第12話 祝福
「さあ、これで貴方は救われたわ。」
此処に来て、何年が経ったのだろうか。
3年くらいだろうか、いや、それ以上だと思う。
最初は助けて欲しいと願った、抜け出してやろうと思った。
でも、無理だった。
ずっとずっとずっと。
何時しか心は冷えきって、光を探すのを止めた。
なのに、唐突に救われた。
目の前に現れた銀髪の女性は、さも当然かのように現れ、近づいてきて、私を解放した。
「さあ、私に助けられた貴方には、2つの選択肢があるわ。」
欲しいと思っていたはずの光に、困惑した。
「1つ目、このまま私に助けられて、地上で王国の民となり安寧を享受する。」
ずっと暗い場所にいたんだ、唐突に明かりをつけられても、目が眩んで何も理解出来ない。
「2つ目、剣を手に取り、私達と共に安寧を守る為に戦う。」
あれだけ切望して、私は一体何がしたかったのだろうか。
光溢れる場所で、幸せに生きたかったのか。
無理だ、これ以上何かに照らされていては眩しくて立っていられなくなりそうだ。
「さあ、貴方はどちらを選ぶ?」
彼女は私の前に2つの物を置いた。
1つは硬貨、もう1つは剣。
彼女が私に向ける微笑みは、まるで私の出す答えを知っているかのようだった。
私にすら分かっていないのにだ。
私はどちらを手に取るべきなのだろうか。
幸せになれるのはどっちなのだろうか。
やはり前者なのだろうか。
でも、これ以上眩しいのは御免だった。
誰かに照らされる環境で、生きていける気はしなかった。
生きるなら、誰かを照らして生きていたい。
地獄を知っている私には、天国を守る責務がある。
そんな気がした。
私は剣を取る。
「貴方達と共に、行かせて下さい。」
「そう、私の名前はネシア。」
「貴方の名前は?」
「...忘れてしまいました。」
どんな名前だったとか、とっくのとうに忘れてしまっていた。
「そう...、なら、後でゆっくり決めましょう。」
「名前はきっと大切な物だから。」
自分の手元の剣を見やる。
基本的な形で、剣を持ったことのない私の手にも良く馴染んだ。
「私に続いて詠唱してみて。」
「「神よ、私は世界の為に生きると誓う。」」
「「世界の歪み、安寧の下に満ちる闇、その全てを払うため、私はこの身を捧ぐ。」」
「「御身の剣の一となり、暗黒へと身を投じ、全ての敵を断ち切ろう。」」
「「
「「神よ、どうか応えて欲しい。」」
「「
「「我が刀身に祝福を。」」
何かが、私を認めた。
「「神に感謝を」」
「「『
剣に、祝福が宿るのが分かる。
「いたぞ、侵入者だ!!!」
見覚えのある男達が、部屋に入ってきた。
「さあ、これが貴方の初仕事。」
入ってきた敵対者のことを見向きもせず、私だけを見て言う。
「始めなさい、貴方の救世を。」
□□□□□□□□
「クレイー、ここ臭くない?」
「そんなこと獣人の私の方がよ〜く分かってますよ、鼻が曲がりそうです。」
僕たちは今、王都の地下を流れる下水道の道を歩いている。
「うぅ、何故僕が手伝いに来たタイミングで下水道の調査なんだ。」
「こんなくっさい場所1人だと心が耐えられません、道ズレと言うやつです。」
下水道なだけあって、絵面は汚いし臭いもやばいし。
曲りなりにも組織のボスである僕を、こんな所に連れてくるなんて。
「ん、ちょっと待って。」
「?、何かが見つかりました?」
「いや、違う違う。」
自分の手元を見やる。
「新たな祈りが、届いたんだよ。」
道を示したのは、ネシアか。
「我々は貴方を歓迎しよう。」
「貴方の刀身に、祝福を。」
「祝福を。」
これで君も『千の
世界を護る為、自分の信じる道の為、どうか進み続けておくれ。
「終わったよ、クレイ。」
「では調査再開と行きましょう。」
「と言いたかったのですが、どうやらこの道はハズレだったようです。」
「流石、君の目は優秀だね。」
猫の目は暗い場所でも良く見える。
その中でも、クレイの目は別格だ。
「よし、こんな小汚い場所ちゃっちゃとオサラバしましょう。」
クレイはさっささっさと来た道を帰って行く。
「ねえクレイ、ネシアが王都の地下に何かあるって気づいたの、なんでか知ってる?」
ふと気になったことを聞いてみると、クレイは以外そうな顔でこちらを見た。
「ネシア様から聞いてないんです?」
「え、全然。」
そう不思議そうな顔をされても、聞いていないものは聞いていない。
「そうですね...、ネシア様の見立てでは、明日の朝にはその理由が分かると思いますよ。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます