【人見知りでも世直ししたい!!】〜巷で噂される闇組織のリーダーってもしかしなくても僕だよね!?〜
@nehann40519
序章
第1話 恐怖
僕は究極の人見知りだった。
普通に話すことができる人など両親しかおらず、他の人間とは常に距離を保った。
それは誰とも話したくなかったからじゃない。
怖かったのだ。
僕は誰よりも怖がりだった。
人と話せば嫌われているかもしれないと思った。
後ろに人がいれば刺されるんじゃないかと恐怖した。
エレベーターに他人と乗るのも恐れ、階段を使うことも多かった。
人がとにかく怖かった。
学校なんて魔の巣食う地獄にしか見えなかった。
唯一信じられたのは自分を産んでくれた両親だけ。
両親は僕を心配していたが、無理に学校に行かそうとはせず、頭の良い母が勉強を教えてくれた。
こんな僕でもひとつだけ、誇れることがある。
僕は誰とも遊ばない分、自己研鑽の努力は怠らなかったことだ。
人見知りの味方である動画サイトから、色々なことを教わった。
雑学から、何時使うのか分からない護身術、そして音楽まで。
音楽は家で1人でやれるのが調度良く、色々な楽器を練習した。
多くの楽器を買い与えてくれた両親には感謝しかない。
しかし、両親とて僕をただ野放しに、いや、自宅に放置し続けるつもりではなかった。
いつからか毎日一度は外出するという決まりが出来たのだ。
最初は両親が悪魔のように思えた。
ただ、両親の言いつけくらいは守ろうと思った僕は、毎日1回外出するというルールを守り、いつしかコンビニくらいは1人でも行けるようになっていた。
決して他人とハキハキ喋ることなど出来たことは無かったが、近所のコンビニの店長さんとは顔見知り位の関係になることが出来たと思う。
そういえば、10歳くらいから妄想癖がつき始めた。
簡単に言うと厨二病だ。
頭の中にイマジナリーフレンドを飼い、頭の中の夜闇の下、沢山の戦いを繰り広げた。
イマジナリーフレンドは良い、この僕ですらしっかりと喋ることが出来る相手だ。
それに想像の中で必殺技を習得すれば、エレベーターに他人と乗って襲われたとしても撃退できるんじゃないかとか、少し自信が持てた。
それでも怖くて階段を使ってたけど。
僕は友達の1人もいない人見知りだったがそれでも幸せだった。
音楽をして、動画を見て、散歩をして、近隣住民にビクビクしながら会釈をして、湯船に浸かりながらイマジナリーフレンドと戦って、それだけで僕は幸せだった。
しかし、このちっぽけな幸せも長くは続かない。
16歳になった夏、事件は起こる。
散歩をしてる最中、青信号を渡っていたのにもかかわらず、トラックが突っ込んできたのだ。
怖い、僕は呆然としてしまった。
普段、イマジナリーフレンドを相手にしてる時に迫ってくる危機は、こんなにも怖くなかった。
現実世界の危機は、僕の想像を遥かに超えていた。
運転手の顔が、自分を地獄に送る死神に見えた。
僕に向かってくるトラックが、地獄へ繋がる門のように思えた。
怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
ただひたすらに恐怖した。
足は動かなかった。
何故?
怖いからだ。
尻もちをついた。
何故?
怖いからだ。
腰が抜けた。
何故?
怖いからだ。
じゃあ何故怖い?
自分と同じ人間にすら恐怖するのは、何故なのだ。
自分の命がかかっていても恐怖で動けないのは、何故なのだ。
「僕が、弱いからだ。」
僕が弱いから、僕は他人を恐れた。
僕が弱いから、僕はトラックを恐れた。
僕が弱いから、死を目前として恐怖で身体が動かない。
僕が弱いから、僕は死ぬ。
僕が弱いから、両親は悲しむ。
「来世は、強くあろう。」
来世なんてあるのか分からない。
ただ、残してしまう両親に誓って、来世は強くあろ
う。
強くなって、恐怖を克服できるように。
二度と、大切な人を悲しませずに済むように。
僕は轢かれた。
轢かれた瞬間、頭が真っ白になって、これが死というものかと、実感した。
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