魔王の剣と勇者の剣 第1話
「ルーシーに幸多からんことを」
勇者アンナの手記最後のページ
魔王メナスの最後の言葉・・・
惑星ソル
この惑星はかつて人間による高度な文明が存在した。
が、ある日を境に文明は滅び生き残った人達はその科学技術の殆んどを失った。
そして、今から200年前、突如現れた72名の魔王になすすべなく国を占領されて、各魔王による統治が始まる。
大陸で、魔王の力の及ばない地は無く、只3つの浮遊都市が唯一の人間の支配域とされている。
最も浮遊都市はその都市は大地から見えるものの、浮遊都市と大地に住む者達とは一切交流は無い。
そして、魔王の治める地は魔王同士で戦いをする事は無く、平和が続く。
大陸にはと言ったが、もう一つの大陸には元々魔族が住む。
膨大な魔物と、過酷な自然環境の為過去幾度も隣の大陸に新天地を求め、侵略しようと進軍をしてきたが、72人の魔王達に阻まれてきた。
現在のサンザの若き魔王、メナスが進攻しようとしても、特殊な結界なのか、何故か近づくことも出来なかったのである。
このように全くと言っていい程、大陸間で交流が無いのに互いの国の事が分かるのは、ごくたまにではあるが突然に跳ばされたかの様に人が来ることがあるからだ。
こうして、全く交流が無い二つの、片や72人の魔王が支配する人間の大陸。
もう一方は、魔族、魔物が多く、人間が少数住む、一人の魔王が支配する大陸。
二つの大陸は、ある程度の情報を互いに持ちながら時が流れていた。
72名の魔王が治める大陸の名はローザス。
もう一つの魔族が治める大陸の名はサンザ。
そして、更に少し離れた位置にある未開の大陸オンクス。
そして、その大陸サンザの外れにある小さな漁村より物語は始まる。
ハンナ
漁村の朝は早い。
夜明け前から船を出さないと、漁場で魚が取れるタイミングを逃すからだ。
ハンナは急いで身支度を済ませて、まだ幼い妹アンナが目を覚まさない様にそっと家を出る。
3年前、狂暴な魔物が海から現れて村を襲った。
その時に両親を失ったハンナは天涯孤独になった、筈であった。
ハンナは村が魔物に襲われる少し前から、毎晩不思議な夢を見るようになった。
見た事のない魔王の軍勢に両親が殺される夢・・・
そして、残されるのは一人アンナ・・自分では無いまだ幼い子供・・・
そして、小さな子供の幻が見える様になる。
一人で懸命に生きているであろう幼いアンナ・・・
両親にそれとなく聞くも、笑って否定されそんなに妹が欲しいのかと言われる。
ハンナも、いつしか一生懸命後を付いてくる幻のアンナが可愛く思えていた。
そして、両親が亡くなった日。
泣きじゃくるハンナに、アンナが抱き着いた。
突然、まるで世界がぐにゃりと歪む感覚・・
気が付くと、アンナは実体化していた。
「ねえちゃ・・」
その瞬間から、ハンナは天涯孤独の身ではなくなった。
不思議な事に、ハンナの周りの人達はハンナとアンナは姉妹だと、認識されて誰も不思議だと思っていない様だ。
ハンナだけが、ある日突然妹が出来た事に戸惑いを覚えている。
が、すぐ気を取り直した。
両親が亡くなったのは変わらない。
これから生きていくのは変わらない。
それが一人か二人かの違いだ・・・
漁
村長と皆の助けもあり、これまでは何とか二人で生きて来れたが生活はやはり楽ではなく、ひと月前から村長に申し出て漁に皆と一緒に漁に出させてもらっている。
今頃は、一角が明け方前に村に近付く為、銛を持って船に乗る。
8名ずつ5艘で沖に向かう。
後、20名程は空から漁場に向かう。
空から一人が声をかける。
「いたぞ、200メートル先に50頭ほどの群れだ。」
空から20名が空襲し、一角が弱った所を船から止めを刺して、回収する。
ハンナは、補助魔法で銛の勢いを強化して打ち込む。
自分の銛が無くなると、仲間の銛を強化する。
約10頭程の一角を仕留め、船に縛り付ける。
まずまずの成果だ。
これから冬が本番になり、漁に出る日が限られてくるので今のうちに食料を備蓄しないと、大変な事になるので今が貴重な漁になる。
村に戻ると村長が、
「ハンナのおかげで最近は漁も順調だ。
強化の魔法は、使えるものが少ない。
この調子で頑張っておくれ、お礼だよアンナと二人で食べておくれ。
おそらく、奥さんが焼いてくれたのだろう。
クッキーをくれた。
「ありがとうございます、村長さん。」
ハンナも150歳ほどで、人間なら15歳ほどの年だ。
アンナはまだ20歳過ぎ。
人間でいう3歳児程。
村の皆も何とかしてやりたいが、自分達の生活も豊かではない為不憫に思っているが、なかなか面倒を見てやれない。
分けた肉や皮をもって帰るとアンナが出迎える。
「ねえちゃ、お帰り。
アンナ、ちゃんとおるすばんしてたよ。」
「えらいえらい、はいお土産よ。」
クッキーを取り出して、アンナに差し出す。
「わーごちそう。」
アンナはにっこり笑った。
遭難者
それから数日海が荒れて、漁に出れない日が続く。
ようやく波も収まり、明日からまた漁が出来そうだとなり、ハンナとアンナは、
岩場に向かう。
貝を取りに来たのだ。
うまくいけば、岩場に魚も打ち上げられている。
だが、その日は様子が違った。
船の破片が散らばり、人間の遺体が幾つも打ち上げられている。
嵐に船を急いで出したのだろうか。
冬前なので水温も人間が耐えられる温度ではない。
生き残っている人間など、とてもいないだろう。
その中に5歳ほどの子供もいる。
長い銀髪で、ワンピースを着た女の子・・・
「可哀想に、こんな子供まで・・・」
ふと、女の子が身じろぎをする。
「・・・生きてる、大変!」
少女を背負い、急いでアンナと家に戻る。
途中で村人を呼び、岩場の報告をする。
そして、女性達を呼んでくれと頼む。
交代で体を温める為だ。
火を焚き、お湯を沸かし急いで子供を体で温める。
岩場で子供を助ける為、自分の手足は傷だらけだがそんな事も言ってはいられない。
ようやく子供の体が少し暖かくなる頃ハンナは睡魔に襲われる。
どこからともなく、
「・・・治療開始・・・」
声がする。
そのままハンナは寝てしまった・・・
ルーシー
ふとハンナは気が付く。
どれ程立ったのだろうか?
