルーシーが、そのままでスイーッと滑るように移動して影が戻る。

「うぎゃーっ!」

「目っ目がーっ!」

 男達が転げまわる。

「勝者、ルーシー!」

「やったー!」

メナス、

「何あれ?」

アリア、

「ヲタクの作、よ。

 圧搾空気でカプサイシンパウダーのカプセルを飛ばす銃。

 ルーシーの右眼でレーザーロックし、ある程度は遠隔誘導可能。

 顔の前でパチンと弾ける。

 まあ、とにかく本戦出場ね。」

     パーティー戦予選

 その晩は、宿屋の酒場でお祝いをする。

 翌日は、パーティー戦の予選だ。

「いよいよ俺は初陣か。

 楽しみだぜ。」

 メナスが言うと、アリア

「但し、あんたは多分初戦は出番ないわよ。」

「なんでだ?」

「なんとなくだけどね。」

 アリアの予感は当たった。

 翌日も会場は賑わっている。

 予選が始まる。

 個人戦よりは参加の数が少ない為、一つの舞台に4パーティーが参加して1パーティーが通過し、後2勝して本線参加となる。

 最初の混在戦のみ場外在り。

 見ていると、試合開始と同時に4隅にそれぞれパーティーの遠距離担当が陣取り、アタッカーが護衛と攻撃に回っている。

 そして、ルーシー達が舞台に上がるとアリアが、

「やはりね・・・」

 相手チームは、全員翼がある。

「つまり、相手は場外が無い訳ね。」

「おい、これって・・・」

「そうね恐らく相手チームは全員グルねえ。

 あんたよっぽど嫌われてるんじゃない?」

「奴隷を解放するのに反対する奴等・・・か。」

「まあ、あたし等にはあまり、関係ないけどね。」

 ルーシーが、

「カーちゃん新兵器あげる。」

 星空が伸びると、レールガンよりごついライフルが浮かび上がる。

「ビームライフルだよ。」

「スゲーなおい。」

 試合が始まると同時に、相手チームが全員飛び上がる。

 お互いに闘う様子はない。

「やはり、ね。

 せっかくだから中央に集まって。」

 会場が騒ぎ出す。

「あれはいいのか?」

「まあ、強いパーティーを集中して攻撃するのはありだろう。」

 カーミラは新兵器を構え、

「レーザーロック、発射。」

 ビームが一人に当たる。

 何ともない・・・

「・・・出力不足か?」

 カーミラが呟くと、

「か、痒いーっ」

 当たった奴がそこを掻き始める。

「やった~、あたるとかゆ~くなるびーむ。」

「・・・うがーっ!しょーもないわっ!

 おいっ!アリアっ!」

「・・・あたしに振らないでよ!

