薔薇色に乾いてゆけ

めいき~

花束をもってありがとう



   想い出は色あせて、様々な色を放つ。

   だから、輝く刻はLuxuryなんだ。



 人は皆、その手に花束を持っているもの。枯れた花も、破れた紙であっても。両手で抱きしめる事が出来る花束を持っている。それは、百合であれ、パンジーであれ、様々な花がさく。それがサボテンである事もあり、無数の棘が自らに刺さる事もあるだろう。蓄えた水に、救われる事もあるだろう。




 薔薇しかない花束を持つ人だっているだろう。様々な花をもつ人だっている。両手の花束を抱きしめて、水無き日照りを待つことも。夕日に映る花束をもって立つ人の影が立ちはだかる壁に見える事もある。だが、誰かに優しく綺麗な花を増やしてもらい。花束が少し大きくなる事だってある。その花を取り上げられ、踏みつけられることだってある。



 今すぐ、立ち去りなさいと妖艶な声で背中から。今すぐ、歩きなさいと強い声で隣から。今すぐ、立ち上がれと両手で引っ張り上げる人。花束は地面に置かれ、大事なのは想い出ではなく今と叫ぶ人。



 あなたは私のものだといい、恋焦がれる淡い思いでもあり。

 絆と誇り、友情と奇跡、愛の告白と深い尊敬。同じ花に違う色があり、想い出の花が同じでも小さくも大きくも咲く。だから、誰しもが持つ花束は甲乙つけがたく心を揺さぶるものだ。



 それだけが世界にあらず、命は歩けば咲けよう。ここまでだと、声が聞こえるまで。花は増え続ける。雑草であれ、意味なき草木であれ。人はそれを抱え、背負って歩く。寒空の下、白い息を吐いて。暑い日に玉のような汗を零し、それでも小さく背を丸め。ふと、隣をみれば夕日に誰かの顔が照らされて。ただ、無言で立ち上がるとまだ背は丸く。しかし、足を踏みしめて歩き出す。


 勿論、その両手には花束がある。隣の人をみれば、やたら薔薇が多い。私の手元をふとみればタンポポが多かった。これも、選択や運命なのだろうと苦笑した。


 私の手元のタンポポの花びらを一つ触れば、まだみずみずしさを感じるが隣を歩く人の薔薇は随分と枯れていて。


 くしゃりと手に潰されて、握りしめられ風に舞う。儚げにしかし、風にのって薔薇は歌いだす。彩天に昇り、暁を照らす。


「私は生きたよ」隣の人がポツリとそう言った気がした。

 私も思わず「私はまだ生きたい」といい、その時に隣の彼女が私の顔を覗き込む。暫くじっと見た後で、「にこりと笑って、君の花束はまだ寂しいねと自分の花束から数本薔薇をとり、私の花束に足した」


「ありがとう」「私は、もう十分生きたから」そういってお礼を言えば、何処か悲しそうに俯いて返事がかえって来た。


「生きる事にもう十分なんてないけど、私はお返しに一番大きいチュウリップの花を薔薇のお礼に渡す」「私のもってる、一番きれいな花」と笑えば。「乾燥して色あせた、私の花より優しく咲くのねと笑った」


        人は咲き、人は枯れるもの。


 だから、その抱えるものが花束であるように。自身の棺にいれる花束が、如何なるものであろうとも炎に燃えて逝く。ならば、艶やかであれ。質素であれ、その花束こそが自身に相応しいものでなくば。棺すらない、惨めなものとなり果てる。



 白と黒の羽が天を舞い、純白の螺旋階段を昇り。風に流された、干からびた花びらがまるで子供の手を引くように。エメラルドグリーンの瞳に映された、星空の描かれたスカートに両手を空に伸ばし。白いワンピースのフリルが揺れた。


 差し込む光が階段に当たって、今日も流れる紡唄。輪舞曲、鎮魂歌。そして、絨毯の代わりに誰かの薔薇色が今日も螺旋を奏でゆく。



 ようこそ、ここが音の花園。薔薇色の庭園へ。仄かに香る緑の息吹に、心の大空を染めあげて。





  抜けるように羽ばたいていく、人々の魂よ。




 希望も星も手から零れすくい集め。また、何処かへ零れていく。両手に掴んだシルクのカーテンの様に優しくたなびく。それが、誰かの横顔だったと。


 気がつくのは、随分歩いた後だった。気がついた時には、誰かは居なかった。

ずっと、流れていくの。ずっと、行ってしまうの。誓いなんて関係なくて、あの瞬間が忘れられない。だから、その時に伝えよう。薔薇色の花束を持って。



       大好きだよって、それだけ言えばいい。




<おしまい>

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