いつの間にか女の子を挟んで、アンナも一緒になって寝ている。
何故かハンナは、ふと
「三姉妹みたい・・・」
少し嬉しく感じる。
村の女性たちが3人来た。
交代で温めに来てくれたのだ。
「どうだい?様子は・・・」
女の子の様子を見るに体温も戻り、スースー寝ているだけの様だ。
「このままでよさそうみたい。」
「運がいい子だね。
水も飲んでいなさそうだね。」
「目が覚めるまでここで寝かせるね。」
ハンナが女性たちに言った。
「そうね、じゃあ任せるわ。
私達は、岩場の方に向かうわね。
向こうは大変らしいわ。」
「他にも助かった人はいたの?」
「まさか、この子は奇跡みたいなもんさ。
それより遺体を引き上げないと、前みたいに大型の魔物がやって来ないとも限らないからね。」
ハンナの顔色が変わる。
両親を殺した白い巨大な熊の魔物・・
「まあ、向こうは私達に任せな。
あんたはこの子を介抱しておくれ。
アンナも頼んだよ。」
「うん。」
女性たちが出て行った。
ハンナは、服を着てふと気が付く。
傷が無い。
アンナもだ。
「ルーシーが直してくれたんだよ。」
「えっ?」
「ゆめでおはなししたんだよ。
旅してるんだって。
それでね、なかにいるもう一人のおねえちゃんがね、さぷらいずでエネルギーつかいすぎて、すっからかんだってぶつぶついってた。」
「???」
「あと2日くらい目がさめないっていってた。」
ハンナとアンナ
翌朝村長が、遭難者達の埋葬を終えてハンナの家を訪ねる。
「女の子の様子はどうだ?」
「まだ目覚めませんが、容体は安定しています。」
「そうか。
もう一人かろうじて生きていた者がいたが、すぐに亡くなった。
どうやら南から逃げてきた逃亡奴隷の様だが、この子は途中で海上で拾ったそうだ。
見つかった時から、ずっと目覚めなかったらしい。
もしかしたらもう・・・」
「しばらく、うちで様子を見ようと思います。」
「・・・そうか。
もし、目が覚めたら知らせておくれ。
人間だからって悪いようにはしないから。」
「はい、ありがとうございます。」
村長は出て行った。
ハンナは思った。
私とアンナは魔族だが、外見はほとんど人間と変わらない。
ハンナは、右の耳だけエルフの様に長い。
そして、左腕は鱗が生えている。
アンナは、両耳がエルフの様で、左腕と左足が鱗に包まれている。
そして、アンナは信じられない程の魔力を持っている。
ハンナも、自分が強い魔力を持っている自覚はあるが、アンナの比ではない。
両親は生まれつきの村の住人ではない。
父は竜族の血を引き、母はエルフの血を引いている。
この大陸には、エルフやドワーフ、竜人は殆んど見ない。
両親は何も言わなかったが、ハンナでも何か訳ありだったのだろうと思う。
何時か二人は村を出る事になるだろうと、ハンナは思っていた。
そのハンナは、この子は一体何者だろうと思う。
全く魔力は感じない。
しかし、信じられない程の「力」を感じる。
この、「違和感」は何だろう。
ハンナは、アンナに聞いてみる。
「ねえアンナ。
ルーシーは人間?」
「ううん、人間に造られたって言ってる。」
「造られた?」
「うん。」
何故かハンナはその説明を受け入れられる自分にも違和感を覚える・・・
そして、翌日村は、魔物の襲撃を受けた・・・
襲撃
村長の家から、緊急事態の鐘の音が聞こえる。
「女子供は家から出るな!」
「魔物の群れだ!」
「男たちは応戦しろ!村を守るんだ!」
窓を少し開けると、巨大な熊の魔物の群れが、村人を襲っている。
応戦しているが、とても敵いそうにない。
家もいとも容易く壊されている。
一頭の魔物がこちらに向かってくる。
ハンナは、アンナと寝ている女の子に覆いかぶさり、
「パパ、ママ、助けて。」
暫くの時が過ぎる・・・
いつの間にか周囲の音が止み、しんとしている。
そっと窓に近付き、少し開けてみる。
戦闘服を着た二つの人影・・・
長い銀髪をした女性の後ろ姿・・・
二人とも、長い刀を抜いている。
ふとこちらを振り向く。
右眼の中心と虹彩の縁が紅く輝いている。
顔はいまだ目覚めぬ女の子と同じ顔・・
周りには魔物の死体、死体・・
そして、ふっと姿が消えた。
完全に静寂が訪れて、そっとハンナは、外に出た。
最早、生きている者は誰もいなかった。
魔物も・・・村人も・・・全て・・・
目覚め
ハンナは、家に戻るとアンナに、
「生きている魔物はもういないわ、大丈夫。」
ふと気が付く。
女の子の眼が開いている。
右眼の中心と虹彩の縁が紅い右眼・・・
さっき見た二人と同じ・・・
「こんにちは、私ルーシー、世界を旅してるんだよ。」
ハンナとアンナに、にこおっと笑った。
ハンナは、驚く。
アンナの言っていたことは、本当の事だった・・・
「お二人さんルーシーの事を助けてくれてありがとう。」
「すまないね、なんせあたしを迎えに来て調子に乗ってエネルギーすっからかんにしてね、何やっても起きやしないんだから。」
「一応言っとくけど、僕は止めたよ。」
「ワシもじゃぞ。」
突然、ハンナの頭の中に何人もの声が聞こえる。
アンナもキョロキョロしているから同じだろう。
二人の女性の声と、同じく二人の男性の声・・・
最初の女性の声が、
「私達は、ハカセ。この子の補助脳に搭載されたAIを介して通信しているわ。
この子はルーシー。
太陽に中性子星が衝突する運命が避けられないと分かった時、5人の博士によって造られた、人類すべての記憶を持った、生きた墓標。
今はその役目を終え、それでも尚のんびりと世界を旅する「久遠の旅人」と言った所かしら。
いまだかつて、ここまでエネルギーがすっからかんになった事が無いから、いつまでここにいる事になるか分からないけど、暫くこの子の面倒を見てやってくれないかしら?
