魔王の剣と勇者の剣 第4話
攻撃
「じゃあ、こーげきじゅんび~、キーちゃん。」
突然、後方に山が浮かび上がる。
全長300メートル、高さ50メートルの銀の山。
紅い右眼の巨大なウミガメの頭部も・・
「・・なんだ?こりゃあ・・」
「キーちゃん、対空戦闘準備。
武器選択、ファランクス。
甲羅の一部から円筒形のポッドが幾つもせり出す。
「地対空ミサイルよ~い。」
いつの間にか、カーミラが、ユニット亀王の頭の上でレールガンを構えている。
アインとツヴァイは刀を抜き、周りに広げた星空から無数の球形のドローンを浮かび上がらせる。
ジル・ド・レェは槍を、弁慶は薙刀を、十兵衛は刀を、構える。
シリウス、ハンナとアンナは、アリアの結界に守られている。
ルーシーとアリウス、ラミアは星空を伸ばす。
「3人は、あたし達の攻撃開始と同時にダンジョンへ突入。
あたし達は攻撃しながらゆっくりと前進。
行くわよ。」
ラミアが、アリアに
「あんたらにしては、まどろっこしい攻撃だね。
衛星攻撃や、重砲の攻撃を使わないなんて。」
「少し気になることがあってね、あまり攻撃手段を見せたくないの。」
「あんたが、手の内を明かしたくない相手が近くにいるって事かい?」
ラミアがにやりと笑う。
「それは後が楽しみだねえ。」
・・・10分後、全てが終わっていた。
ダンジョン攻略も含めて・・
ルーシーの力
「待て待て、何でダンジョン攻略が10分で終わるんだ?
しかも、移動時間まで含めてって、いくら何でもあり得ないだろう?」
シリウスは訳が分からない。
「あのね~、ルーシーたちがダンジョンに入ったら、すぐにリッチいた。
だいちゃんが、リベンジっていって、リッチ叩いてこわして~、ラミちゃんが食べちゃった。
ほかのまものは、ルーシーのなかにいれちゃったの~。
それでついでに~ダンジョンこわしてきたの。」
ラミアが、
「要するに入り口で、用が済んだって事さ。
私が中を奥迄こんがり焼いて来たからねえ、当分は魔物も発生しないさね。」
アリアが、
「ルーシー、ドラゴン回収しといたわよ。」
「わ~い!お肉たっぷり~。
しゅるいもたっぷり~。
ずっと、にくまつり~!」
どうやら、ルーシーにはアリアが回収した量まで把握できるらしい。
「それでアリア、あんたの危惧って何なのさ?」
ラミアがアリアに訊ねる。
「あたし、人工衛星に最初リンクした時にこの大陸が映らなかったのよ。
映ったのは、未開の大陸とされるオルクスだけ・・
そして、すぐに衛星が落された。
つまり、現状人工衛星が使えない。
次に、私達が他の大陸に行く事が出来ない。
別に障壁などで遮られている訳でもないのに。
何か妨害手段が存在するのか、あるいは・・
まあ、まだ不確定要素が多いわ。
少し気になることもある。
突然、現れたというアンナちゃんの事。
ハンナちゃんの言う事も何か引っかかるしね。
取り敢えずは、もう少し様子見と言った所かしら。
一旦街まで戻りましょう。
シリウス、あんたにもいろいろ聞きたいことがあるしね。」
「あ、ああ。
あんた達が何を言っているのかは分からんが、俺も興味はある。
まあ、とんでもないあんた達に対する興味が一番だけどな。」
アリアは、苦笑する。
「それこそ、余り関わらない方がいいと思うけどね。
さあ、ルーシー達は暇そうよ。」
「肉祭り早くしたい。」
「アンナも~。」
皆の顔がほころんだ。
帰還
街に帰ると、ギルドにまず向かう。
そのままギルマスのガルドの部屋に行き、シリウスが報告する。
「ランドやアマンダからも報告は聞いたが、シリウスの話・・信じられんな。
お前達だけで暴走状態のダンジョンを10分で制圧、同時に500頭のドラゴンの群れを・・な。
もし本当ならば、この街どころか、国の全戦力でもお前達には敵わないという事になる・・」
「まあ、その辺は聞いても答えるつもりは無いわ。
ただし、干渉しようと思わないでね?
忠告と思っていいわよ?」
アリアは、笑った。
「・・おっかない話だ。
まあ、まずは礼が先だ。
連中を助けてくれて、感謝する。
そして出発前の魔物の群れの退治と、ダンジョンの制圧にもだ。
出来る限りの報酬は出す。
闘技際の準備もあるし、暫くは騒がしいと思うがのんびりして欲しい。」
「そうさせてもらうよ。」
宿に戻る。
主が、
「人数が増えたねえ、皆部屋を取るかい?」
アリアが、
「いいえ、ここにハンナちゃんとアンナちゃん、ルーシー、カーミラと、ラミアは・・お願い出来る?」
「まあ、いいじゃろう。」
「ババア枠・・ぐえっ。」
「いい機会だ、お前を少し鍛え直してやろう。」
「じゃあ任せたわ。
私達は、少し調べてみるわ。」
次の瞬間、5人を残してふっと消えた。
「これは、一体・・」
宿屋の主人は目を丸くしている。
「この5人で頼む。
まずは食事だな。」
「ごは~ん」「ごはーん」
ルーシー、アンナは喜んだ。
翌日の朝5人はギルドに向かう。
見つけたシリウスが、近づいて来る。
「今日はどうする?」
「薬草採取でお願いします。」
ハンナが答える。
「いいのか?
