第7話 ちょっぴりイカれたボーイミーツガール

「───で、今に至るわ。」


ふーん。

そっか、なるほどなるほど。


「...クーン」


「え?」


やばい、ヤバすぎるよこの女。

完全に頭のネジがどこかイッちゃってるタイプだ。

神がどんな存在なのかなんて知らないけれど、神と呼ばれるような奴に喧嘩売るとかどんな神経してんだ。

そりゃ命かかってるなら素直に従う訳にもいかないけれど、チャチャッと脱走すれば良かったじゃない。

もはやその度胸が僕には羨ましいよ。

僕なんて鎧無しでは人と話すことすら怖いのに。


「つまり貴様の両親は...」


「知らないわ、もしかしたら殺しちゃってるかも。」


「う、うむ。」


デスヨネー。

困った、非常に困った。

親御さんの元にこっそり返すという僕の最後の一手が潰えた。

いやさっきまでの話の時点で不可能なことはわかってたけども。


というかそもそも、こんなヤベー女を野放しにするのは世直し的な意味でもアウトじゃないか?

こんなのがいることを知ると、幾ら幼女趣味のボンボンとはいえさすがに可哀想に思えてくる。


「私のことは話したわ、次は貴方のことを聞かせて頂戴。」


「・・・。」


「まず名前は?」


「...『サウザンド』だ。」


「そう、ではその変な恰好は何?」


グサ、グサグサッ


「...我が活動の正装だ。」


「ふーん、カッコイイと思ってるのね。」


グサグサッ


「その変な喋り方はなに?」


「・・・・・。」


「これもカッコイイと思ってるのね。」


なんだ、なんなんだこの女。

僕のことをとにかくこけにしたくて仕方がないのか?

この厨二病のロマンをこれでもかとバカにしたいのか?

そういうことなら僕だって厨二病の端くれとして、徹底抗戦といこうじゃないか。


「ぁ、ぇ........。」


無理だった。

普通に喋ろうとすると 、人見知りが発動して何一つ言葉に出来ないのだ。


「き、貴様に我が神秘を理解出来ないのも仕方あるまい。」


無理だー!!!

厨二病という鎧を来たとしてもなんか言葉が弱くなっちゃう!

というか自分でも何を言ってるのかよく分からないし!!


この女がヤベー人間過ぎて、心の底から恐怖してしまっている自分がいるのだ。

その恐怖が僕に言葉を選ばせている。


「でも、おかしいわね。」


「...何がだ?」


ック、まだ厨二病を侮辱する気か?