してくれたらお礼はするわよ。
無理強いはもちろんしない。
あなた達にも悪い話では無いわよ。
この子は強いしね・・・
そのアンナちゃんと貴女位なら余裕で守れるわよ。
但し、戦争に巻き込まれたら、そこまでね。
この子は戦争を嫌う。
すぐに次の旅に出る事になるでしょう。」
「・・・わかったわ。」
「ありがとう。
あなた達には傷を治したときに通信機を着けさせてもらったのと、必要なこの世界の知識と言葉をダウンロードさせてもらったついでに、こちらの知識も少しダウンロードしておいたから。
じゃあよろしくね。
何かあったら、「ハカセ」って呼んでね。
今回は私が表よ。
あ~ようやく出向が終わって、本来の女性人格が出せるわ~うれし~。」
旅立ち
ハンナは、村人達を埋葬する。
ルーシーも手伝い、ケロちゃん、クロちゃんも穴を掘り、遺体を運ぶ。
最初4体のユニットを見た時は驚いたが、この世界ではテイマーの一種と思えば、受け入れやすい。
やがて、埋葬を済ませてハンナは、旅の支度をする。
馬車が村長の家の納屋に在った。
「ケロちゃん、お馬になって~。」
銀毛の馬になる。
積めるだけの食料を積む。
と、ルーシーが星空を広げ、残りの食料をしまう。
同時に、魔物の死骸も取り込むのを見て、目を丸くする。
路銀も集め、最後に今や無人となった村に礼を言う。
「ありがとう。
この村の事決して忘れません、受けた御恩も・・・行きます。」
御者の席にハンナが座り、後ろにアンナとルーシーが座る。
こうして、3人は村を後にした。
盗賊
村を出てハンナは南に在る近くにあるラムザを目指す。
一番近くの大都市だ。
3人で暮らすのは大きい街の方が都合がいいとハンナは考えた為だ。
途中で、小さな村に立ち寄る。
昔、ハンナは一度来たことがある。
村長の家に行き、自分達の村が滅びた事を告げる。
村長は驚き、ハンナ達にここに住むのを勧めるがハンナは断った。
村長は残念がったが、無理強いはしなかった。
只、この先の街道に最近盗賊が出るので、行くのを少し待てとは、注意された。
ハンナは、多少心配したが、ハカセが、
「大丈夫、大丈夫。」
と言うので、村長に礼を言うと村を出る。
村を出ると、ルーシーが
「とーぞく発見。
距離2キロ、8人だよ~。
クロちゃん、レーザーロック、対戦車ミサイル発射~。」
ルーシーから星空が伸び、そこから円筒状の物が跳ね上がると、片側から火を噴いて、直線に飛んで行く。
向こうで爆発が起こる。
そのまま向かうと、もう盗賊は逃げていなかった。
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