 ヲタクとエロジジイが喜んで開発してたやつよ!」

「大成功じゃ。」

「・・・アップグレード完了。

 せっかくだから右眼に追加装備完了。

 全員使えるよ。」

「あんた達、それルーシーに、発射したら目がかゆくなるって言われてお蔵入りになったわよね。」

「誰が使うか、そんなもん!」

 カーミラが、文句を言いながらもビームライフルを次々発射する。

「か、痒いー!」

 ルーシーが、カプサイシン攻撃を撃つ。

「じゃあ、そろそろ・・・」

 突然、空中に立方体の結界が次々出来る。

 ぶつかって次々と落下する。

 瞬く間に飛んでいる者がいなくなる。

「勝者、ルーシーとゆかいな仲間たち!」

 会場が沸く。

 そして、午後からの戦いが始まる。

「今度はアマンダとメナス、頼んだわよ。」

「ああ、任せな。」

「ようやく、だねえ。」

 全く相手を寄せ付けず、連勝をする。

「やっぱり、あのパーティーが優勝候補だな。」

「今度は、メナスとアマンダの2人で勝ったようなもんだ。」

 その晩は、宿屋でメンバーで食事をする。

 ガリアとミリアも一緒でルーシー達と一緒に食べている。

 メナスが、

「しかし、こうもあからさまに仕掛けてくるとはな・・・

 ユレノ侯爵が、裏で糸を引いているんだろうか。」

 アリアが、

「まあ、いよいよそれしか手が無くなって来たんでしょうね。

 世論はもうあんたの味方で、あんたを魔王の座から引きずり下ろすしか、手は無い訳よ。

 まあ、姑息な手はどんどん使ってくるわ。

 注意しなさい。」

 メナスは、

「じゃあ、ガリアとミリアを呼んだのは?」

「もちろん、狙われる可能性があるわよね。

 でも、あいつらは今の所成功していない。

 ここに今皆いる事がそれを証明している。」

「どういうことだ?」

「今頃、奴らは慌てている筈よ。

 なんせ、送った配下が誰も戻っていないのだから。

 探しても髪の毛一本見つからないわよ。

 もう忠告を済ませているから、あたし達が付けた護衛は容赦しないわ。

 私達も、ね。

 アリアが、にやあっと笑う。

「やれやれ、敵にしなくて良かったよ。」

「まあ、多分本戦はあんたや、アマンダを集中して攻撃してくることが予想できる。

 後はそうね、ルーシーの時みたいに、見えない敵に気を付けなさい。」

「奴らは、そんな手も使ってくる、と?」

「いよいよ手段を選べなくなってきたのよ。

 あと一息ね。

 明日は個人戦の本戦。

 まあ、ルーシーの5連勝で優勝だろうけど。

 明日の優勝パーティーの準備をしなきゃあね。」

「大きなケーキ?」

「まあ、いいよ。

 その代わり・・・」

「うん、ちゃあんと、いっぱいはをみがく。」

 メナス、

「何で?」

「聞かないでおくれ。」

「・・・解った。」

     個人戦

 翌日、闘技場は人で溢れかえっていた。

「今回は魔王メナス、出ないのか?」

「優勝者と戦うのかな?」

「いや、魔王の剣を抜けんだろう?」

 そして、一回戦が始まる。

 ルーシーが、会場に現れる。

「グラーフを倒した子か・・・」

「だが、運がないな次の相手も強敵だぞ」

 相手は・・・

「ザガードの奴か・・・」

 メナスが呟く。

 アリアは、

「強いのかい?」

「魔王軍最強の魔導士だ。

 1体1で距離を取られたら俺でも自信がない。」

「まずいね、これは・・・」

 アリアは、呟く。

「やばいな。」

 カーミラ。

「・・・魔法か・・・」

 アインとツヴァイが不安げな顔をする。

 メナスが、

「ルーシーは魔法に弱いのか?

 あの子が魔法を使うのは見ていないが・・・」

「あの子は3つしか使えないけど・・・それが一番の問題なのさ・・・

 いいかい、皆ルーシーが、魔法を使う瞬間、3000キロ程転送するよ。」

「・・・なんだそりゃ?」

「あの子の魔法は、ある意味この星を破壊するよりも危険な魔法なのさ・・・

 一応、禁じてはいるけど・・・」

「まあ、使いそうだよな・・・」

 カーミラ。

「それでは、はじめ!」

 審判が宣言する。

       魔法勝負

 いきなり、無詠唱でザガードから突風が吹きルーシーを吹き飛ばそうとすると同時に、ザ・ガードが後方に飛ぶ。

 メナスが、

「うまいな、あれなら同時に、距離も取れる。」

 だが、ルーシーはにこおっと笑った。

 びくともしない。

「この程度の魔法は効かんか、だが。」

 ザガードは、詠唱を始める。

 すると、ルーシーが

「みーんな、しやっくりとまらなくなーれ!」

「ヒックッ!」「ヒック!」

 ザガードの詠唱が途切れる。

 同時に、会場全体も・・・

「ヒック、おい、ヒックアリア、ヒック」

 メナスが、言うと、

「ヒック、あの子のヒック、使う魔法はヒック、全部広域範囲ヒック、魔法なのヒック、なのよ。」

「な、なんて迷惑なヒック、魔法なんだヒック、」

「後、二つヒック、は使わないでヒック、」

 だが、アリアの願いはむなしく・・・

「みーんなこむら返りにヒック、なーれ」

「ギャー!」

 会場全体で悲鳴が上がる・・・

「みーんな、お腹ピーピーに、」

 突然、皆のお腹がゴロゴロ鳴りだす。」

「待て待て待て。」

 メナスが青ざめる。

「待て!」

 審判が声を振り絞る。

 ピタッと止まる。

「それ以上は、審判に響くからやめて。」

 会場中から、スタンディングオベーションが審判に対して起こる。

「た、助かった~」

 大会後、この審判に対して「ナイス・判断賞」が贈られる事となる・・・

「・・・まいった。」

 ザガードが、降参する。

 こむら返りが響いて歩けなくなった為だ。

 歩けない魔導士など、勝機は無い。

 ましてや、相手は遠距離攻撃でグラーフを倒した、ルーシー。

「勝者、ルーシー。」

 会場は、沸き上がる。

「危ない奴だが、なんてとんでもない子だ。」

「優勝候補を立て続けに倒したぞ。」

「俺、おむつ履いてでも応援するぞ!」

 メナスは、

「あらためて、とんでもない奴・・・」

 アリア、

「次は何をやらかすやら・・・」

 深ーいため息をついた。

    2回戦

「次は・・・これは・・・メジの奴か・・・

 同じ街同士の対決か・・・まあ、キリクの奴も残っているが・・・

 応援しづらいなあ。」

 メナスが言うとアリア、

「私達には同じさね。

 あの人ルーシーと気が合ってはいたねえ。

 魔道具なんて私の世界には無かったしね。」

「あいつは魔道具で、様々な魔獣を操ることが出来る。

 しかも、複数同時にな。

 だが・・・」

「あの子には「ユニット」があるからねえ。

 呼ばれたら席を外すよ。」

「ああ、そういえばあんたも・・・」

「そういう事。

 もっとも、たぶん、呼ばれないでしょう。

 ああ、違う意味で胃が痛い。

 「亀王」呼ばなきゃいいけど・・・」

「あんなの呼んだら、会場壊れるぞ!」

「それでは2回戦はじめ!」

     魔獣カーニバル

「よし、いくぞ、ルーシー」

「うん、メジのおじさん。」

 メジが魔道具に息を吹きかけると、黒い影の魔獣が5体現れる。

「ケロちゃん、ティーレックス。」

 ルーシーから、銀色のカエルが飛び出すと、その姿がぺしゃんとつぶれる。

 と、ボコボコと噴き出すようにその体積が増え小山の様になると、見たことのないドラゴンの姿になる。

 異様に大きい頭部、小さな前足、大きな下半身と尻尾・・・

「なんだ、あのドラゴンは・・・」

「クロちゃん。」

 星空から銀色の烏が飛び出してルーシーの肩に乗る。

 紅い右眼と3本目の足が体の上を無軌道に移動している。

 そして、飛び上がる。

 5匹魔獣がケロちゃんを取り囲み、死角から襲い掛かる。

 尻尾を振り回し、頭部で応戦する。

 と、頭上から火球が飛ぶ。

 瞬く間に魔獣がちぎれるが、元に戻る。

 ケロちゃんが魔獣の攻撃でぱっくりと裂けるが、瞬時に復元する。

「あのドラゴンはスライムの一種なのか?」

「魔獣も凄いな。」

「これは勝負がつくのか?」

 メナスが、

「・・・千日手だな・・・ルーシーも甘いな。

 お互いに術者は狙わんか・・・」

 アリアは、

「あの子を見くびらない方がいいわよ。

 あの子は、進化し続ける運命の、「ルーシー」。

 有り得ない世界、「ルーシー」の世界を司る者。

 その意味をこれから、目にするでしょう。」

      「あり得ない世界」

「ケロちゃん、戦闘態勢。」

 ケロちゃんが、ぺしゃんと形を失う。

 銀色の巨大なスライム・・・

 やがて、様々な動物の頭部が浮かび上がる。

 牡羊、牡牛、鹿、虎、熊・・・どれも右眼が紅く輝いている・・・

 星空が広がる。

 魔獣の周囲が歪む。

「強電磁界で覆っているのよ。」

 やがて魔獣の中心に点が出来ると、球体の閃光に覆われる。

「・・・摂氏一億度のプラズマ核融合・・・そして・・・」

 ふっと、球体が消えた。

 あとには何も残らない・・・

「何が起こったんだ?」

「核融合のエネルギーを利用して、「完全な虚無」、空間も時間も、方向すらないエントロピーゼロ、「世界と世界の間」を疑似的に作ったの。

 あの子はその気になれば、「世界」を造ることが出来る。

 「世界」を司るという事は同時に、「虚空」も司るという事・・・

 まあ、要は魔獣を存在させている要因を物理的に全て無に帰した訳。

 只、あの子はあれでも手を抜いているのよ。

 あの子が本気になれば、物理法則さえ関係ない。

 消えろと言えば消える・・・

 結果の為に、過程を必要としない「力」よ。

「・・・そんなのまるで、・・・」

「・・・言わないのが花・・・おとぎ話になってしまうわよ・・・

 どう?勝てる気がする?

 あたし達の「盟主」ルーシーに・・・」

 アリアが、にこおっと笑う。

 紅い右眼で、額に燃える様に輝くもう一つの眼で・・・

「・・・あんた・・・」

 メナスが、唸る。

 試合はメジが降参して試合が終わった。

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