「貴方、どうしてそんなに怯えているの?」

「出会った時からずっと、ずっと貴方は私に怯えている。」


「・・・・・。」


「貴方は強い、私が今まで見てきた中でも1番。」

「私よりも強いはずの貴方が、どうして私を見て怯えているのかしら?」


「...鋭いな。」


「ありがとう、でも質問に答えてくれないかしら?」


どうしてか、そんなの僕には分からない。

僕は強くなった、転生者となった僕は赤ん坊の頃から自己鍛錬を欠かさなかった。

才能か、赤ん坊の頃から努力してるからか、転生ボーナスでもあるのか、僕は圧倒的なまでの力を得た。

僕より強い人間なんて、国中を探したとしてもそうそう見つからないだろう。


しかし、どれだけ強くなろうと僕の人見知りは治らなかった。

まるで魂に根ずいた呪いのように思える。

初めて出会う人は怖い。

本気を出せば1秒で始末できる相手だったとしても、僕は怖い。

理由なんてない、ただ恐れてしまうのだ。


「我は、人見知りなのだ...。」


答えになっていないかも知れない。

でもどうして恐怖するのかなんて分からないのだ。

だからこう答えるしかない。


「...っふふ」

「ふはは、ふははははは!!」


不安になる僕に対して、彼女は笑った。


「っちょ!、ちょっとまって....ふふ!」

「あ〜ダメ!、ちょっと面白過ぎるわ!」


人が真剣に悩んでることを...。

今までの会話でも明白になっていたことだが、随分と失礼なやつだ。


「ふふっ、貴方、それだけの力があって人見知りとか、ふふっ。」

「それでそんな変な恰好に変な喋り方なのね、ふふふ。」

「貴方、頭おかしいんじゃないかしら?」


ぷっちーん

僕の中で何かが切れた。


もう十分理解した。

こいつは人じゃない。

人の悩みをゲラゲラ笑い、それを肴に酒を飲むような悪魔だ。

ガチ、人でなしというやつだ。


人見知りは人にするものであり、人でないコイツにするものじゃない。

そう思うと、自分でもびっくりするほど言葉が出てきた。


「頭がおかしい?君にだけは言われたくないなぁ!」

「自ら奴隷になる?そんな頭おかしいことばっかりしてるからいつまでたっても退屈してるんだよ!!!」


初めて言い返した僕に、目の前のヤツは更に口角を上げる。


「あらあら、誰の頭がおかしいって?」

「その歳で盗賊狩ってるような奴に言われたくはないわねえ。」


「はぁ?」

「君だって自分の身内を手に掛けて、人間の風上にも置けないなあ!?」


「それはあの人達の頭がおかしかったからよ。」

「にしても、さっきまでダンマリだったのによく吠えるるようになったわね、ひ・と・み・し・りちゃん?」


「ああそうだよ!!」

「でも君相手に恐怖するなんて有り得ないことに気づいたんだ、だって君は人間じゃない。」

「人間の皮を被った悪魔だ!!」


「あら、それは上手な褒め言葉ね。」

「なんてったって神を殺すなら人間より悪魔の方が向いているだろうし。」


「ムッキー!!」


「ふふ」


それから僕は、前世も合わせた2つの人生で初めての喧嘩をすることとなった。

あんなに腹が立ったのは初めてだった。


僕が声を発せば僕の周りの魔力が荒れ狂い、ヤツが言い返せば僕の魔力とヤツの魔力が衝突した。


その喧嘩は、太陽が昇り始めるまで続いた。


「ック....。」


ヤツは強かった。

とんでもなく傲慢で、とんでもなく饒舌だった。


「ふふっ、残念ながら、口では私の方が強いみたいね?」


今度から、トレーニングメニューに口喧嘩のシュミレーションも入れるべきだろうか...


「はあ、帰ろ...。」


もう日が昇り始めている。

さっさと帰らないとメイドさんが僕がいないことに気づいてしまう。


「ちょっと待って。」


「何?、君が自分のことは自分で出来るのはよーく分かった。」

「どっかに届けたりもしないし好きにしなよ。」


こんなやつを野放しにするのは全幼女趣味に申し訳ないが、もう疲れたので勝手にさせとくことにした。


しかし、ヤツが次に発する言葉は衝撃的なものだった。


「ええ勝手にさせてもらうわ。」

「だから、次のご主人様は貴方よ。」


は?

こいつ、やっぱり頭がおかしい。


「何で?」


「貴方といるのが1番退屈しなそうだからよ。」


「嫌だ、君みたいなヤツ、絶対嫌だ。」


僕は即刻断る。


「貴方、世直ししてるって言ってたわよね?」

「私、役に立てると思うけど。」


「平気で身内を殺すようなやつに世直しなんて頼めるか。」


「そんなしけたこと言わないで?」

「悲しくて何人か殺しちゃうかもしれないわ。」


「・・・。」

「僕を脅しているのか?」


「捉え方次第ね。」


こいつ、ここでヤっちゃうのが正解か?


「あら、それはやめといた方がいいわ。」

「優しい貴方は、それをすれば後悔する。」


「人の考えを読むんじゃない。」


だが、こいつの言うことは的を得ている。

僕は喧嘩中も、1度もこいつを傷つけなかった。

それは中身が腐っていても外見は少女であるのと、こいつが殺してきたのがホワイトとは言い難い存在だからだ。

自分を生贄にしようとした人々、それを殺したことを理由にこいつを殺すことは僕にはできない。

だって少なくとも殺してきた人数で言えば僕の方が多いだろうから。


僕は手に掛ける相手をブラックなヤツというのに絞っている。

こいつがそれを意識していたかは分からないが、僕の価値観で言えばこいつはギリギリのギリでホワイトだ。


「....しっかり、きっちり働けよ。」


僕の負けだった。

こいつに口で勝てないことはさっきまでの喧嘩で分かりきっていることだった。


「ええ、勿論よ。」


とんでもないヤツのご主人様になってしまった...。


「君、名前は?」


「あら、随分と今更な質問ね?」

「私の名前はネシアよ。」


「そ、僕はセン・アレクシス、これからのことは今日の夜考えるから。」

「昼間はテキトーに暇を潰しててよ。」


「構わないわ、今までに比べれば退屈でもなんでもないもの。」



これが僕とネシアの出会い。

後に世界を震撼させる、『千の救世主サウザンドメシア』発足の瞬間である。














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