後ろのお二人さんは、いやじゃないのか?」
「構わんよ。
別に、のんびりするのは嫌じゃないさ。」
「まあ、昨日の今日だしね。」
「じゃあ引率は任せるよ。
よろしくな。」
未踏破ダンジョン
シリウスに言われたように、皆で森に入る。
少し奥に入るが、やはりあまり薬草は生えていない。
「うーん、もう少し奥まで行って見ましょう。」
ハンナが言う。
少し歩くと、なにかの立て札が倒れている。
文字の部分が地面の側なので、誰も気が付かない。
「この先未踏破ダンジョン、立ち入り禁止」
入った瞬間、ラミアが
「待て、空間が・・」
言った瞬間、ハンナ、アンナ、ルーシーの姿が消える。
「ちっ、空間型のダンジョンの入り口だったのか。
カーミラ、上空からルーシー達を探せ。
3人一緒に跳ばされたから恐らく一緒だろう。
もし分散されていたら、ルーシーはともかく子供達が心配だ。」
ラミアの不安は当たっていた。
出会い
気が付くとアンナは、一人で森の中に居た。
「お姉ちゃーん!、ルーねえちゃーん!」
呼んでも反応がない。
怖い・・
が、泣いても助けてくれる者はいない・・
アンナは両親が魔王軍に殺されて一人で生きていた事を思い出した。
森で木の実を食べ、小さな魔物も捕まえた。
夢の中でおねえちゃんに会うまで・・
涙を拭き、トボトボ歩き出す。
気が付いて、服に着けていたゴーグルをつけようとして気が付く。
「ケロちゃん。」
ゴーグルに銀のカエルが張り付いていた。
「良かった。
アンナ、一人じゃなかった。」
ガサガサッと茂みが揺れる。
アンナが逃げようと身構えると、
「子供?こんなところに?幻影か魔物の罠じゃないだろうな?」
知らない魔族の若者が姿を現す。
アンナが、警戒していると、
「驚かせたらすまん、ラムザの街に近道しようと思ったら、どうやらダンジョンに入り込んじまったらしいな。
お前も道に迷ったのか?」
アンナは、こくんと頷く。
「泣かずに、えらいな。
よし一緒に行こう。」
若者はアンナを抱き上げた。
「俺はメナス、以前はラムザで冒険者だったんだぜ。」
「アンナもぼうけんしゃだよ。
ハンナおねえちゃんと、ルーお姉ちゃんも一緒。」
「3人でダンジョンに入ったのか?」
「薬草取りに来て、いつの間にかここ。」
「あ~ここは入り口が分かりずらいからなあ。
迷い込んじまったか。
取り敢えず一緒にお姉ちゃん達を捜そう。」
こくんとアンナは再び頷いた。
アンナ
「名前はなんていうんだい?」
「アンナ。」
「しかし、本当に偉いな。
一人で怖かっただろうに。」
「アンナ、おとうさんとおかあさんが魔王軍にころされて、ひとりだったから。
おやまににげて、ずっと一人だったの。
おねえちゃんにゆめで見つけてくれるまで・・
今はハンナおねえちゃんといっしょ、ルーおねえちゃんもいっしょ。」
「待て、魔王軍?
それはどんな奴等だった?
それに、よく見たらエルフと竜人、この魔力・・
この大陸の者じゃないのか?」
「・・・良く解らない。
おとうさんとおかあさんに言われてかくれてた。」
アンナの眼から涙がこぼれる。
「悪い、思い出させたか。
とにかく、そのハンナおねえちゃんと、ルーおねえちゃんを捜そう。
他には一緒に来てる者はいるのか?」
「カーちゃんとラミちゃん、ふたりとも吸血鬼。」
「吸血鬼?狂暴であまり見ない種族だし、日中に?真祖クラスって奴か?」
「しりうすもそういってた。」
「シリウス?懐かしい名前を聞いたな。
そうか、まだ生きてたか。
さて、どうやって探すか・・」
ぴょこんとアンナからカエルが飛び出す。
「ケロちゃん」
「お前の使い魔か?」
「ルーおねえちゃんの、ユニット。」
「?」
突然その形をぺしゃんと失い、質量を増やして銀色の豹の姿になる。
くいっと首を振り歩き出す。
「・・ついて来いって言うのか。」
メナスはアンナを抱き、ついて行く。
ハンナ
ハンナは、はぐれたと分かった時パニックになった。
アンナが、心配だ。
「どうしよう、どうしよう。
アンナ。」
だが、じっとしていてもどうしようがない。
恐らくアンナは、じっとしているだろう。
「アンナ~っ!、ルーシーっ!」
名前を呼びながら歩く。
手には薬草採取用のナイフ。
気配がやってくる。
魔物だ。
身構えた瞬間、肩に痛みが走る。
上から突然襲われた。
豹の魔物だ。
抑え込まれる。
更に茂みが揺れる。
更に豹の魔物。
「アンナを見つけるまで、死ねない。」
抑え込まれた魔物にナイフを突き立てようとする。
後から現れた銀色の豹型の魔物が、先の魔物に襲い掛かる。
「おねえちゃん!」
見知らぬ若者に抱かれたアンナを見た時にハンナは気が抜けて意識が遠のく。
「アンナ・・良かった・・」
合流
メナスは、近寄りハンナの傷を見る。
幸い、浅くは無いが命に別状は無さそうだ。
アンナが、近寄り抱き着く。
・・傷が治ってゆく・・
「回復魔法・・かなりの魔力持ちだと思ったが、そんな魔法迄・・
誰だ?」
メナスは、剣を抜き身構える。
「ほう、たいした魔力だ。
それに、剣の腕も筋がよさそうだ。」
周りの空間を捻じ曲げながら、一人の若い女性が姿を現す。
「ラミちゃん。」
アンナが嬉しそうに言う。
「はいよ。
アンナちゃんは怪我は無さそうだね。
カーミラ、ハンナちゃんの怪我を見てやんな。」
上空から蝙蝠の翼を持ったカーミラが下りてくる。
ハンナの肩の傷を見て、左眼が赤光を帯び、乱杭歯がせり出す。
アンナが、びっくりして怯えると、
「血に狂う禁忌の吸血鬼カーミラ、か。
おい、カーミラ、それ以上は「罰ゲーム」だよ。」
ビクッとして正気に返る。
「イヤーッ!」
近づいて、傷に手を当てる。
傷は跡形もない。
「カーちゃん、ありがとお。」
アンナが、カーミラに抱き着く。
「フフッ、どういたしまして。」
抱き上げて立ち上がる。
「この方は?」
「アンナを助けてくれたの。」
「メナスだ、以前ラムザで冒険者をしていて久しぶりに戻る途中だった。
あんたらがこの子の言っていた吸血鬼か、真祖クラス?そんなどころじゃないな?
それでこの子が姉さんか。
それなら、後一人か。」
「ルーシーかい?あの子なら心配ないよ。」
カーミラも頷く。
「今、出口付近さ。」
「解るのか?このダンジョンが。」
「ああ、典型的な空間歪曲型のダンジョンだね。
出口は一つ。」
「ああ、未踏破扱いなのは、最後にいるボスが強敵で倒し切れない。
幸い動き自体は鈍いので倒さなくても通り抜けられるから、大した被害は出なくて済んでいた。
だが、一人では・・」
「心配ないよ。」
「だが、20メートルを超える巨大な亀の魔物だ。
いくら何でも子供一人じゃあ・・」
「大人と子供の勝負だね。」
「なっ、だから急いで・・」
突然、足元に星空が広がる。
前方に銀色の山が浮かび上がる。
よく見ると巨大な甲羅のある山。
その、全長は300メートル、高さは70メートル。
「キーちゃん、ちょーっぷ!」
ルーシーの声がする。
巨大な前びれが持ち上がり振り下ろされた。
地響きがして、ハンナが目覚める。
歪んでいた周りの景色が元に戻る。
「なっ、文字通り大人と子供の勝負だろ?」
ラミアがニコッと笑った。
メナス
ギルドに戻ると大騒ぎになっていた。
アンナをカーミラが抱き、少しふらつくので、メナスがハンナをおんぶしている。
ルーシーはラミアと手をつないでいる。
「メナス!それに、お前達!無事だったのか。
昨日の晩になっても帰ってこなかったから心配したんだぞ。
お前さん達に注意しようとしていて忘れていた俺も悪かったが、ダンジョン入口の看板が倒れていたので、迷い込んだと分かってな。
捜索隊を今組んでいた所だった。
メナス、お前さんが助けてくれたのか?」
「久しぶりだな、シリウス、それに皆。
近道をしようとして俺も迷い込んでしまってな。
偶然出会ったのさ。
出口のカメは、ルーシーが片付けた。
とんでもない子だな。」
「メナスさん。
ありがとうございました。
もう大丈夫です、降ろしてください。」
「こんな可愛い子だから、医務室までは連れて行かせてくれ。」
「もう!」
ハンナは赤くなる。
ガルドが近付き、
「よう、お帰り魔王様。」
「えっ?じゃあメナス・・魔王メナス様?」
ハンナは気が付き降りようともがく。
「おいおい、暴れるな。
隠してたわけじゃない、本当に俺は冒険者だったんだ。」
「それとこれとは話が別です。
魔王様におんぶさせるなんて・・そんな不敬な事・・」
「じゃあ魔王様の背中で暴れるのは?」
ぴくっと、動きを止める。
「そーそー、取り敢えず医務室に向かうわ。」
「・・・もう!」
シリウスを始め、周りが微笑む。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます